第2話 相談

 〖ペスコーラ〗を出発して、7日で王都が見えてきた。

行きとは違い、途中休憩を挟みながらゆっくり帰ってきたので少し到着がおそくなってしまった。

入口前にはいつも以上の、王都に入ろうとする人や馬車の行列ができていた。


 ちなみに入口は2つあり、1つが一般者専用、もう1つが貴族専用だ。


 アレクは貴族ではないが、伯爵・侯爵レベルの権力があるので、使おうと思えばいつでも貴族レーンが使うことができるのだが、基本的にいつも一般者レーンを使っている。

しかし流石にこの行列には並びたくなかったので久しぶりに貴族レーンを使うことに決め、貴族レーンに向かい歩き始めた。


 すると一人の若い衛兵が俺に駆け寄り、話しかけてきた。


「貴族様でいらっしゃいますか?」


「いや、俺は冒険者だ」


 俺がそう答えると、衛兵は急に口調を変えて


「やっぱりそう思った。そんな小汚い恰好しているやつが貴族のはずないか。こっちは貴族専用レーンだ。冒険者風情は、あっちの一般者レーンにでも並んでろ」


 と話してきた。確かにアレクの服は、〖ペスコーラ〗に向かう途中に付着した泥が沢山ついていたが、小汚いというほどではなかった。

少しイラついたが、衛兵を無視して貴族レーンにそのまま向かおうとすると、彼は剣を抜き先端をアレクへと向けた。


「そこから1歩でも動いたら、お前に制裁を与える!」


 その強気な言葉に、アレクは目を見開き


「ほぉ、俺に武器を向けるのか? だったら仕方がない」


 そう言い、黒剣に手を伸ばした。そのとき


「止めるんだ!この馬鹿者!」


 もう一人衛兵が走ってきて、若い衛兵に言い放った。


「なんで止めるんですか、クリスさん」


「黙ってろ! アレクさん、本当に申し訳なかった...。こいつには後で俺のほうからきつく言っておくから許してやってほしい」


 クリスという衛兵は俺のことを知っているみたいで、頭を下げて謝ってきた。


「クリスさん、なんで冒険者風情に謝ってんですか。こいつは貴族でもないのに貴族レーンを使おうとしたんですよ。罰を与えて当然でしょう」


 若い衛兵はまだ納得していないようで、文句を言い放ってきたが、


「馬鹿野郎! アレクさんはSランク冒険者だぞ。Sランク冒険者は、上級貴族様と同等の権力を持てるんだ。だから貴族レーンを使うことも、認められているんだよ」


 クリスさんの言葉に、彼は顔を真っ青にし


「えっ、Sランク......」


 と呟いた。


「まぁいいや、クリスさんだっけ?入場の手続きしてもらってもいいかな?」


「はい。もちろんです。すぐに行いましょう」


 若い衛兵をその場に残して、アレクとクリスは門のほうに向かって歩いた。だがアレクは急に立ち止まり、後ろを振り返り青ざめている若い衛兵に


「あぁ、名もなき若い衛兵君。僕はね君みたいな横暴な人間が嫌いだ。今回はクリスさんの顔に免じて許すけど、また次武器を俺に向けてみろ。容赦しないからな」


 と笑顔でとどめの一言を放ち、再度門へ向かって歩き出した。


「アレクさん、確認が取れましたので入場していただけます。あと先ほどは部下が失礼いたしました」


「いや、クリスさんのせいじゃないから気にしなくていいよ。じゃあ、お仕事頑張ってね。」


 門をくぐり、その足のまま冒険者ギルドへ向かった。


 ギルド前に到着すると中からは冒険者たちの騒がしい声が聞こえてきたが、アレクが中に入ると一瞬で静まり返った。

見慣れた光景だったので気にせず受付に向かうと、いつも担当してくれている獣人族(兎)の受付嬢のミラが話しかけてきた。


「アレクさん、お久しぶりです。本日も依頼を受けられますか?」


「いや、今日はギルドマスターに話があってきたのだが、今すぐ会えるだろうか?」


「ちょっと待っててください。確認してきますね」


 そう言うと、ミラは階段を上がり確認を取りに行ってくれた。


 1分もしないうちにミラは2階から降りてきて、


「アレクさん、ギルドマスターがお会いになるそうです」


「そうか、ありがとう」


 確認を取ってくれたミラに一言お礼を伝え、アレクはそのまま2階にあがりギルドマスター部屋の前に立った。

3回ほどドアをノックすると、中から「はい、どうぞ」と聞こえてきたので、ゆっくりとドアをあけて中に入ると、大量の資料に囲まれた白髪のギルドマスターの姿が見えた。


「相変わらず忙しそうですね、ダニエルさん」


 〖ダニエル・ミュライト〗王都冒険者ギルドマスターであり、元Sランクパーティーに所属していたほどの腕前を持っている。


「ほんとだよ、くそったれ。もう少しでキリが良くなるから、そこのソファーに座って待っててくれ。」


 アレクはダニエルの指示通りソファーに静かに腰かけた。


 10分くらいしてから、ダニエルは眼鏡を外し両手を思いっきり上に伸ばしストレッチを行い席を立ち、俺の目の前のソファーにどっしり座った。


「待たせたな。で、今日はどうしたんだ?」


「少し相談があるのだが......」


「お前が俺に相談なんて珍しいな。なんか聞くのが怖いけど、言ってみろ」


「俺、冒険者やめようと思っている」


 俺はダニエルにそう伝えた。

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