第6話 魔女の館
「よしっ、解けたよ。それにしても、この首輪外れないかなー」
首輪を引っ張ってみる。かなり古いのか金具の部分は錆びているし、オーちゃんの首に喰い込んでいて、これ以上は可哀相で引っ張れない。
「……退いてろ」
ヴァルトさんはオーちゃんの首に右手を
「
ヴァルトさんが唱えると、手から光が現れ。
「おおー?」
その光が首輪を包み、ファン! という音と共に、首輪は粉々に砕けた。
「おおー! 魔法だ! 本当に魔法だ! すごいねっ、オーちゃん」
「魔法使いだからな、これくらい朝飯前だ」
「よかったねー!」
オーちゃんの頭を撫でて、おでこをくっつけすりすりした。
「……無視か」
はい、無視です。と思いながら、オーちゃんと一緒にぴょんぴょん跳ねた。
※ ※
それから、三十分くらいかな? 森の中を歩いた。
そして、やっと着いたらしい。けど、思っていた通り、魔法で隠されているのか何も見えない。
館が一軒分くらいのスペースは空いていて、草木なども整えられているのだけど。
「本当にここにあるんですかー?」
疑いの眼差しをヴァルトさんに向けると。
「見ていろ」
ヴァルトさんはズボンのポケットから古そうな鍵を取り出した。そして、それを手の上に載せた。
「
ヴァルトさんの言葉を合図に、鍵が浮き前進した。
「おー」
そして、右に傾くと、カチャという音がして。
「おおー!」
上から見えないカーテンが段々と下がっていくように、館が少しずつ見えてきた。
「すごい! 大きな館ですねー」
「まぁな。だから、部屋は腐る程ある」
「それにしても」
館は
ぱっと見でわかるのは、所々塗装が取れていて、かなり古いということだけ。
うん、そう、廃墟に近い。
そして、家の中のあちこちから、木が生えている。
これは。
「魔女の館そのものだ。魔女のおばあさんが、イッヒッヒー、お前も鍋の具にしてやろうかー。って言ってきそう」
「……」
ヴァルトさんは眉間に皺を寄せた。
あー、また心の声が出ちゃった。どうして、口に出さずにできないのかなー。
「すいません」
「まぁ、でも、間違ってはいない。祖母が住んでいた家だからな」
「なるほど」
「しかし、お前」
ヴァルトさんはぶはっと噴き出した。
「な、何ですかっ」
「魔女が人間を鍋に入れるって、いつの時代の話だ。お伽話でも聞いたことがないぞ」
ツボに
「い、イメージですよ! 魔女のイメージ!」
「それにしたって、イメージ悪すぎだろ。あーあ、ばあちゃんに聞かせてやりたかったな」
涙を拭きながら、ヴァルトさんはまだくくっと笑っていた。
いつもツンツンしているせいか、私より年上だろうに、笑い方が同い年みたいだ。
それに、ヴァルトさんの口からばあちゃんなんて聞くと、なんか可愛い。
「あー、笑った笑った」
「すいませんでしたね。おバカな頭で」
「いや、今頃ばあちゃんも天国で笑っているさ」
「魔法使いさんでも、天国って信じているんですか?」
「その方が、送り出しやすいだろ」
そう言って、今度は寂しそうに笑った。
おばあさんが大好きだったということが伝わってきた。
寂しそうな笑顔を見て、話題を変えなきゃと思った。
「えと……、それにしても、お家どうしてこうなったのですか」
「魔法と植物の研究をしていただけだ」
「で、失敗したんですか」
「いや、成功した、が」
「が?」
「効果がありすぎた」
ヴァルトさんは楽しそうに笑った。
楽しそうに笑う時は幼く見える。今の笑顔はイタズラ好きの少年みたいだ。
「大丈夫なんですか、雨の日とか」
「魔法で塞いであるし、また新しい枝が屋根とかに生えてな、一体化しているから大丈夫だ」
「へぇー」
「入るぞ」
ヴァルトさんが大きな木製の扉を押した。ギギィと音を立て、開いたその先は。
「うーわー」
別世界だった。
広い玄関ホール、正面には大きな階段、それを囲むように楕円状に並んだ大理石と思われるきれいな柱。その柱の間はつる植物でいっぱいだ。
さらに、階段の両脇はお洒落な白い花壇のようなものが二段構造になっている。一段目は水飲み場みたいになっていて、水が溜まっている。二段目には見たことのないきれいな青い花がたくさん咲いている。
さらにさらに、階段の上の窓がステンドグラスで、そこから射す光が、幻想的で植物の良さを引き立てている。
……宮殿か、ここは。そう思ってしまうくらい、蔦だらけの館からは想像できない程、美しい空間だ。
それに何より、一番、目が行ったのが、正面に飾ってあった肖像画だ。
大きな階段を上りその肖像画に近づく。
「この人って、もしかして……」
「ああ、俺の祖母だ」
隣に来たヴァルトさんと絵を見上げた。
老年の女性が歯を出して笑っている。
腰まである長いブロンズに近いウェーブの茶髪。つり目で青みがかった緑色の瞳。紺色のマント。
「ヴァルトさん、そっくりですねー」
「よく言われる」
「え、誰にですか? ここに一人で住んでいるんじゃあ……」
ガターンと、後ろから棒が倒れたような音が聞こえた。
振り向くと、シルクと思われる白いドレスを着た青白い肌の女性が、私を見て口をパクパクさせていた。
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