第4話

 そして徹也は、その水晶に触れた。そして、文字が浮かび上がって来るのを待つ。


「……?あれ……?」


「……おかしいですな」


 だが、なかなか文字が浮かび上がって来ない。他の生徒達はすぐに表れたにも関わらず、だ。


「……これは、まさか……」


(……なんで、何も出ないんだ?)


 徹也は何も出ない水晶に対して疑問を抱き、一度水晶から手を離してもう一度触れるが、結果は変わらない。その水晶に映っているのは、徹也の顔だけだった。


「……非常に言いづらいですが……あなたには、才能がないようですな……。水晶に何も出ないということは、そういうことです。」


「……え?」


「う、嘘……」


「才無佐君……」


 優愛、舞、治伽の順にこのような反応をして、徹也を心配する。優愛と舞に至っては涙目であり、治伽は眉が下がっていた。


「……なるほど」


 だが、徹也は驚きはしたものの、絶望することはなかった。何だったら、優愛達よりも徹也は冷静だったのである。


(まさか、俺だけが才能無しとは……。そこまでは予想できなかったが、確かにこれもありがちだな)


 そう。徹也は自分の才能がないことも傾向上あり得ることだと知っていたのだ。クラス召喚で主人公が弱いのもありがちだ。ただし、その後成り上がるというところまでセットだが。


(でも、俺は主人公じゃないし、この世界もフィクションじゃなくで現実だ。現実では、そう上手くいくとは限らない)


 むしろ上手くいく方が難しいと、徹也は考える。それを考慮した上で、この世界で生き抜いて元の世界に帰る為には、どうしたらいいのか。徹也はそのことについて考えを巡らす。


(俺にあるのは、異世界ラノベから得た知識と傾向……。それを元にしてできることは――)


「……才無佐君」


 徹也がそこまで考えていたら、治伽が徹也に声をかけてきた。見ると、すでにマディーはいなくなっており、この空間にはクラスの者しかいなかった。


「す、すまん望月。……あれ?あの人は?」


「マディーさんなら、私達の配属先を決めるために王様や大臣達と議論をしに行くと言っていたわ」


「そうか……」


 徹也は自分がどこに配属されるのかを考える。国は才能がない自分の配属先を決めることに苦労するだろうと、徹也は一瞬考えたが、すぐにその考えを改めた。恐らく騎士団に配属されるだろうという結論に、徹也は至った。


 なぜなら、それが一番死ぬ、もしくは殺せる確率が高いからだ。弱い主人公は最初、追放されるか死にかけ、そこから成り上がってくることが多い。


 徹也は、自分は主人公ではないので成り上がれることはないが、追放と暗殺はあり得る話であると思う。この国は数々の問題を抱えていると王が言っていた。故に何の役にもたたない者を抱える余裕はないだろうと、徹也は考えた。


 では、生き残るためには何をすればいいのか。徹也の思考は、治伽に声をかけられる前の思考と同じようなものになっていた。


「……ねえ、才無佐君。何かあったら、私に言ってね。絶対、力になってみせるから」


「わ、私もいるよ!だから、一人で抱え込まないでね……?あの時の、私みたいに……」


「……あなたは、私に協力すると言ってくれたわ。今度は、私が言う番ね。私を頼りにしてくれていいわよ。私にできることなら、協力させてもらうから」


「っ!……ああ。ありがとう。お前ら」


 優愛、舞、治伽の順にかけられた言葉に対して、徹也はその言葉を噛み締めながら感謝の言葉を返した。そして、徹也は思う。自分にあるものは知識と傾向だけではなかったと。


(そうだ。俺には、協力してくれる人達がいる。信頼できる人達がいる。俺は、一人じゃない)


 優愛に舞、治伽だけじゃない。忠克に、先生である刀夜。他にも、徹也と交流のあるクラスメートがいる。


 徹也は自分が一人ではないと気付き、同時に自分ができることにも気付いた。


 徹也ができること。それは、今まで読んできた数々の異世界ラノベから得た知識と傾向をフルに使い、それで予測したことに対して対策を講じること。


 所謂、傾向と対策である。

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