1章 転職編
第1話 帰宅
カーテンの隙間から細く差し込む淡い光で目覚めた。
どうやら昨夜は、疲れていてあの後すぐ眠ってしまったようだ。
少し寝ぼけながらもカーテンを一気に開くと、太陽の光が薄暗かった部屋を一気に明るくした。
しばらく両目を塞いでしまうほど強く照り付けた太陽は、寝ぼけていた俺を一瞬で覚醒させた。
部屋を出て階段を下りていくと、父親が、
「おはよう」
と朝ごはんを作りながら、こちらに背を向けた状態で言った。
「おはよう。父さん、昨日は強くあたってしまってすまなかった」
アレクは挨拶を返し、昨日のことを謝罪した。
「いや気にしてないよ、アレクが怒るのはもっともだ。俺がアレクの立場でも怒っただろうしな」
「そろそろ朝ごはんができるから、少し座って待ってなさい」
父に謝罪し気持ちが少しすっきりしたアレクは、椅子に座って朝ごはんができるのを待った。
5分も経たないうちに、こんがりと焼けたフランスパンのような長いパンとクリームシチューが出てきた。
俺は火傷しそうなくらい熱いパンをちぎりシチューにつけて食べた。パンがなくなったあとは、容器の底にたまった具材をスプーンで拾い口に流し込んだ。
10分もしないうちにごはんを食べ終わったアレクは一言、
「今日王都に帰ろうと思ってる」
と伝えた。
「そうか、気をつけて帰りなさい。ただ帰る前にしっかり母さんに挨拶していきなさい」
「うん、わかってる。今から母さんのところいってくる」
そう言うと席を立ち、庭に向かった。
両側に咲いたコスモスをゆっくり眺めながら、少しずつ母さんの眠るお墓に向かった。
お墓の目の前に着いたアレクは、その場で腰を下ろし胡坐を組んで母に語り掛けた。
「母さん、ただいま。久しぶりに帰ってきた気がするよ。
まず帰ってくるのが遅くなって本当にごめん。母さんが苦しんでいるときに、傍にいてあげられなくて本当にごめんね。
冒険者ギルドに高いお金を払って手紙を届ければ、もしかしたらギリギリ間に合ったかもしれないんだけどね......
こんなことなら普段から仕送りをちゃんと使わせておけばよかったって後悔したよ。
まぁ今更後悔しても遅いんだろうけどね...
それで昨日の夜決めたんだ、冒険者辞めようかなって。冒険者やめて郵便ギルドに転職しようかなって。
昨日の俺みたいに後悔したって人は山ほどいると思うんだ。
だからそんな人たちの役に立ちたいなって考えたんだ。
まぁ辞めるにしても、いろいろと手続きとか大変そうだし、周りからも反対されそうだけど、母さんは応援してくれるよね。
ってことでこれから、俺と父さんのことずっとこれからも見守っててくれ。
俺は今日で王都に帰るけど、また近いうち会いにくるわ」
そう伝えるとアレクは立ち上がり、右手でお墓を軽く撫で、花道を通り家の中に戻った。
帰る準備をすぐ済ませ、父さんに別れの挨拶をした。
「じゃあ、俺帰るね。また近いうちに会いに来るから、それまで身体には気を付けて」
「アレクも体調には気を付けるんだぞ」
「わかってるって。あぁ、あと今度何かあったときは必ず冒険者ギルドで手紙をだしてくれ。これだけは約束してほしい」
「わかった。約束しよう」
父さんは約束を必ず守る人間なので、その一言を聞いて少し安心した。
そしてそのまま家を出て、大通りに向かって歩いた。後ろを振り向くと、父さんがずっと手を振っていたので、軽く手を振り返した。
大通りにでて、そのまま門に向かって歩いたが、途中おいしそうな串焼きを見つけたので30本まとめ買いをしてアイテムボックスに閉まった。
3分もしないうちに、門に着いた。すると、
「アレクさん、おはようございます。もうお帰りになるんですか?」
昨日の衛兵がまた話しかけてきた。
「おはよう。あぁ、用はもう済んだから王都に帰るわ」
「そうでしたか、気を付けて帰ってください!」
「ありがとう」
短く会話をした俺は、門をくぐりそのまま王都に向かって走り出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます