第三話
気がつくと、明るくアップテンポなクラシック音楽が聞こえていた。
喉が渇いて苦しい。何か飲まなくてはダメだ。そんな耐えがたい喉の渇きで僕は目覚めた。
「おはよう、今日も元気か?」
僕が目覚めるとすぐにもやが話かけてくる。
ああ、また。
また、今日も最悪の目覚めだ。
「よく眠れたか?それで、今日は何をするんだ?」
周りを見る。僕の周りのはもう空のウイスキーボトルしかない。喉が渇いてどうしようも無いのに、残念な事に近くに飲めるものが無い。そうだ、水道なら。いや、ダメだ。水道から水は出るが、ウイスキーは出ない。
仕方が無い。僕はウイスキーを買いに行く事にした。もやの事は一切考えないようにして、その辺に落ちていたくしゃくしゃの服を適当につかむ。その服からは汗とアルコールの臭いがしたが、僕はかまわずそれを着る。服を着た僕は、最低限人前に出られる格好になった。それから財布を持ち、玄関へと向かう。家の鍵はどこかへ行ってしまった。だから、玄関のドアは開けっぱなし。どうせこの家には盗られて困るものなんて何も無い。
玄関のドアを開けた瞬間、肌を突き刺すような冷たい風に全身を包まれ身体が強張った。寒い。外に出るのが久しぶり過ぎて、僕は季節とか気温の事を全く考えていなかった。家ではエアコンのおかげで常に室温は快適に保たれている。外が暑かったり寒かったり乾燥していたり湿っていたり、そういう当たり前の事を失念していた。いつも部屋のカーテンを閉めきっているので今が昼か夜かすら分からない。まぶしくて目が開けられなくなっている事を考えると、今は夜では無いようだ。
久しぶりの太陽光の暴力に僕は完全に負けてしまった。おまけにこの寒さ。心も折れそうになる。もうこのまま家に戻りたい。戻って寝たい。そんな気持ちになるが踏みとどまった。だって、もう、お酒が家に無いから。何度も言うけれど、僕はお酒が無いと生きてはいけない。こんな太陽の光ごときに負けるわけにはいかない。
無理矢理、目を開く。光に網膜が焼かれそうになるがかまわず開ける。僕の目が光の暴力に直に晒され、激痛が走り顔をしかめる。それでも耐える。徐々に、目が光りに慣れて外の景色が分かるようになってきた。
外は、雪が積もっていた。
雪を見たのはいつぶりだろうか?少し考えてみたけれど、全く思い出せない。ずっと昔の話だった気がする。
空を見上げると親指サイズの雪がパラパラと降ってきていた。雪の塊が一つ、僕の頬に当たる。僕の体温でその雪はすぐに溶けた。冷たさだけが頬に残った。
季節感がめちゃくちゃだ。春に野原にハイキングに行くような服装をしている僕には、絶対にこの天気は寒過ぎる。せめて上に一枚何かを羽織りたい。
「でも、もう面倒臭いな」
寒さよりも面倒臭さが勝った僕はそのまま外に出て行った。風邪を引いたところでそんなの些細な問題だ。
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