第13話 真の目的


パーティーでコーテッドとリサが歩いていたときに『そう言われてみれば確かに自分達は似ているかもしれない』とラブラは

そして会場にいた人たちも2人をではないか。


ラブラは妙だなと感じていた違和感にようやく気がついた。

『絶対的美』を持つコーテッドのことは余程の耐性持ちではない限り、あまり直視できないのだ。


あの時と今に共通すること…

それはリサに触れると特性が消えるのではないか?と考えられた。

だから、みんなはコーテッドを眺めることができたのだ。


だからリサと握手をしたパグ様も、元来の姿に戻ったのだろう!!


コーテッドもその説明を聞いて、やっと現実を受け止めたようだ。

だがパグ様のことよりも「私の従順が〜」と嘆いている。


「私の従順を返せ!」とリサに詰め寄っている始末だ。


そんなものがなくても、サモエド王子に身も心も立派に仕えているじゃないかと、ラブラは思うのだが、コーテッドにはとても大事なことのようだ。


本当に特性は消えてしまったのだろうか・・・

ラブラもリサに少し触れたが、今『鑑定』が使えている。

つまり自分でも気がつかないうちに消えて、すぐに戻っていたのだろう。

「コーテッド、たぶん時間が経つと戻ると思うぞ」


ラブラは実験をするべく、外から人を呼んだ。

やはりリサに少しでも接触すると特性は消えた。

だが数分後には戻った。


「どうして私の『従順』は戻らないのだ!」

エスコートしてからもう随分と経つ。

「お前さっき、リサの肩を掴んでたじゃないか」

そうだったとコーテッドは思い出し、同時に2人はとんでもないことに気がつく。



「「ああーーっ!!!」」

だとするとあのおじさんもパグ様に戻ってるんじゃないのか!!


「リサ、一緒に来い」

そう言って手首を掴もうとするが、コーテッドは特性のことを思い一瞬ためらう。

だが、気をとり直すと、すぐに掴んで走り出した。


走りながら、リサは話し出した。

「一体、どうしたんですか?」

「パグ様がまた前の容姿に戻っている可能性がある」

3人は慌てて取調室に行ったが、パグ様の姿はもうどこにもなかった。



「パグ様なら戻られましたよ」

衛兵たちは笑顔で話してくれた。

牢屋に連れて行こうとしていると、いつの間にかパグ様だったのでそれは驚きましたと話している。


「で、そのパグ様はどこに行った!」

ラブラの声は厳しい。

「え、お部屋に戻られたのではないでしょうか・・」

「誰も付き添わなかったのか!」

責められているような口調に、衛兵たちの笑顔も消えていく。

「ひとりで大丈夫ですと仰られたので・・」

チッとラブラは舌打ちをした。


「今すぐ衛兵を集めて、パグ様をさがせ!

 これは女王様のからの命令だ、必ず捜し出せ!!」

ラブラは大声で指示をだした。


「兄上、女王様の名など出して大丈夫なのですか?」

コーテッドは心配になった。

「そうでも言わないと衛兵たちはパグ様には手を出せないだろう」


だがその日、一晩中捜したのだがパグ様は見つからなかった。

そして同時にマルチーズ王子の後継者の証も無くなったのだった!



あれから数日が過ぎた。


レトリバー家の長兄のゴールデンは、リサにお礼を言いに来ていた。

「この度は、あなたのお陰で助かった」

「私は何も・・・」

実際、後継者の証は盗まれてしまったので、お礼を言われてもリサは居心地が悪い。


「兄上が頭を下げることなど何もありません」

コーテッドはたった数日の間に兄がやつれていることに驚きを隠せない。


「そうですよ、向こうのほうが何枚も上手だったんです」

ラブラも慰めの言葉をかけたが、ゴールデンにとっては右アッパーが決まったように効いた。

「お前があんなにパグ様のことを警戒してくれていたのに、甘く見すぎていた・・・今回は完全に私の落ち度だ」


マルチーズ王子はあまりのショックで熱を出して寝込んでいる。

無理もない話だ。

パグ様のことをとても愛しておられたのに、その存在自体が虚構だったようなものだ。

そのうえ裏切りにもあい、踏んだり蹴ったりだと言っていい。


ゴールデンははじめリサのことを恨んでいた。

彼女が現れなければ、お二人はあのまま仲良くやっていけたのにと。


だがよくよく思い返してみると、パグ様にはおかしなことが多々あった。


宝石やドレスなど華美なものには興味がないので、庶民感覚を忘れず慎ましやかだと感心していた。


「私の唯一の楽しみはこれなんです!」


そう言ってやたらお酒を召し上がるなとは思っていた。

嗜む程度ならと、黙認していたが、最近では近くに行くとあまりにも酒臭くて驚いたことも何度かあった。


そしてパグ様付きの侍女やメイドの離職の高いことが、気になって調べたこともあった。

「体を触られた」だの「押し倒された」だのと話が出てきた。

庶民出のパグ様を妬んで、妙な噂話を流して、パグ様の評価を下げているのだろうと放っておいたのだった。


だがパグ様の正体がわかった今なら、あれは事実だったのかもしれない。

辞めていった者たちには、申し訳ないことをしたと思っている。


『後継者の証』を取られそうになったとコーテッドから連絡が来た時も、パグ様がそれを是非見てみたいと、しつこく王子にねだっていたのも妙に引っかかっていたのだ。

今から思うと盗むために場所の確認だったのかと考えられた。


現にあの夜、パグ様は他の金目のものには一切手を付けずそれだけを盗んでいったのだ。

正体を明かされたから急いで盗み去ったのだろう。

早かれ遅かれ、いずれはこうなっていたのだろうと思う。



しかし問題は山積みだ。

消えた妃は奇病で人前には出られないで押し通すしかないだろう。


現場を目撃した貴族からはあらぬ噂が飛び交っている。

やれ誘拐されたの、男と逃げたの、王子と結婚したいがために捨てた男の亡霊がついたの、もともと皆を騙していただの・・・

ってこれは事実なのだが・・


もともとパグ様は貴族からは嫌がられていたので、言われたい放題だ。

今は標的がパグ様に向いているが、いつそれが王家に向くかわからない。


証を失ったマルチーズ様は次期国王候補から除外されることになる。

スピッツ王子かサモエド王子が次期国王になるのだろう。


子供のときから国王陛下にお仕えするのだと口酸っぱく言われて育ったゴールデンは、自分は今まで何のために頑張ってきたのだろうと呆然とするのだった。


こんなときこそマルチーズ様を支えなくてはいけないとは思うのだが、今まで積み上げてきたものを一気に壊されて、情けない話だが、何から手をつければいいのかわからないのであった。

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