『色んな人に神様を知ってもらおうマーチ』
結局働く
最初の町『モゾ』についたのは昼前だった。
交易の基地になっているのかそれなりに華やかな町並みに反して出迎えるのはヒマなご近所さんだらけだった。彼らの案内の元、中央の大通りを通って町を横断し、反対側の端、郊外に目的地の『聖モゾ教会』はあった。
真新しい石造り教会、ピカピカの看板、だけども周囲は寂れていて、華やかとは程遠い、むしろスラムに近い様相だった。
整備も届いてないらしく、雑草生えてる石畳にドチャリ、ウォルは背負っていた木箱を置いた。
滴る汗、上下する肩、口から吐き出される嗚咽、そして唾を飲み込み、愚痴を吐き出す。
「中の方が何倍もマシだった」
置いた木箱に両手を突き、辛うじてへばりこんでないウォルへ、同じ荷物を背負いながら軽快な足取りでピコー、満面の笑みを浮かべて側による。
「どうしたのかねウォル君、元気がないじゃあないか」
「当たり前だろ? こっちは長い間狭いとこ閉じ込められてて歩き慣れてないんだよ。それをいきなりこんな歩かしやがって。虐待だ虐待」
「だが君はやり切ったじゃないか。そして口も動く。パロス様はかつて仰っていた。神は超えられない試練は与えないのだ」
「神じゃなくて、お前らがやらせてるんだろうが。人の足元見やがって、いや首輪か? 今時の奴隷だってこんな肉体労働やってないって俺だって知ってるぞ。それをなんだよこのクッソ重いのは!」
愚痴りながらウォルが蹴るとガチャリと音がなる。
「大切にしたまえ。中身は割れ物、君が運んできたのはこの地で配る支援物資だ。非常食とか薬とか、必要とされているものなのだ」
「なんでそんなもん人力で運んでんだよ。馬車あんだろ馬車、ほらーあれ、アレに運ばせろよ。俺じゃなくてもわかるだろこんなもん」
掠れ声出しながらウォルが指差す先にはここまで随伴してきた馬車が五台、並べて止められ、同じく同行してた修道士たちが何やら荷物を降ろしていた。
「アレなんだよ。積むのクッソ重かったが」
「あぁアレはこれから配る本、いわゆる聖書だよ」
「あ? あんだけ苦労させて何、聖書だ?」
「力ある馬車がより重く、そして大切なものを運ぶのは理にかなっているだろ?」
「かなってないだろ。ただでさえ面倒な旅だってのに、本とか、一番いらないものをわざわざ運ぶとか。置いてけよそんなの」
「神の教えを広げ、伝えるが巡礼の目的、そのために汗水垂らす労働、この苦労、美しいじゃあないか」
「お前らの目的はそうかもしれないが、俺が呼ばれたのは護衛だ。それすら了承した覚えがないってのに好きかってこき使いやがって、茶会の片付けに芋の皮むき、無駄だった馬車への積み込みに延々に聞かされる聖書の朗読、やっと眠れたかと思えば叩き起こされて出発、歩かされて運ばされて、やっぱり奴隷だろこの扱い」
「パロス様が宣教に専念できるよう、瑣末な雑務から守る。これも護衛だよ」
「命狙われてんだろが! だってのにこんな奴隷労働でいたずらに体力奪われて、悪いが肝心な時の動けないからな。これでダメでも俺に文句言うなってかその肝心の護衛対象どこ行きやがった?」
「パロス様なら早々に馬車からお降りになられて、早速仕事をなさっていますよ」
「は? 肝心のあいつここまで散々馬車で楽しときながら、更に神様会話ごっこでサボりってか? 聖女様は楽でいいなおい」
「ウォル君、君は二つ間違えてる。一つ、祈りとは、信仰とは仕事ではなく生き方そのものだよ。そこに金銭を求めたりはしてはいけないのだ」
「戯言。それならの馬車も大荷物もあの聖書とやらも穴掘ったら出てきたわけだ。おぉこれぞ奇跡だ」
「奇跡はそんな安いものじゃあない。これらの出所は大半が寄付だ。馬車も善意でお借りしている。しかし全部じゃあない。少なくとも君が背負う荷物は。聖女様が稼いだお金で買ったものだ。そのお金を稼ぐための仕事、パロス様の仕事とは癒しだよ」
「あーはいはい。そういうやつね。スピリチュアルとかいう詐欺、心弱ったとこに付け入るやつ。儲かるのは俺も知ってる」
「そうじゃない。君はパロス様を何だと、いや口で説明してもわかるまい。丁度良い機会だ。ついてきたまえ、聖女様の聖女様たる所以を見学させてもらおうじゃあないか」
そう言って手招きするピコーに、ウォルは一度呼吸を整えてから背を伸ばす。
「その荷物も置いてちゃダメだろ? これからパロス様はそれを必要としているのだ」
言われ、踏み出してた足を止めるウォル、ワナワナ指を動かし声にない悪態を吐き出してから、下ろした荷物を背負い直した。
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