第13話 サイコキラーのセシル


 第一再開発地区はほぼ更地だった。これからいざ開発が始まろうとしていた時だというのに、血だまりに沈んでいた。真っ赤な更地は元からその色だったのではないかと思えるほどに映えていた。世界が揺らぐ。そこは人が立ち入ってはいけない人外の空間。鼻が曲がりそうになる。直視出来ない。そこには食い散らかされた肉塊が積み上げられていた。まるで祭壇のように。


「……姿が見えないっすね」

「祈りでも捧げてるかと思ったんだが、案外チキンな奴らだね」

「ここまで派手な事しといて逃げられると思わない事です!」


 セシルが匂いを辿る。そして指さす。


「奥です!」

「鬼が出るか蛇が出るか……」

「ジャポネーゼコトワザか! いいね、デーモンが出てもサーペントが出てもどんと来いだ!」


 肉塊の奥へと進む。そこは暗闇だった。肉塊で出来た洞窟。居心地の良いところではない。先を進む程、血の匂いが濃くなっていく。奥から。『助けて、助けて』と声が聞こえて来る。そこには九体分、計十八の眼の光があった。


「行きます!」

「オラオラ行くぜ行くぜぇ! ぶっ放せぇ!」

「なんでこう女性陣ばっかり血の気が多いかなぁ!」


 血の海を泳ぐ三人。ロケットランチャーを両手にルーガルーどもを吹き飛ばして行く。そんな爆炎の中を駆け抜け、ルーガルーを切り裂いていくセシル。そうして二人が散らされた眷属たちの心臓を、後方から的確に撃ち抜いていくブレーズ。

 三人は十数体のルーガルー相手に無双している。

 大量に浮かぶドゥ。不気味なそれが十個ほど虚空に消えた時だった。

 笑い声が響く。それはルーガルーたちの笑い声だった。残り十体もいないはずなのに。不利に立たされているのに。何故か笑っている。


『王位の復活は近い! 王位は眼前に!』


 そう叫んで、獣たちは霧散したドゥの字を残して……。


「自滅した……? どうして……?」

「分からん、だが洞窟が崩れようとしている。一旦出るぞ」

「……おかしいです」

「セシル? 一旦出ようぜ?」

「……はい」


 そうして三人は崩れゆく洞窟、そして第一再開発地区から出て来た。そこは大穴となっていた。


「第一再開発地区全域が奴らの血肉で出来ていた……? その気になればいつでも相打ちに出来たんじゃ……」

「ま、人外の考える事なんて詮索してもしょうがないさね」

「課長、本気で言ってるんですか?」

「どしたん、セシルちゃん」


 セシルが殺気立つ。そしてある一点を指さした。それは――


「ほにゃ? 私?」

「ほにゃってなんだ。ほにゃって」

「ちゃちゃ入れないで下さい先輩」

「えっ、どうしたセシル。なにこのマジな流れ。とりあえずのお疲れ様会じゃないの」


 困惑するブレーズを他所に、セシルの瞳は真剣だ。ダミアンはというと。


「ふーん、せっかく生贄が捧げられたのに、こんな早くバレるとは思わなかったよ、なり損ないちゃん」


 そう言い放ったのだ。

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