第14話 ペギニーズ

よたよたと出て行ったゴールデンの姿を見て、コーテッドは「兄上は大丈夫なのだろうか」と呟く。


ラブラはそれよりも、マルチーズ王子が立ち直ることができるのかが心配だった。


スピッツ王子は国王になる気など、さらさらないようで、自分の証を兄に渡せばいいと思っているようなのだ。


小さい頃から国王候補として周りからの大きな期待を受け、たゆまずに努力をしてきたマルチーズ王子の姿をいつも側で見てきたからこそ、スピッツ王子は兄に一目置いている。

そんな兄の為にも、自身は影の役割に徹すると決めたのだった。


だがラブラから見れば、『魅了』だけが唯一スピッツ王子に欠けているところであって、他の特性を見れば3人のなかで一番優秀なのはスピッツ王子で間違いないと思っている。

なぜそこまで『魅了』が国王としての条件なのか頭をひねるところだ。



それに・・・とラブラは今までマルチーズ王子に溜まっていた不満を爆発させる。


あの人が急に「パグ様と結婚したい!」と言い出したお陰で、スピッツ王子はペギニーズ様と婚約することになったのだ。


ペギニーズ様の父シェパード公爵はワンダ王国の実力者だ。

彼はずっと王族と血縁関係を結びたいと思っており、皇太子のマルチーズ様と娘のペギニーズを結婚させるつもりでいた。

機会をみては王宮に娘を連れてやってきて、マルチーズ王子と面会できるように取り計らってきた。

実際に2人はそれなりに仲が良かったそうだ。

なのに青天の霹靂でマルチーズ王子は、庶民のパグ様と婚約してしまった。


怒りが収まらないシェパード公爵は王宮への援助を打ち切ると迫った。

それはとても困る!となって、白羽の矢がたったのがスピッツ王子だったのだ。


ペギニーズ様は特性が表すように『聡明』『判断』ができる方で「スピッツ王子がお嫌ではなかったら・・・」とその場を丸く収めてくれたのだ。


スピッツ王子もそんなペギニーズ様のことがお気に召したようで、2人はゆっくりと時間をかけてお互いに理解しあって今に至っているのだ。

スピッツ王子は『魅了』がないことの引け目を素直に話し、ペギニーズ様も父親にどれだけ翻弄されてきたのかを話した。


それは我を忘れるような情愛ではないかもしれない。

だがそうやって2人は、強固な親愛関係を築き上げてきたのだ。


ペギニーズ様もスピッツ王子の役割をよくわかっていらっしゃって、汚れ役に付き合ってくれているのだ。

本当によくできた女性だとラブラは感心している。

そして、そんな方がスピッツ王子の見方になってくれていることが心強い。



だが、マルチーズ王子のことを知ったらシェパード公爵はスピッツ王子を国王にしようと動くだろう。

前回のことでシェパード公爵の強引さがわかった今、彼が出てくるとパワーバランスが崩れかねない。


だから、今のままマルチーズ王子には次期国王候補でいてもらわないといけない。


でも後継者の証をマルチーズ王子に譲るとスピッツ様は捕まることになる。

全く頭が痛くなることばかりだとラブラはため息をついたのだった。


だけど今はそんなことは忘れて、目の前にいるリサとコーテッドの馬鹿話に参加していたいと会話に耳を傾けた。


「しかし、今まで一緒にいておかしいなって思うことなかったんですかね?」

「だから見た目は女性そのものだったと言ってるだろう!」

そう言われても、その美しい女性の姿を見ていないリサにはピンとこない。


「でも抱き心地は男性と女性では違うでしょ、違和感なかったのかな〜」

「抱き心地って・・・」

思いがけない言葉にコーテッドは少し戸惑う。


「どれどれ〜」

言いつつ、ラブラはさっとリサに抱きつく。

リサは突然のことにフリーズしてしまっている。


「あ、兄上」

コーテッドが2人に割って入った。

「ん、なんだ?お前も女性の抱き心地の確認をしたいのか?」

その言葉にコーテッドは顔を赤らめる。


「違います!そんなことをして、特性が消えてもいいんですか!!」

「べっつに〜。いつも色んなものが見えるのも疲れんだよ!!」


そう言いつつラブラは次にコーテッドに抱きついてきた。

突然のことで今度はコーテッドがフリーズしている。


「やっぱ、全然違うよな〜」

ラブラはコーテッドから離れて、またリサに抱きつく。


コーテッドはむっとしてリサとラブラを再び引き離そうとした。

その時!

ラブラはコーテッドの両手をつかみリサの体を包むように持っていった。


リサとコーテッドは抱き合う格好になった。

その瞬間、コーテッドは特性のことなど頭からすっぽり抜け落ちた。

顔が紅潮していくのがわかる。

それにリサはやわらかくて、その体温がとても心地いいのだ。


「男と女の抱き心地の違いがわかった?」

すぐそばにはラブラがいて、ニヤニヤしていた。


コーテッドはガバッとリサから離れ、咳払いをし、なにか言わねばと必死に考える。


「2人とも私を実験台にしないでくださいよ!」

リサが怒り出した。

「ごめんごめん」

ラブラは軽く謝るが、リサが照れ隠しのために怒ったことぐらい『感知』がなくったってわかる。


君にそんな顔をさせているのは誰なんだろうね・・・

今はまだこの弟なんだろうけど・・・

そのうちに俺だけにそんな顔を見せてくれたらいいのにな・・・


ラブラはその特性のせいで目から入ってくる情報が多くて、いつもうんざりすることが多かった。

だからどうでもいいときは、大抵は目を閉じて、入ってくる情報を遮断している。

そうしておくと夕方ぐらいから悩まされる頭痛がラクになるからだ。


なのに今はどうだろう!

特性が消されたお陰で弟の顔も普通に見れるし、今、弟が顔を真っ赤にしてどんな思いをしているのかも


生まれてからこんなに楽だったことがあるだろうか。

リサがいてくれたら普通の人のように過ごすことができるのだ。


だが・・・・・

そうなるとスピッツ王子にとって何のお役にも立てないのかと、ラブラはジレンマに陥るのであった。

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