第2話
「ううっ……ああっ……」
「ここがいいの?」
「ああっ!」
早速、千夏をホテルに連れ込んだ。想いを寄せる女性と一つになっているときは、気持ちよくて。何もかも忘れて、目の前に夢中になれる。
大学のレポートの締め切りが近いってことも、昼間、祐実にデートを邪魔されそうになったことも、どうでもいいような、そうでもないような。千夏とキスを交わしがら考えていても、彼女の「女性」を感じているうちに、思考はだんだん弱くなっていく。セックスとはそういうものだ。
一宮将人と二宮祐実。三歳下の彼女は小さいころからの幼馴染だ。家が近く、よく一緒に公園や近所の音羽神社で遊んだ日々は、俺の脳裏に鮮明に焼き付いている。夕日に向かって手を伸ばしたことも、朝日に向かって全力で走ったことも、俺が中一の時、彼女とファーストキスしたことも、何もかも全部、美しい過去だ。
彼女と恋愛関係になったことはない。でも、不思議と、兄妹で恋に落ちてしまったかのように、なぜか口づけをした。理由は、そればかりは、思い出せない。
千夏に苦悶の表情を見られていることを自覚して、慌てて祐実の姿を頭から消し去った。千夏を味わい終わる。薄いビニールをゴミ箱に投げ入れた。
「ねえこっち来て」
「ごめん、ちょっとだけ待ってて。通知だけチェックするから」
千夏とここに来るために試行錯誤していた時、やたらとスマホが鳴いていたのだ。さすがの俺も気になる。
送り主は母親だった。
"落ち着いて聞いてね。
祐実ちゃん家の伯母さんが亡くなったの。警察は呼んでないわ。神社にお願いして、秘密裏に処理してもらってる。
はっきり聞いたわけじゃないけど、おそらく祐実ちゃんが殺したの。
壺の中身を食べたのかもしれないわ。"
祐実が?殺した?
「ねえ、早くぅ」
彼女に急かされる。さっきまで味わっていた千夏の裸体は、今見ても何も感じなかった。
「実家からLINEきてた。なんか、ヤバいことになってる。」
「え、ヤバいってどういうこと?」
「死んだ。」
「は?」
「いや、比喩だよ。終わったっていう意味だ。
でも、とにかく、マジで終わった。」
「だから、どういうこと?」
「それは説明するとめっちゃ時間かかるから。ごめん、すぐ帰る。埋め合わせは必ずするから。」
「約束だよ。」
「祐実、何の騒ぎだい」
おんあおおおあいああおんあおおおあいああおんあおおおあいああおんあおおおあいああおんあおおおあいああ
「祐実や、どうしたんだい」
おんあおおおあいああおんあおおおあいああおんあおおおあいああおんあおおおあいああおんあおおおあいああ
ああ、こりゃあもうだめだ。あれを食べてしまったに違いない。十七歳の祐実にはまだ早い。
音羽神社を中心としたこの村の秘密、あれは絶対に外部に知られてはいけない。人殺しが起ころうとそれは変わりなく、警察を呼ぶことはできない。正規の儀式を執り行ったお婆さんは、神主に電話を掛けた。彼の手で弔ってもらう以外に、遺体を処理する方法はない。
殺人事件は何事もなかったかのように終わった。
そして次に、一宮家の女性である、将人の母に連絡をする。祐実が食べてしまった、と。将人にも、帰ってきてもらう時期が来たかもしれない。男子だからあと三年ばかり余裕があるはずだったが、こうなったら仕方ない。
お婆さんがもう一度二階に上がり孫の様子を見ようとしたとき、彼女は姿を消していた。
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