第3話

 将人からの返信はたった一言だった。

「どういうこと?」

「とにかく帰ってらっしゃい。そしたら必ず説明するわ。」

「了解」

 スタンプを送ると、下着を身に着け、ジーンズとシャツをまとう。千夏にお別れのキスをすると、すぐさま荷物を片手にホテルを出た。

 この時間なら、ギリギリ終電に間に合うだろう。全力で走り、駅を目指す。千夏を抱きしめて眠っていたいのを我慢して、体に鞭を打った。

東京都奥多摩町音羽集落。そこに俺の実家がある。都内なので、距離的には近い。

立川でJRに飛び乗るととりあえず一安心して、気づいた時には夢の中にいた。


夜の居酒屋はとんでもなくうるさい。当たり前のことだから、キレるだけのエネルギーが無駄だ。大学から近くて、しかもそれなりの時給がもらえる接客業に就こうと思ったら、ここしか候補がなかった。昼間はうどんが名物の昭和情緒漂う名店だが、酒なんか提供するからこんなことになる。昼間シフトは大学生には無理なので、必然的に居酒屋タイムにバイトする羽目になった。

「将人、この大きい機械、何?」

「製麺機だよ。ここから薄く伸ばしたうどんの生地を入れるんだ。今から使うから、そこどいてくれ。」

「ああ、なるほど。それでこのケースに出来上がった麺が落ちてくるわけね。」

「ああ、時々テレビで見るあれな。今から明日の分の仕込みするから、そこにいると邪魔。」

「ええ、ひど。じゃあ将人を眺めてよっかな。」

「気持ちわりいよ」笑顔で祐実に言った。

「お前はお前の仕事があるだろ。早くしろって。寝る時間が遅くなるぞ。」

「もう子供じゃないって。何回言ったらわかるのよ」祐実も笑って将人に言った。


 皿洗いは女の仕事。なんて、バカみたい、あの店長。あの頭、何年前から変わってないんだろう。めんどくせえ!


ガッシャーン!

「なんだ?」

「おい!二宮!なにやってるんだ!」店長の怒号が、建物内に響き渡った。

「こんな仕事アホくさくてやってられないわよ」

「給料貰ってる身で何をいうか!割った皿をきれいに包んで捨てる。飛び散った残飯を処理する。全部お前が一人でやれ。わかったな。

 ああ、あと、お前がわざと壊したそれ、器物損壊ってことで弁償してもらうから。給料から天引きしといてやる。」

「わかったなじゃねえんだよこのクソジジイ!」

 祐実が店長に襲い掛かった。首を肘で締め上げ、頭を前後に振り回す。だめだ、あれは間違いなく暴行罪。

 祐実は悶え苦しむ店長を力づくで連れて行った。彼女が立ち止まった場所の前には、製麺機。彼女の目は赤く染まり、店長の顔は真っ赤に塗られている。

 いつの間に使い方を覚えたのか、電源を入れると、生地を入れる場所に店長の頭部を押し付けた。

 店長の声は、次第に小さくなり、そして止んだ。

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