第17話 主従の結び 再び
その日の夜、レトリバー三兄弟とリサは祝杯をあげていた。
「マルチーズ様が立ち直られてほんっとうに良かった!」
長兄のゴールデンは心の底からホッとしていた。
その証拠にこれを言うのはもう3回目だ。
気持ち良くお酒を飲んで、ご機嫌だった。
会議のはじめ
マルチーズ王子は合わせる顔がないとずっと俯いたままだった。
その消極的な姿を苦々しい顔でラブラは見ていた。
マルチーズ王子の特性『大胆』は消えそうなぐらいに弱くなっていた。
スピッツ王子はそんな兄に『後継者の証』を差し出したが、「私にはそんな資格はない」と頑なに受け取りを拒否した。
それでもスピッツはマルチーズ王子を熱心に説得をした。
その場にいた全員がマルチーズに自信を取り戻してもらおうと必死だった。
でも王子はなかなか首を縦に振らない。
しまいには「お前がなればいいだろう」と弟に言い放ってしまった。
それに腹を立てたのがペギニース様だ。
立ち上がり側まで行くと、マルチーズ王子を引っ叩いた。
「いい加減に目を覚ましなさい!
あなたの後ろにはこの国の全ての民がいるのですよ!」
ペギニーズはマルチーズ王子の今までの苦悩も、スピッツ王子の心労も知っていたので黙ってはいられなかった。
場はシンと静まり返る。
誰もがマルチーズ王子が口を開くのを待っていた。
そんな中、なんと口を開いたのはサモエド王子だった。
「そんなに兄上達が引き受けないのでしたら、僕がなります!」
突然の宣言に皆が驚いてサモエド王子を見ていた。
先ほどの消えた婚約話のことで、王子の中の何かが変わったのだろうか。
「それで、皇太子というのは何をすればいいのですか?」
サモエド王子はキラキラと目を輝かせてこちらを見ていた。
マルチーズはその言葉でハッと我に返る。
母上が国王になってからずっと皇太子をやってきた。
だが、政権はもちろん陛下達が握っている。
そんな自分は今まで言われたことを、ただこなしてきただけではないか。
皇太子として自ら何かしなければと動いたことがあっただろうか・・・
それなら各領地を治めている弟たちのほうが、色々と熟考し、ときには苦渋の選択をしたりしているのではないだろうか。
皇太子である自分はただ地位が高いだけで、未だ両親の傍にいて守ってもらっている。
皆の中で一番何もしていないではないのか!?
その上、婚約寸前までいったペギニーズにまで叱咤され、目を覚ましてもらうなど私は何て情けないんだ。
王子はやっと顔を上げ前を向いた。
こんなままで言い訳がない!!
「ありがとう、みんな・・・ようやく目が覚めたよ。
スピッツそれにペギニーズ、サモエド」
マルチーズ王子は1人1人と目を合わせた。
「みんなのお陰で私はこの国の皇太子だったことを思い出せたよ」
このようにしてマルチーズ王子はまた後継者としてやっていくことになったのだ。
証も特別にもう一つ用意してくれるらしいし、今まで通りに戻ったのだ。
めでたしめでたしとなった。
余程今日のことが嬉しかったのだろう。
お酒がすすんだゴールデンはいつの間にやらその場で眠ってしまった。
ゴールデンが眠ってしまうと、ラブラは話し出した。
「さっきの婚約破棄はお見事だった、コーテッドよくやった!」
兄に褒められて、コーテッドはとても嬉しそうに頷く。
それを聞いていたリサは口を開いた。
「何で、サモエド王子と私が婚約なんてことになったんですか?!」
「リサは自分の価値がわかってないな〜、『特性』を消せるなんてすごいことなんだよ」
「え、え、私スゴいの?!」
やったー、異世界っぽくなってきたぞー!!
よっしゃ、このまま無双じゃ〜い!
