09話.[今日も可愛いね]

「稜君って格好いいよね」


 か、格好いい……?

 いや、確かにいい子ではあるけど、可愛いと言うべき存在な気がする。

 あ、でも、稜のことをそういう目で見たことがないから出てくる感想という可能性もある。

 それかもしくは、最近の彼しか知らないのであれば、というところかなと。


「見た目もそうだけど中身も格好いいんだよ」

「中身が格好いいというのはよく分かるわ」

「お兄ちゃんみたいな感じかな」

「確かにそうね」


 意地悪なところもあるものの、基本はこっちを優先して動いてくれる感じだ。

 先輩も稜も可愛い反応を見せてくれることがあるからそこもいい。

 ただ、甘えてくれたり、頼ってくれたりしたらもっといいかなと考えている。

 一方通行は嫌なのだ。

 後輩だからって=として甘えるだけの存在とはなりたくない。


「そんな子が私を優先してくれていると考えるだけでなんか嬉しいよ」

「そうね」

「あ、もちろん、他にしたいことがあったらそっちを優先してくれと言ってあるんだけどね」


 完璧に自分だけを優先してくれなんて言う人はいないだろう。

 なんて、断言できることでもないか。

 どんな人がいるのかなんて全く分かっていないんだから決めつけはよくない。

 まあでも、それでもそういうことを言わない人の方がいいと考えてしまうのは、こっちの方が正しいと思ってしまっているからだろうか?


「茜ちゃーん!」

「あ、稜君だ」


 もう三月になるというところなのに相変わらず学校で稜と会うと不思議な気分になってくる。

 一年に一度しか会えない存在だったからなおさら影響している。

 私だったら敢えて地元の高校を選ばないということはできないけどな。


「ふぅ、見つかってよかったよ」

「なにか用があったの?」

「いや……僕がただ一緒にいたかっただけ」

「そうなんだ、じゃあ一緒に過ごそう」


 え、これって空気を読んで離れた方がいいのだろうか?

 いや、間違いなくそうした方がいいに決まっているから離れようとしたら、何故だか茜ががしっと腕を掴んできた。

 稜は笑って「反射速度で負けちゃったよ」なんて言っている。


「梛月はすぐに逃げようとするからね」

「わ、私はあくまでふたりのために――」

「「いらないから」」

「あ、そう……」


 でも、私だっていちゃいちゃを見たいといったような趣味はないのだ。

 なので、同じ場所にはいるけど違うところを見ておくことにした。

 ついでに考えごとをしてしまえば耳に入ってくることもない。


「今日も可愛いね」

「え、そんなことないよ」

「いや、全体的にさ」


 いや、誰これ……。

 考えごとをしていても貫通してくるそれには頭を抱えることしかできなかった。

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