第7話 理由は後からついてくる
ゴールデンウィークも終わりかけの日曜日。本当は明日も振替休日として休みになるはずなのだが、この間述べたように、
昨日は
こうして日曜日の夜を迎えた。5月の空気は少しぬるくて、扇風機が欲しくなる。でも網戸にすれば幾分かマシになるから、そうして暑さをしのぐ。
世間でのゴールデンウィークは明日までだから、やっぱりまだみんな浮かれているみたいだった。網戸を隔てた外からは、時折若者の笑い声が聞こえる。
埼玉から目白に引っ越して、そろそろ1カ月半くらいか。思ったよりもハードではなかった毎日が連なり、ここまできた。この調子なら、きっとうまくやっていける。先輩方のお教え通り、1年生の時間割が最も過酷という話なら、なんとかここを乗り切れば、あとはイージーな生活が待っているということになる。まあ前提として僕の人生は決してイージーモードとは言えないが、それでも大学が「人生の夏休み」といわれている所以くらいは身をもって知っておきたい。
そんな物思いにふけっていると、突如ケータイが鳴った。普段着信なんてあまり来ないものだから、緊急地震速報かと一瞬勘違いをしてしまう。少ししてから揺れているのがケータイだけだと気付き、画面をおそるおそるのぞき込む。
「
え、何の用?といぶかしみながらも、ちゃんと応答する。
電話をとって5秒ほど、何の音もしない沈黙が続く。それから「僕がもしもしって言うのか!」と気づき、口を開く。
「あー、もしもし」
寺島もそれを聞いて返事をする。
「お、もしもし」
なんかこれだけで会話が終わった気がする。体のどこかがくすぐったいが、努めてなんでもないように振る舞う。
「おう。で、なに」
ぶっきらぼうにそんな言葉を並べた。でも意図は彼女に伝わったようで、話し始める。
「ああ、えっとね、まあサークルの話なんだけど」
この辺で違和感を感じる。寺島にしては歯切れが悪い。もっとサバサバしている印象があったので、ちょっと意外だった。
いや、普段もっとサバサバしているのは事実だ。ということは、今この瞬間だけおかしいということだ。なにか慣れないことをしようとしているのだろう。そこまで思考を及ばせるのは今の僕には難しいけど。
「3人で集まる日、作らない?」
ここで言う3人とは、言うまでもなく、僕、寺島、そして
「ん、まあ僕はいいけど、問題は青葉じゃないのか?」
寺島はしっしっしと不気味な笑いを漏らす。
「もう許可とってありまーす」
「マジか」
「マジ」
正直、かなり意外だった。青葉がOKサインを出したことも、寺島が先に青葉に許可を取りに行ったことも。
「どのみち多数決で強制参加案件じゃん」
「いやあ、満場一致制をとっておりますから」
「あそう……まあ反対する理由もないしね」
強いて言うなら「めんどくさい」だが、そんな利己的な理由は理由とは言えないし、言ったが最後、バッドエンド必至だ。
「おけーい、じゃあ、毎週金曜日ってことでいい?夏休みとかはなしにすると思うけど。てかめぐみんにはもう毎週金曜日って言っちゃったけど」
なにが満場一致制じゃ。僕に許可とる前からもう話進みすぎじゃ。
「ま、そういうことで!3時くらいに集まろう!んじゃ!」
さっき感じた違和感はいつの間にか消えており、いつもの明るい声が届く。耳がキーンとしそうなほど元気な声でそう言って、僕の返事を待たずに寺島は電話を切る。
しまった。定例会を催す理由を聞き損ねてしまった。
まあいいか。きっと、理由は後からついてくる。
この世界を彩るものは 茶碗虫 @chawan-mushi
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