第12話 アンビリーバボー
サモエド王子とコーテッド、それにリサは大広間から離れた別室に連れて来られた。
2人の安全が確保されると、コーテッドは現状を把握するため父のところへ向かう。
逃げるように帰っていく招待客に逆行して大広間に戻ると、先程まで華やかなパーティーが開かれていたと思えないほどにそこは雑然としていた。
衛兵たちと話し込んでいる父を見つけた。
近くにはスピッツ様とラブラ兄上もいた。
「何かわかりましたか?」
「さっぱりわからん。一体、何がどうなっているのやら・・・」
父もほとほと困っているようだった。
衛兵に状況を聞いても、城内に不審者が入った様子もない。
もちろんあの壇上の近くには王族以外は誰も近づいていない。
(リサとコーテッドは別だが)
警備していた衛兵もお互いが見知った者同士だった。
それに依然としてパグ様は姿を消したままだ。
先程の女の格好をした男は厳しく取り調べられているらしいが、何をやっても一向に口を開かないらしい。
業を煮やしたマルチーズ王子をはじめ、ゴールデン兄上や城内の者も総出でパグ様を探しているらしい。
「父上。あの者ですが、パグ様と同じ特性でしたよ」
ラブラが口を開いた。
「ん?どういうことだ? あの男がパグ様ということか?!」
父は話しながら笑い出した。
「ラブラ、いくら特性が同じだからと言ってもそれはないだろう!
美しいパグ様が、あんな小太りのおじさんと同一人物って!ない、ない、ない」
父は自分に言い聞かせるよう呟いている。
コーテッドもラブラに『鑑定』があるのは知っているが、父と同様とてもじゃないが信じられない。
そのとき、ふと、リサがパグ様を見て変なことを言っていたことを思い出す。
そっちの趣味だの、ゴツゴツしてるの・・・
それにあいつ世継ぎができないと、はっきり言い切っていたな・・・
マルチーズ王子とあのおじさんがキスをしている絵が思い浮かんできた。
コーテッドは勢いよくブルブルと首を横に振った。
そんなはずは無い無いと、首を振り続ける。
スピッツ王子はパグ様の次にリサと握手することになっていたので、あの時、すぐ側にいて一部始終を見ていた。
誰かと入れ替わったなどということは、まずありえないと言っていい。
会場が騒然としたので、自分以外には、パグ様の声は聞こえていなかったのかも知れない。
「マルチーズ兄上が『私の妻をどこへやった?」って訊いたら、あのおじさん『私ならここにいます』って言ってたぞ」
スピッツ王子が援護してくれたので、ラブラも追い打ちをかける。
「それに、パグ様と同じドレスなんですよ!!やはり同一人物なのではないでしょうか」
「それに、こんな大人数で探しているのに見つからないのもおかしいだろう」
スピッツ王子がもっともなことを言った。
父とコーテッドはこれだけ言われても納得いかないようだ。
「いや・・」「そんな・・」「ばかな・・」とブツブツ言っている。
父と弟は頑固なところがそっくりだったんだなと、ラブラは思っていた。
あてがわれた自室に帰ると、ラブラは先ほどの出来事を思い出していた。
一体何が起こったのか、あの会場にいても全容はわからなかった。
パーティー中、パグ様には特に変わった様子はなかった。
でも気がつくと不思議なことに、おじさんに変わっていた。
パグ様には強力な『変身』『変化』それに『忠義』の特性があった。
ラブラが2人の結婚に反対したのは、汚れ役というポーズではなく本気だった。
『変身』や『変化』を持っているものは、自分の姿を偽っている者が多い。
知らず知らずのうちに自身が理想だと思っている容姿に寄っていくらしい。
だから生まれてくる子供に同じ特性が備わっていないと、全く違う顔の子供が生まれてくることになる。
そのことで夫婦間に溝ができたとか、親が我が子と認めなかったとかは、聞いたことがあったからだ。
王族でそんなことになれば、揉めること間違いなしだ。
最悪、また王位争いが起こることも考えられるからだ。
兄のゴールデンには、パグ様の特性について話しておいた。
だが愛し合っておられる2人だから、必ず特性も引き継がれるだろうと、実に楽観的だった。
そう特性はお互い愛し合っていればいるほど、子供に引き継がれるというのが定説だからだ。
ラブラは、あのときもっと強く反対すべきだったかなと落ち込む。
しかし、いくら強力な『変身』『変化』があるからと言って、年齢やあそこまで違う容姿(全くの別人と言っていい)その上、性別まで変えられるとは夢にも思わなかった。
「ラブラ様、お客様をお連れしました」
ブスッとしたコーテッドとリサが入ってきた。
あまりにも不機嫌そうな顔つきなのでからかう。
「パグ様とおじさんが同一人物だって認める気になったか?」
コーテッドは返事をしなかった。
不穏な雰囲気を感じ取ったリサが口を開いた。
「さっきは一体、何を騒いでたんですか?」
「何って、見たまんまだよ。
パグ様の魔法が解けておじさんになっちゃった」
冗談っぽくラブラが言うと、コーテッドがギロリと睨む。
「またまた〜、パグ様って最初からおじさんじゃないですか」
リサの言葉にいち早く反応したのはコーテッドだった。
「やっぱり、知っていたのか!どうして教えてくれなかったのだ!!」
コーテッドはリサの両肩をつかみ、グラグラと揺する。
「知っていたって、何をですか?」
最初からおじさんにしか見えていないリサには、何のことを訊かれているのかサッパリわからない。
「だから、パグ様があの、ほら 『んぉ〜さっ〜ん』だったことをだ」
コーテッドはその言葉を口にすると、事実と認めることになるので、ふんわりと表現する。
2人の噛み合わない会話に、ラブラは割って入った。
「リサは、パグ様が女の格好をしたおじさんだって、知っていたんだね」
知っていたもなにも見たまんまじゃないか、とリサは不思議に思いながら、訊かれるままに、今までの経緯を話す。
会場を眺めていたら女装したおじさんがいて、誰もそのことを気にしていないから、スゴいなと思っていたこと。
そして並んだ王族のなかにその人がいたので、驚いてコーテッドに尋ねたら、マルチーズ王子の妃だというから、さらに驚いたこと。
清楚、美しい、理想の女性。
コーテッドが賞賛していたので、もう訳がわからなくなったこと。
「ちっがーーう!我々にはそれは美しい女性に見えていたのだ!!」
勘違いされては困ると、コーテッドは悲鳴に近い声を上げた。
「本当ですか〜。怪しいな〜」
「本当に決まってる! ね、美しい女性でしたよね! 兄上!!」
珍しくコーテッドは取り乱し、あたあたしている。
この2人は面白いな〜と見ていると、ラブラはあることに気がついた。
何とコーテッドの特性が消えているのであった!!
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