第5話 実力テスト
「おい!レオ!」
突然誰かに呼ばれた。
振り返るとそこには小学生のころから
何かといじめてくるスライがいた。
スライは家がお金持ちで魔法の英才教育を
受けていたと聞く。
「お前はこのテストに受かるわけないよな?
その白紙を俺によこせ!”パンチ”」
スライが呪文を唱えると
急に重いこぶしを腹に食らった気がした。
「紙がなくなったら合格できないじゃないか
渡すもんか!」
「お前は合格できないんだよ!
”パンチ””アッパー””ラリア”」
武闘派のスライはガタイがいいためか
12歳にしてはかなりの攻撃力がある。
俺はその場に倒れこんだ。
「”サスペンション”」
誰かが、そう唱えると、
スライが停止した。
「この程度の魔法がよけきれないなんて
たいしたことないわね」
起き上がると
そこには黒髪ロングの美少女が立っていた。
「あんた!いつまで倒れてんのよ!
あんな魔法すら防げないなんて素人?」
「えっと・・・ありがとう。
君がスライを止めてくれたんだね。」
「停止魔法は一時的だからすぐに
動き出すわ!」
「お前ら、何ガタガタ抜かしてんだよ!
レオ!お前この女と知り合いか?」
魔法が解けたのだろう。
スライが割り込んでくる。
「あなたねぇ。このテストの意味わかってる?」
黒髪の美少女が俺たちに問いかける。
「意味ってなんだよ?」
すかさずスライが返答する。
「あなたたちの持っている白紙は
ブランチへ行く手がかりよ。」
「それくらい何となくわかってるぜ。」
「なら、その白紙を私の白紙の上に重ねてみなさい」
スライは言われるとおりに彼女の白紙の上に
スライ自身の白紙と俺の白紙を重ねた。
すると、妙な光が輝きだした。
「「なんだこれ?」」
俺とスライの声が重なる。
「本で見たことない?4つの食パンを重ねる
有名な童話なんだけど?」
その時の俺は全くピンと来ていなかった。
「エリア~何やってんの?」
茶髪の少女が黒髪の少女に問いかける。
「マロン!ちょうどよかった!
今から、ブランチへのカギを開けるわよ!
マロンの白紙もここに重ねて!」
すると、まばゆい光で
目の前が真っ白になった。
気が付くと森の中にいた。
俺以外にも、
スライ、そして
2人の女の子、エリアとマロンも
一緒だった。
「ひとまず、ブランチの敷地内には
入れたようね。」
なんでそんなことがわかるのかと思ったら
【ブランチの森】と書かれた看板があった。
また、
【ブランチの正門】↑と矢印が示してある。
「この白紙はみんなに返しておくわ!」
エリアが白紙を渡してくる。
「ありがとう。ところで、せっかくだし
自己紹介でもしない?俺はレオ!・・・」
一通り自己紹介が終わったところで、
ブランチの正門へ向かって歩き出した。
数分歩いていると目の前に
怒り狂った巨大な犬が現れた。
おそらくこの場にいる全員が恐怖しただろう。
俺以外は。
「お、おいレオ!お前ビビってねえよな?」
「まあね。」
実は、俺には怖いものがない。
家族を失って、失うものが何もないからだろう。
事実、いじめを受けていた時も
正直無心だった。
やり返そうと思えば反撃はできたが、
しなかったのは、手加減がわからないからだ。
「エリア!あなたの魔法でどうにかできる?」
「ごめん、マロン!
たぶん1秒も止められないでしょうね」
「俺さ!犬飼ってたから何とかなるかも!」
「あんた!わかってる?
あれはヘルハウンドといって魔獣よ?
普通の犬とは違うのよ!」
「あれより、もう少し大きい犬を飼ってたんだ!
大丈夫!俺がいたら襲ってこないよ!
このハットに”ポチ”の魔力が付いてるから!」
「あんた・・・いや、レオって何者なの?」
「ただの落ちこぼれさ!」
俺たちは唸るヘルハウンドの横を素通りした。
しばらくすると、紫でいっぱいのお花畑が見えてきた。
とてもいい匂いだ。
「うわ~キレイ!」
マロンが感動している間に
スライとエリアが倒れた。
「おい!大丈夫か・・・」
俺も急な睡魔に襲われる。
「”ウェイク”」
マロンが呪文を唱えると急に目が覚めた。
1時間くらい寝ていた感覚だが実際には
5分程度だったらしい。
「みんな!おはよう!」
マロンが元気に挨拶する。
「ん?いつのまに寝てしまったんだ?」
スライの寝起きは不細工だ。
「マロン?私どうしちゃったの?」
「みんなこのお花の魔力で眠気を誘われたのよ!
