第11話 露呈
「おい、女王の挨拶があるから大広間に戻るぞ!」
戻ってきたコーテッドはうっすらと汗をかき、おっかない顔をしている。
リサは何かあったのかと不安になる。
「大変なことになった!!女王がみんなの前でリサのことを紹介するつもりらしい」
「えっ、紹介って、どういうことですか?」
「詳しくはわからん。だが嫌な予感がする・・・」
コーテッドが黙って考え込んでいるようなので、リサはそれ以上何も聞けない。
大広間には、女王はじめ王族一同が壇上のようなところに集まっていた。
そこには、なんとさっきのドレス姿のおじさんがいるのである!
会場は女王の挨拶に耳を傾けているので静かだ。
リサは結びでコーテッドに話しかけた。
『ねぇ、あの目立っている人は誰なの?』
おじさんとは言えないのでふんわりと聞いてみる。
『スピッツ王子の婚約者のペギニーズ様だ!
全く赤いドレスなど着て女王様よりも目立っているではないか!』
先日、コーテッドが報告をしているのに2人がいちゃついていたことを思い出して、忌々しげに答えた。
『違う、その人じゃなくて・・青いドレスの人だよ』
『マルチーズ王子のお妃様のパグ様だ』
『ええええーーっ、王子ってそっちの趣味なの?』
女装のおじさんが妃だなんて・・・価値観ひっくり返されるぐらいの驚きだ!!
『そっちとは何だ!あんな清楚で控えめで美しい人に向かってなんて言い草だ!』
あまりにびっくりしたのでコーテッドの顔を見る。
『な、なんだ!? じろじろ見て』
コーテッドこそが美の見本だと思っていたので、リサの頭は混乱する。
こちらでは美しいの基準が違うのだろうか・・・
『あの人って美しいの? ゴツゴツしてるじゃなくて?』
『どんな目をしているんだ!パグ様こそ理想の女性ではないか!』
理想の女性ってナンダッケ?
みんなが憧れる女性のなかの女性で合ってるよね・・・。
ど、ど、ど、どゆこと?
コーテッド様もそっち側なんだろうか?
『もしかしてコーテッド様もあーいう人がタイプなの?』
『タイプだなどと、恐れ多い。
あんなに素晴らしい女性なのだから王子が一目惚れされるのも納得できるという一般論だ』
一目惚れ。素晴らしい女性。
理解しがたい言葉の羅列にリサは考えるのを止めた。
まあ、好きになるのは人それぞれだから仕方ないよね。
それに第一王子の結婚相手、ましてや次のお妃様なんだから臣下としては、そりゃすごく褒めるよね。
無理やり自分の中で着地点をみつけて納得させる。
『でも、お世継ぎはできないから大変そうですよね』
『そればっかりは時間が解決してくれるだろう』
『何言ってるんですか、そんなもん時間で解決できるわけないでしょうが!!』
強めにツッコミを入れると、ムスッとしたコーテッドと目があったのだった。
「みなさん、この国に素晴らしい方がいらしているので、是非紹介させて下さい。シクラアリサさんよ」
女王の言葉に、会場にいた人達は歓声を上げた。
『頑丈な女神』の名を持つ人物がどこにいるのだろうと、きょろきょろと辺りを見回す。
睨み合っていたリサとコーテッドは驚いて女王の方を見た。
「はぁ〜、やられたな」
コーテッドはため息をつく。
これでリサは『空からの使者』として皆に認められることになるだろう。
『仕方がない、行くぞ!』
コーテッドは腰を折ってリサの前に手を差し出す。
『どーしたの!! 具合悪いの?』
『エスコートして女王のところまで行くんだ!いいから手を出せ!』
リサが手を合わせるとコーテッドは進み出す。
男女問わずその美しさで崇高されているコーテッドがエスコートする女性というだけで、リサの価値はどんどん上がって行く。
皆、うっとりと歩いていく2人を見つめていた。
『名前の訂正したほうがいいんじゃない?』
『今さらそんなこと言えるか!女王に恥をかかすわけにはいかないだろう』
『大丈夫かな〜』
リサは不安だった。
『いいか、無駄口きくなよ。ニコニコ笑っときゃなんとかなる!』
主従の結びでこんな会話をしているなど、会場の誰も気がついていないだろう。
リサは登壇し、女王のそばまで行く。
「彼女は『シクラ アリサ』さん。
言い伝えの『空からの使者』です。そして我がワンダ王国の危機を救ってくださった方よ」
女王はリサと固く握手をし、ハグまでしてきた。
ワンダ王国の危機については詳しくは話さないが、盛り上がっている会場では誰もそんなことを気にしていなさそうだ。
王族の皆がリサのところに寄ってきて一人一人握手していく。
王配、マルチーズ王子、そしてパグ様。
パグ様は近くで見ると完成度が低めの女装だった。
がっかりだ・・。
無精髭まで生えてるなんて!言語道断だ!!
友達の優ちゃんならこれで1時間は文句を言うことだろう。
それを聞かされているせいか、リサも女装には厳しい。
地球じゃみんなもっと気をつかってるよ。
体毛だって体中ちゃんと処理してるし、メイクも私なんかよりもずっと時間をかけて丁寧にやってるよ。
心の中でダメ出ししながらも、にっこり笑顔で握手する。
その時、会場でどよめきが起こった。
女性の悲鳴があちこちで聞こえ、男性が大声で衛兵を呼んでいる。
王族のみなが目を見開いて、パグ様を見ていた・・・
「貴様、何者だー!!」
マルチーズ様の怒鳴り声で、控えていた衛兵たちがパグ様を囲った。
王配に寄り添われて、急いで連れ出される女王様。
会場では気を失う女性たちも現れ、なにがどうなっているのかリサにはさっぱりわからない。
「リサ、大丈夫?」
サモエド王子が側に来ていた。
「マルチーズ様、これは一体どういうことなのでしょう?」
パグ様も訳がわからないようだ。
「黙れ。私の妻をどこへやった!」
「私ならここに」
その言葉にマルチーズ様の怒りはさらに加速する。
「私だと!気持ちの悪い!女の格好などして、どういうつもりだ!!」
パグを返せとパグ様の胸ぐらを掴んでいる。
どーなってんの?
パグ様にパグ様を返せって何かの冗談?
何だかよくわからないまま、パーティーは後味悪く終わったのだった。
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