第16話 内々の会議
『そろそろ領地に戻りたいな』とコーテッド達が考えていた頃、女王陛下から召集がかけられた。
とは言っても、王族とレトリバー家の者がほとんどの内内の会議だ。
だが、そこにはリサも呼ばれており、兄上の予想していた通りだなと思う。
コーテッドとラブラは仲直りをしたあと、大事な話をしていた。
「コーテッド、一体、リサは何者なんだ?」
兄の質問はストレートだった。
「信じてもらえるかわかりませんが・・・・・・この世界とは別のところから来たらしいのです」
バカにされるかとおそるおそる答えたが、ラブラは以前とは違い、からかう様子もなく真剣に耳を傾けている。
ラブラは見たことはないが、『特性』のない人はごく稀にいるらしい。
だが『特性』が全くきかない上に、そのものを瞬時に消すことができるというのは初耳だった。
「もしかしたらリサがこの世界じゃないところから来たからこそ、この世界の理から外れているのかもしれないな・・・
父上や兄上にはこのことは話したのか?」
「まさか! このような絵空事、信じてはくれますまい」
ラブラも鑑定持ちだからこそ、この話を信じられるのだ。
いままでのことも鑑みると、冗談ではなくリサは本当に『空からの使者』なのかも知れない。
父や王配は今回のことをどのように収めるつもりなのだろう。
女王陛下はじめ、みんな今のままマルチーズ王子に皇太子でいて欲しいだろう。
だが肝心のマルチーズ王子にまだその気があるのかが鍵だ。
陛下は母親という立場上、究極はどの息子でもいいから次期国王になってくれれば良いと思っているだろう。
マルチーズ王子の出方次第ではスピッツ王子を無理やりにでも皇太子に据えるつもりをしているかもしれない。
ラブラは何とかそれは避けたいが、皆で説得されたら折れるしかないだろう。
それに城下ではパグ様の噂で持ちきりだ。
そのせいで王家に対する不信感が徐々に出始めている。
父達はその噂を吹き飛ばすぐらいの、大きな出来事をわざと作ろうと考えるだろう。
そこで出てくるのがサモエド王子とリサだ。
『空からの使者』のリサとサモエド王子を婚約させれば、パグ様のことなど吹き飛ぶほどの話題騒然になること必須だ。
コーテッドは「そんな・・・」と呆然とする。
ラブラがあくまで予想で話していることなのに、コーテッドはこの世の終わりみたいな顔をしているのである。
「そんなに悲観することはない、ここでリサに特性がないことが重要になるんだ」
王族にとって特性は何よりも大事なことだ。
だから何の特性も持たないリサが王子と結婚するなど不毛なのだ。
「しかも触れると王子の特性まで消すのだから『結婚など不可能です!』と言ってやればいいんだよ」
という風に上手くいくはずだったのだが、父と王配のほうが一枚うわてだった。
「だから形式上でいいんだよ、本当に結ばれなくてもいいんだ。
婚約をしたと華やかな話題になれば皆も喜ぶだろう!
