第2話

 開かれた扉の先には、一つの机と四つの椅子で一組とし、それが何組も並べられていた。更にその部屋の一番奥には、男性一人と女性一人が大きな椅子に座ってあり、その隣に徹也達と同年代と思われる少女と少年がそれぞれ座っている。そしてその周りには、多くの従者が並んでいた。


「王様。お連れいたしました」


「うむ。ご苦労だった。そして、よく来られた。適当に座ってくれたまえ」


 王にそう促され、徹也達は戸惑いながらも各々席につく。近くにいた生徒同士で同じ組の席に座る。なので、徹也は近くにいた優愛、舞、治伽と同じ組の席についた。全員が席についてから、王は口を開いた。


「私はこのタレン王国の王、シロースン4世である。隣にいるのが正妻で、更に子供達だ。急に召喚などしてしまい、本当に申し訳なく思う。しかし、それをしなければいけないまでに、我がタレン王国は切羽詰まっておるのだ」


 王はそう前置きをし、頭を下げて謝罪した後にこの国の今の状態について話し始めた。


「魔物の活性化……、帝国の発展……、戦力不足……、食糧難……、財政難……。あげればきりがない。もはや、我々だけではこの国の存続すら危ういのだ。勝手だとは重々承知だが、どうか力を貸して頂きたい」


 そう言って王は椅子に座ったままではあるが、その頭を下げた。その隣りにいる女性も同じように頭を下げている。


 少しの間、誰も王に返答を返さなかったが、刀夜が席から立ち上がった。徹也達の教師として、ここは自分が話さなければと考えたのである。


「……本当に勝手ですね。正直、私達が力を貸す理由がありません。ですので、元の世界に帰らせてください。あなた達の都合に付き合う義理が、私達にはない」


「……それは、難しい」


「っ!何故ですか!」


 刀夜と他の生徒達は驚いていたが、徹也はそこまで驚かなかった。異世界召喚で元の世界に戻れないのはテンプレ中のテンプレだからだ。その傾向を、異世界転生・転移・召喚など数々の異世界ラノベを読んできた徹也は知っていた。


「召喚魔法は、禁忌の魔法なのだ。これを発動するためには膨大な魔力に加えて、少なくない人の命を捧げなければならない。貴殿らが元の世界に帰還するにも、同じような禁忌の魔法が必要になる」


 王のこの言葉が告げられた時、生徒達の空気が凍りついた。元の世界に帰れない事実もそうだが、自分達の召喚の為に人の命がかけられていることが信じられなかったのだ。


「……つまり、私達が帰るには、多くの人の命と魔力が必要で、召喚時にも必要な分の命が捧げられた、と……?」


 王が刀夜のその言葉に頷いた。すると、生徒達は様々な反応を示した。ある者は顔を青くして吐き気を催していたり、ある者は息が荒くなっていたりと、その反応は本当に様々だったが、いい感情を持っている者は誰一人としていなかった。


 徹也ももちろんいい感情など抱いてはいなかったが、他の生徒達よりかはまだ冷静さが残っていた。


(話を聞いている限り、今の所元の世界には帰れそうにない……。それに、俺達を召喚する為に幾人もの命が失われたのだと思うと……)


 その命を無駄にすることなんてできないと、徹也は思う。そう思ったのは、徹也だけではなかった。


「……帰れないことは、分かりました。ならせめて、生徒達の安全を保証してください」


「……もちろん、我々ができることはする。安心してくれたまえ」


「そう、ですか……」


 刀夜はそう言って頷いたが、徹也は王に対して不信感を抱いた。なぜなら、王は結局安全の保証はしていないのである。


 しかも、これは口約束でしかない。戦力によっては戦わせる気だろう。逆を言えば、使えない者は切り捨てることもしそうだと、徹也は思った。


「……今はまだ、混乱していることだろう。食事を用意してある。今日は食べて寝るとよい。一人一部屋ずつを用意させておく。入れ!」


 王がそう言うと扉が開き、女性達が多くの料理をカートに乗せて持ってきた。そして、一人一人の前に料理を並べていく。その料理はとても美味しそうで豪勢だったが、生徒達は今食べる気分ではなかった。


 だが、少ししてから刀夜が食べ始めた。それを見て、徹也も食べ始める。折角の料理を無駄にするわけにはいかない。


 そんな徹也の様子を見て、同じ席の治伽、優愛、舞がその順で食べ始めた。そして少しずつではあるが、他の生徒達も食べ始め、結局生徒全員が出された料理を食べた。


 食べ終わった後は一人一人の部屋が用意されており、そこに案内された。その部屋は椅子に机、ベッドなど生活必需品はきちんと置かれており、簡素ながら人一人生活するには十分すぎるものだった。


 徹也もまた他の生徒達と同じような部屋に案内され、部屋で一人になるとベッドに倒れ込んだ。色々と考えなければいけないこともあるが、もう徹也の体はすでに限界だったのだ。


 無理もない。突然召喚されて、しかも帰れないことが明らかになったのだ。身体だけでなく、精神的にも疲れたことだろう。


 徹也はベッドに倒れ込んだ後、そのまま眠ってしまった。それは徹也だけではなく、召喚された者全員がそうであった。


 そしてこの夜が明けて目が覚めた時、徹也達の異世界生活が始まる。

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