あんまりいい香りがするからって
香りを楽しんでると深い眠りに落ちちゃうの。」
しばらく歩くとそこは崖になっていた。
下は流れの強い川が流れている。
周囲を見渡すと、今にも崩れそうな
吊り橋があった。
「これを渡るのかよ・・・」
スライが弱弱しい声を出す。
「あんたね、もう少しシャキッとしなさいよ!」
エリアは結構、気の強いお転婆な感じだ。
「エリアの魔法なら渡れるんじゃない?」
「そうねマロン!”サスペンション”」
停止魔法をボロボロな吊り橋にかけたのだろう。
「停止魔法は魔力の消費が大きいから、
急いで渡って!」
俺、マロン、スライ、エリアの順に
吊り橋を渡っていると後ろから
ヘルハウンドが追いかけてきた。
ガルルルルルルッ
「レオ!後ろから魔犬が来てるわよ」
確かに先ほどとよく似た2つの顔を持つ魔犬が
エリアに猛スピードで襲い掛かろうとしていた
その時、
「”パンチ”」
スライの呪文が見事、ヘルハウンドの
右目に命中。
それでも襲い掛かろうとする魔犬に
「”アッパー”」
さらにスライが追い打ちおかける。
「もう、魔法が数秒で解けるわ」
突然の出来事に手も足も出なかった俺だが
気づけば魔犬に立ち向かっていた。
「うわぁぁぁ」
スライが魔犬に吹き飛ばされて
橋を渡り切っていた
マロンのところまで飛ばされた。
魔法が解けたボロボロな吊り橋の上に
俺とエリアは立ちつくしていたが
魔犬の重さに耐えきれなくなった橋が
崩れ始めた。
俺とエリアは川をめがけて落ちてゆく。
とっさに俺はエリアを抱きかかえた。
「”サスペンション”」
俺とエリアが空中で停止した。
「”フロート”」
マロンが呪文を唱えるとゆっくりと
俺たちは浮遊をしながら
マロンとスライのもとへ着陸した。
「はぁ、はぁ・・・2人を浮遊させるのは
しんどすぎるよ・・・」
「ありがとう!マロン助かったわ。」
「ありがとう!マロン!」
「マロン・・・お前、やるなぁ」
スライも感心していた。
「もう、魔力がほぼ残ってないから、
あとはみんなに頼るよ!」
きっとマロンの浮遊魔法がなければ俺と
エリアは今頃、川の魔獣に・・・
想像しただけでも恐ろしい。
あのヘルハウンドが一口で食べられる瞬間を
目の当たりにしていたからだ。
「次へ進もう」
草木が生い茂っている。
ここもブランチの森なのだろう。
「おい!あれ!ブランチ校じゃないか?」
スライが指をさす!
「あと、少しね!頑張りましょう!」
あれから何時間と歩くが
ブランチ校にはたどり着けない。
日もすっかり暮れてしまいま真っ暗である。
「ルーチェ」
スライが光の呪文を唱えつつ
歩き進めるが、マロンはもう限界のようだ。
「もうだめ・・・休憩しない?」
「そうね!夕飯にしましょうか!」
「夕飯って言っても何食べるんだよ!」
「こんなこともあろうかと
サンドウィッチ作ってきたの!
みんなで食べましょう!」
「「姉さんありがとうございます!!」」
なぜかハモる俺とスライ。
「そういえば、実力テストに制限時間
ってないのかな?」
俺がそうみんなに質問すると、
「いや、もってる白紙の大きさが
小さくなってるわ!
この紙が消えれば退学ね。
この感じだと明日の正午が
タイムリミットね!」
マロンが答えた。
「でも、校舎は見えてるのにたどり着けないのは
なぜだろう。」
スライが問いかける。
「魔法でしょうね。幻覚を見せられてる
可能性が高いわね。」
エリアが冷静に答える。
「どうすんだよ・・・」
「夜が明けるのを待ちましょう!
夜は幻覚をみやすいから。
あたしとスライで見張りをしておくから
レオとマロンは先に寝てちょうだい!」
「了解。」
「わかったわ!」
夢を見た。
夢の中で懐かしい老紳士に出会った。
その老紳士は夢で語りかけてきた。
「おぬしはなぜ、魔専を志望する?」
「魔法の良さを世界に広めたいです。
俺は魔法に救われたから。
魔法を学んで、もっと、もっと勉強して
魔法に恩返しがしたいです。」
初対面なのに素直に答えることができた。
いままで誰にも言ったことがないのに
俺のすべてがさらけ出される感覚だった。
目が覚めたら、どこかの建物の中だった。
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