10話.[肉食系後輩女子]

「お邪魔します」

「おう」


 茜が出かけてしまって暇だからということで玉野家に呼ばれた。

 私としても暇だったから丁度いいと言えば丁度いいけど、少し前までとは違うから気になっていることはある。

 だって、私達はいま恋人同士、ということなんだからね。


「ゆっくりしてくれ、あ、ジュースも菓子もあるからな」

「ありがとうございます」


 選ばれたのは部屋ではなくリビングだった。

 たったそれだけで少しほっとしてしまったのは内緒にしてほしい。

 私は先輩といられればそれでいいからとりあえずはこれぐらいでいい。


「横、座るぞ」

「え? はい、どうぞ」


 座った先輩はこの前のように手に触れてくるわけでもなく……。

 どうしてわざわざ聞いたりしたんだろうと考えていたら「梛月」と呼ばれて意識を向ける。

 あ、このパターンはもしかしたら悪い方に傾くやつかもしれない。

 付き合ってみて二週間は経過したけど、残念ながらそれでつまらない人間だと分かってしまった的な……ね。


「悪いんだけどさ……」

「はい」

「……我慢できそうにないんだけど」


 いやでも、振るなら相手のことを考えて速攻で振るだろう。

 つまりこれは、そういう欲求を抑えられなくなっている、というところだろうか?

 つまり、先輩は私を抱きしめたりとかいっぱいしたいと……いうことなの?


「抱きしめたりしたいということですか?」

「……梛月も意地悪だな」

「すればいいと思います、一輝先輩は彼氏なんですから」


 そうしたらがばっときたからなんか可愛かった。

 試しに頭を撫でてみたら「そ、それはやめてくれ」と言われてしまったけど。

 んー、やっぱりこういうときに茜みたいな武器が存在してくれていたらと少しだけ悔しくなる。

 だって私を抱きしめたところで硬いだけだし。


「……やべえなこれ」

「茜みたいな体はしていないですけどね」

「好きな人間を抱きしめているんだぞ? それだけでやべえよ」


 私が抱きつくだけ抱きついて呆れられる、という展開にはならなかった。

 先輩にはどうやら魅力的に見えるらしい。

 触れられていれば私的にも落ち着けるからいいけど、どうしても抱きしめたところで……と考えてしまう。


「……よく受け入れてくれたよな」

「それはこっちが言いたいことですけど」

「だって四年生の発言をそのまま受け取ってしまうような人間なんだぞ?」

「いいじゃないですか、あのときの私だって適当に好きだと言っていたわけじゃないですよ」


 でもでもだってと引っかかっているみたいだから物理的になにも言わせないようにしておいた。


「な、きゅ、急に――」

「ふふ、先輩は可愛いですね」


 こうなったら肉食系後輩女子になろうかと本気で考えた。

 だって慌てた先輩が可愛いから仕方がない。


「……あの頃から怖い存在だよ」

「あははっ、私は私らしく存在しているだけよっ」


 まあでも、私らしくが貫けなくなりそうだからこのままでいいかなと先輩を見つつそんなふうに片付けたのだった。

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81作品目 Rinora @rianora_

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