「喜んでいる場合か!お前のその特性はこの国にとって有益なことなのだ。
だから父上たちは、無理矢理にでも引き止めておくために、サモエド王子と婚約させようとしていたんじゃないか!」
建前は2人の婚約でパグ様の噂を消したいからご協力お願いしますよ〜。
本音はとりあえず婚約させてしまえば、リサの特性が手に入る。
『何が何でも婚約破棄などさせるものかー!! えい、えい、おー!』
ってとこだったんだろう。
計算外だったのは女王陛下があんなにも『空からの使者』を信じていたことなのだろう。
どうせ父は毛ほども信じていなかっただろうから、リサを無視してサモエド王子にだけ承諾を取ろうとしていたのだと思う。
リサに対しては『王子と結婚できるなんて、君ホントよかったね〜』ぐらいの気持ちだったのだろう。
女王陛下が腰を折ったら、父の顔があまりにも真っ青になっていたのでコーテッドは心配になってくる。
「父上、今ごろ女王陛下にこっぴどく叱られているかも知れませんね・・・悪いことをしてしまったな」
「いいんだよ、強引にものごとを進めようとした罰だ」
ラブラは辛辣だった。
リサの気持ちを無視していたことに、頭にきているのだ。
「しかし、前もってあんな最悪の事態も想定していたのか?」
ラブラは父があそこまで食い下がるとは思っていなかったので、コーテッドがそこまで考えていたのかを尋ねた。
「まさか! どうにかしないといけないと急にあの場で思いついたのです。
結びを使い『空からの使者』であることをアピールすれば引いてくれるかもしれないと考えました。まさか女王自ら非礼を詫びるとは思いもしませんでしたが」
「ああ、あれそういうことだったんですね!」
リサはコーテッドの説明でようやくあの時のことを理解する。
「でも結びで頭に流れてくることを、すぐに口にするのって難しいですよね。
聞こえなくて何回も聞き直しましたよ」
「お前あのとき、声に出ていたぞ! でもあの「もう一回」と聞き直したのが絶妙なところに入ったので「災いをもう一回もたらしてやる〜」になったから、より怖くて良かったぞ!」
珍しくコーテッドが褒めてくれたのでリサも嬉しくなった。
2人の会話を聞いていたラブラはちょっと頭を捻った。
「コーテッドはリサに主従の結びをさせているんだよな?」
「私もコーテッド様に主従の結びをしてるんですよー」
リサも得意気に言う。
どういうことだ?とラブラはコーテッドに説明を求めた。
主従の結びは本来なら上の者が下の者に行う。
ラブラは素性のよくわからなかったリサを抑制するためにコーテッドがしているのだと思っていた。
だがこの2人はお互いに主従の結びをしているらしい。
そうするとお互いが頭の中で結びを使って会話できるらしいのだ。
だからそんなにすぐに2人は対応できたのかと納得できた。
だったら・・・「失礼しまーす!」
ラブラはとリサの尾骶骨に触れる。
「兄上、またそんな勝手なことをして!」
コーテッドは怒ってラブラの腕を掴んだ。
「悪いな、もう結んだ後だ。
でもこうしておくと何かあったときにリサを助けられるかもしれないだろう!」
ラブラは語気を強くして真面目な顔を作って言った。
その言葉にコーテッドはそうかもしれないと、掴んでいた手を放し謝る。
ラブラはコトが上手く運んだので顔が緩みそうになるのを我慢した。
「リサも俺のを触るように」
リサが「えっ、えっ」と戸惑っているうちに、ラブラは指を掴んで触らせた。
『やあ、リサ聞こえるかい?』
『は、はい』
『確かにこれは便利だね。これなら2人だけの秘密の話もしたい放題だね。』
ラブラらしい言葉にリサは笑う。
『今、兄上が結びで私の悪口を言っただろう。』
『そんなこと言ってませんよ』
リサが答える。
『今、コーテッドが結びで文句を言ってきてるだろう?』
ラブラが絶妙な間で言ってくるから、リサはまた笑う。
『絶対何か言ってるだろ〜!』
コーテッドが子供みたいにそんなことを言うからリサはますます笑い、その笑顔をみてラブラも笑いだした。
コーテッドだけがブー垂れている。
そんな楽しい夜は更けて、その数日後にはみんな各々の領地へと帰って行ったのだった。
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