第8話
将人だ。あそこに将人がいる。山の中に、杉の森の中に。
あいつのせいだ、何もかも。あいつの、せいだ、何もかも。
おんあおおおあいああおんあおおおあいああおんあおおおあいああおんあおおおあいああおんあおおおあいああ……
おんあおおおあいああ……こんなところはいやだ、こんなところはいやだ。
祐実の声が聞こえる。こんなところはいやだ、こんなところはいやだ。
あいつは嫌いだった、この場所が。離婚して戻ってきた伯母のせいで、この町を嫌いになった。それまでは、祐実は祖母と二人でしあわせに暮らしていた。
俺のせいだ。俺が何もしてやらなかったから。祐実に手を差し伸べてやらなかったから。一人だけ勝手に東京に行って、彼女を作って、祐実の助けを求める、逃げる先を求める君の叫びを、なかったことにしてしまったんだ。
千夏を思い出す。必ず埋め合わせをすると約束した彼女。今ここで倒れたら、彼女は泣いてくれるだろうか。泣いてほしい、俺はそう思う。
「将人!何してるの!」母の叫びが聞こえた。何してるも何も、俺は祐実から逃げている。俺はあんなに仲の良かった幼馴染から逃げている。
母は猟銃を持って外に出てきた。
ああ、終わった。
母は撃つ。何発も、何発も。
祐実が乗ったグライダーは堕ちていく。どこまでも深い場所まで、たった一人で。
伝説が悪いわけじゃない。俺が悪い。きちんと向き合わなかった俺が、あいつを無視した俺が、自己中な俺が。
「将人、大丈夫かい?怪我はない?」優しい声で、母は問うた。
「そんなことより、祐実が……」
「あれは、こうなる運命だったんだよ。まだ十七なのに、あの実を食べちまったからね。」
「どういうことだよ。母さんが祐実を殺しておいて、運命だなんて、そんな、おかしいだろ⁉」
「仕方ないんだよ。わかった、全部説明するよ。
お前は普通より早く洗礼を受けているから、大丈夫なはずだ。
もし何かあったら、母さんは巫女の洗礼を受けているから、息子のお前を助けてあげられるからね。」
母さんは訥々と語り始めた。この町の伝説の真実を。君を殺した俺が、俺が暮らした町を染めていた真実を。
俺は聞いている間、涙をこらえるので必死だった。話が終わると、俺は思い切り叫んだ。その背中を、母さんはずっと、さすり続けてくれた。
よかっただよ、祐実、千夏、母さん。この町に生まれてよかった。
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