ほら、ほとぼりが冷めたら婚約を解消してもいいんだよ」
そうやって説得する父は、もはや詐欺師のソレにしか見えてこなくなってきた。
コーテッドとラブラは、予想外の父の粘りに面食らっていた。
そのサモエド王子はというと、いくら国のためだとはいえリサや自分の気持ちを無視しての婚約など、はじめはもちろん反対だった。
だがその提案に心が揺らぎだす。
サモエド王子は初めからリサのことを『空からの使者』として信じて疑わなかった。
リサはあっと言う間にこの国の言葉を話すようになり、城内の者たちともすぐに打ち解けた。
あのコーテッドやピンシャーの心までも開かせたのだ。
リサがいるところにはいつも笑いがおこっていた。
サモエド王子はそういう気の利いたことが言えないのでリサが羨ましかった。
それにリサが来てから『サモエド王子の見張り番』と揶揄されているコーテッドがリサのほうに気を取られて、うっとおしいぐらいにべったりと付き添わなくなったのだ。
いままでこんなに自由だったことがあったろうか・・・
解放された王子は自室で間食したり、長椅子に足を投げ出してうたた寝したりと束の間の1人の時間を楽しんだ。
そうするともっと自分の時間が欲しくなってきた。
コーテッドに「リサといると楽しそうで良かったね」と言ったのが、どうにも逆効果だったようだ。
ほったらかしにされて拗ねていると、勘違いされたのだ。
「私はサモエド様といるときが一番幸せです!」と、コーテッドは高らかに宣言し、またしばらく付きまとわれることになってしまった。
サモエド王子は決してコーテッドが嫌いなわけではない。
ただあの過保護っぷりをもうちょっと緩めて欲しいだけなのだ。
お互いにもっと他のことにも目を向けて、高めあえるのがよいのではないだろうかと思っていたので、今は良い距離を保てているのではないかと思っている。
それはリサの出現によって実現されたことだ。
国の憂いのみならず、サモエド王子の心の憂いも晴らしてくれて、まさしく『空からの使者』さまさまだ。
リサがいてくれたら安心する。
王子である自分がいてもあまり気を遣っている感じがしない。
変に媚びるわけでもなく、他の人に接するのと同じように接してくれるのが嬉しい。
空気が重いときは、気を利かせ雰囲気を良くしてくれるのも心強い。
それに自分が知らないことをたくさん知っていそうで興味をひかれた。
それが『好き』という気持ちなのかはわからない。
でも、もし彼女がずっとそばに居ててくれるというなら、もっと自分に自信を持てそうだ。
だから形式上とはいえ、婚約したらリサはそばにずっといてくれることになる。
サモエド王子にとってそれは魅力的な提案だった。
「その条件でしたら、リサが良ければ僕は構いませんが・・・」
サモエド王子の返事にコーテッドは目を見開いた。
「王子がよろしいのでしたら、決まりでいいですね」
父は腹立つぐらい満面の笑みを浮かべていた。
コーテッドは頭をフル回転させて、どうしたらこの婚約を阻止できるだろうと考える。
だが気が焦るばかりで全くいい考えが浮かばない。
一方のリサはというと先程からの怒涛の展開に、全く付いていけてなかった。
どこがどうなってサモエド王子と私の婚約になるわけ?
これってドッキリ??
まさかここに来てからのことがぜーんぶ夢とか!?
『コーテッド様 わたし、王子と婚約するの?』
リサは結びできいてみた。
『それ・・は・・・・・・・・・い・や・・だ』
コーテッドは思わず本音が漏れてしまう。
そのとき名案が浮かんだ。
『今から、結びを使って指示を出すからその通りに話すんだ!
上手くいけば婚約はなくなるかもしれない』
リサは訳が分からないまま、コーテッドの言葉を信じて指示に従うことにする。
『いいかこうだ・・『お前たちいい加減にしろ!』』
『そんな、女王様にお前たちなんて言っていいの? 捕まったりしない?』
『いいから、そのまま一言一句
コーテッドの剣幕にリサは頭に流れてくる通りに言う。
「おまえ たち いいかげん に しろ
わたしは 『空からし 使者』だぞ
えっ? 何て?
かって な こと ばかり いってると この国 に わざ
もう一回? わざわ い もたら して やる〜」
言い終わると、みんな無言でじーっとしてリサを見ていた。
『コーテッド様! ど、ど、どうしてくれるんですか!! みんな怒ってるじゃないですか』
女王陛下はさっと立ち上がり、深々と腰を折る。
その姿を見てみんな同じようにポーズをとった。
「大変失礼なことを申し上げてしまいました。先程のご無礼はお許しください」
許しを乞う女王陛下の声は震えていた。
叱られると思っていたリサは、唖然とする。
『コーテッド様、これって一体どういうことですか?』
当のコーテッドもこんなに上手くいくとは思わなかったので驚いていた。
リサがたどたどしく言ったのが、より『空からの使者』っぽくてより良かったのかもしれない。
「そんな謝らないでください」と恐縮している今のリサとのギャップが、また人知を超えた者が取り付いたかのように見えたようだ。
こうしてサモエド王子とリサの婚約は立ち消えたのだった。
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