第3話

 召喚された次の日の朝。徹也達は昨日夕食を食べたところと同じ場所で朝食を食べ終え、今は王からこの世界についての説明を聞いていた。


「我らの世界では、人が持つ才能を見抜くものがある。それがこれだ」


 王がそう言うと昨日徹也達を案内した老人が、水晶を持ってきた。その水晶はとても綺麗で、日本で売るといい値がつきそうなものだった。


「この水晶に人の顔を映すと、文字が浮かび上がる。それが、その者が持つ才能というわけだ。まずはこの水晶で、何の才能があるのかを確かめてもらいたい。では、我らはここで失礼する。後は頼むぞ、マディー」


「かしこまりました」


 王はそう言って老人、マディーに声をかけ、この場から去っていった。王が立ち去ったのを見送ってから、マディーは喋りだす。


「それでは、水晶に触れて自分の才能を確かめてください。それを元にして、配属先を決めることになりますので。では、前から順に」


「私からやります」


 刀夜がそう言って、その水晶に触れる。すると、その水晶に【刀】という一文字が表れた。


「これは……なんですかな?我らは知らないものですが……」


「……カタナ、ですね。私達の国の、伝統の武器です」


「なんと……!刀夜殿にはその武器を扱う才能があるということですな」


「そう、ですか」


 刀夜は、複雑な表情を浮かべた。剣道を嗜む者として、才能があると言われたのは嬉しく思うが、この世界には刀はない。それに、この才能で生徒達を守れるのかが不安なのだ。


 だが、そんな刀夜の気持ちなど関係なく、水晶は生徒達の才能をどんどんと映し出していく。ある者は【農業】、ある者は【魔法】、ある者は【技工】と生徒達の才能は千差万別だった。


 そして、それはもういちばん最後である徹也達の一つ前の席に座る、将希、洋助、忠克が座る席まで来ていた。


「では、お触りください」


 マディーに促され、忠克は水晶に触れる。その水晶に表れた文字は、【騎士】であった。


「騎士、か……」


「そのようですな。恐らく、刀夜殿と同様騎士団から学んでもらうことになると思われます。では、次に」


 マディーは忠克にそう軽く説明した後、水晶を洋助に差し出した。洋助は何も言わず、水晶を触る。そこに表れたのは【剣】という文字であった。


「剣、ですか。刀夜殿の武器は存じませんでしたが、剣ならば我がタレン王国にもあるので、それをお使いください」


「……はい」


「では、次の方」


「はい」


 マディーの言葉に将希がそう返事をして、水晶を触る。そしてその水晶に表れたのは【勇者】であった。


「ゆ、勇者……ですと!?かつてこのタレン王国を救った英雄以来の、勇者の才能が……!」


(勇者は大倉か……。まあ、妥当だな)


 クラスのトップカーストの者が能力が高いのは、まさにクラス召喚の定番である。徹也にとって、将希が勇者の才能を持つことは予想通りだったのだ。


「俺が、勇者……?」


 だが、当の本人である将希は理解できていなかった。自分の才能が勇者であることに混乱しているようだ。


「ええ!水晶が示したのだから、間違いありません!このタレン王国をお願いします!」


「っ……!」


 将希はマディーのその言葉に対して、何も答えられなかった。まだ、自分の才能が勇者であることを受け入れられていないのだ。だが、マディーの必死な訴えに将希は少し助けたい思いが芽生えた。


「……失礼。では、最後の席ですね」


 マディーは水晶を持って徹也、優愛、舞、治伽が座る席に来た。そして、まずは優愛に声をかける。


「どうぞ、お触りください」


 マディーにそう言われ、優愛は恐る恐るその水晶に触れる。すると、そこに文字が浮かび上がる。その文字は【聖女】という文字だった。


(これはまた、傾向と変わらずだな……)


 その文字を見た徹也は、素直にこう思った。クラスのマドンナである優愛が聖女なのは納得がいく話である。……もっとも、優愛は困惑しているようだが。


「せ、聖女……ですか?」


「ええ。聖女は今まで確認されている才能の中で、魔法の才能を持つ者と並んで治癒魔法を扱える才能です。ただ、聖女の才能は魔法の才能よりも治癒できる難度が高いです」


「な、なるほど……」


「詳しいことは、後で配属先の方にお聞きください。では次に」


「は、はい……」


 水晶を差し出された舞は、ゆっくりと水晶に触れた。表れた文字は【踊り】だった。


「え?お、踊り?」


「……踊りに才能があるようですな」


「ほ、ホントですか!?」


「ええ。水晶は嘘をつかないので」


「そ、そうですか……!やった……!」


 舞は自分の才能が踊りであることを知って、素直に喜んだ。ダンス部で三年間頑張ってきた舞にとって、この事実はたまらなく嬉しいものだったのだ。


 一時期、本当に思ったようにできなかった時もあったが、相談して、助けになってもらえて、そしてここまで続けてこれて本当に良かったと、舞は思った。


(……良かったな。小早川)


 そんな舞を見て、徹也も場違いながら少し嬉しい気持ちになった。舞が悩んで、そしてそれでも頑張ってきたことを知っているからだ。


 舞はそんな徹也の方をチラリと見て、小さく笑顔を見せた。徹也は舞のその笑顔に少し照れそうになったが、それ以上に良かったという気持ちが強く、徹也も舞に小さい笑顔を返した。


 徹也と舞の笑顔のやり取りを見て、優愛は徹也をジト目で見つめ、治伽はくすくすと笑っていた。


 それに気付いた徹也はすぐに舞から目を逸した。これはまた治伽に誂われると思ったのである。だが、優愛のジト目は終わらなかった。徹也にはその原因が分からない。なので、優愛のジト目は気にしないという選択肢しかなかった。


「……そろそろ、いいですかな?」


「す、すいません。ふふっ。触ります」


 治伽はまだ笑いを堪えきれていなかった。そんな治伽を見て、徹也はいつまで笑っているんだという視線を送る。


 だが、治伽はそれを意に介さずに息を整えてから水晶に触れた。その水晶には【女王】という文字が表れていた。


「じょ、女王……です、と……?」


「え、ええっと……。何かまずいんですか?」


「い、いえ。し、しかし……。これは議論をしなければ……」


(じょ、女王!?……だが、この反応は……。少しまずいかもしれないな……)


 治伽の才能が女王であることを知ったマディーの反応を見て、徹也は治伽の身を心配した。まずいのは治伽もだが、タレン王国にとってもまずいかもしれないからだ。


 女王の才能を持つ者が現れた以上、この国の王位が奪われるかもしれないと王が思ったならば、暗殺される可能性も零ではない。ここまで考えて、徹也は体が震えた。そして治伽の方をチラリと見る。


 治伽の表情は、どうしたらいいのか分からなくなり、不安に満ちている顔だった。徹也は隣に座っている治伽の肩に手を置いた。


 すると治伽は肩に置かれた徹也の手によってはっとして、息を整える。整え終わった時、治伽は徹也に感謝の言葉を述べた。


「……ありがとう」


「……ああ」


「……取り敢えず、最後の方を済ませましょうか」


 マディーは治伽の前にあった水晶を、徹也の前まで移した。ついに、徹也の番である。


 徹也は水晶を前にしてふぅ、と一息吐く。そして、その水晶に向かって手を伸ばした。

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