第3話 退職

 二人の間に少しの間沈黙の時間が流れた。


「ん? 今なんて言った?」


「冒険者を辞めたいと考えています」


 ダニエルは聞き間違いかと思ったが、アレクの口から再度『冒険者を辞める』と聞き驚いた。


「急にどうしたんだ。流石に冗談だとしても笑えないぞ」


「いえ、冗談ではないです。本気で辞めたいと考えています」


「本気なのか...」


「はい」


「そうか。本気なのか。」


 そう呟くと、ダニエルは腕を組み少しの間目を瞑った。

5分くらい部屋の中は物音一つ聞こえないくらい静かになり、その後ダニエルはゆっくり目を開け、


「辞めようと思った理由を聞かせてほしい」


 アレクの目を真っすぐ見つめ問いかけてきた。


 アレクは、ここ数日で起きたことを一から説明し、最後に郵便ギルドに転職することも伝えた。

ダニエルはアレクが説明している間、一度も瞬きをしないで聞いていた。


「そうか。お前さんの気持ちは十分にわかった。」


「ありがとうございます、では退職の手続きをしてもらえますか?」


「それは無理だ」


「えっ、なぜですか?」


「お前さんはもう人類にとってとても貴重な戦力なんだ。やめたいですと言って、はいそうですかとはならないんだ。」


「でも、冒険者ギルドに登録するのと退職するのは自由だった認識なのですが...。」


「基本的にはそうだ。だがそれが認められるのは、Bランク以下だ。Aランク以上の場合、すぐに対応することはできないんだよ。それにここだけの話、各国のギルドマスターで話し合いお前さんをSSランクにしようとする動きが今ある。そんな時にアレク、お前を辞めさせる判断を俺だけで行うことはできない。」


「そうですか...」


「だがお前の気持ちは十分にわかった。だから一旦退職ではなく、休職にしてみないか。」


「休職ですか。確か休職って最大1年間までだった記憶があるんですが」


「そこはギルドマスター権限で取っ払ってやる。だから休職にして、しばらく郵便ギルドで働いてみればいいさ。俺の提案はどうだろうか?」


 アレクは少しの間悩み、


「わかりました。では休職の手続きをお願いします。」


「わかった。少し待っててくれ。」


 ダニエルはそう言うと、アレクを一人部屋に残したまま、部屋を出て手続きしに行った。

5分くらい経ち、ダニエルは戻ってきた。


「手続きやってきたぞ」


「ありがとうございます」


「はいよ。あと休職中でも身分証代わりにギルドカードは全然使えるから、いつも通り使って大丈夫だからな」


「わかりました。ダニエルさん、今まで本当にお世話になりました」


「おう、郵便ギルドでもがんばれよ。あとたまには顔を見せにこい。いいな?」


「わかりました」


 そう言うと、アレクは立ち上がり、ギルドマスター部屋をあとにした。


 1階に降り、ミラさんにもお礼を言おうかと思ったが他の冒険者の対応で忙しそうだったので、そのままギルドもあとにした。



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