第62話
「奈村さんが人殺しだなんて思えない」
一通り稔の話を聞いた後で、大透ははっきりと述べた。
「でも、倉井が見たのと、みくりが言っている女の子の霊は同じだと思う」
「だよな……」
「パーティーの時に、倉井の話を聞いて皆の顔色が変わったことを思うと、その女の子のことを大人達は知っているんだろうな。俺のおやじとおふくろに聞くのが一番手っ取り早いけど、今日は仕事で帰ってこねぇし」
大透の部屋で話していると、お手伝いさんがお茶を持ってきてくれた。
「あ、そうだ。岩槻さん、奈村さんがうちで働いていた時のこと、何か知らない?」
大透が話しかけると、岩槻というらしいお手伝いさんはぱちりと目を瞬いた。
「奈村さま、ですか?私はお仕事の方はさっぱり……奈村さまの奥様でしたら、一時、この家に住んでおられましたよ」
思いがけないことを言われて、大透は「えっ?」と目を丸くした。
「みくりさんを妊娠中で……確か、奈村さまが宮城電器を辞めて小野森議員の秘書になられたばかりの頃だったかしら?奈村さまが秘書として忙しくしておられて、奥様一人にしておくのが心配だということでこの家でお預かりしていたのですよ」
「てことは、十……九、年前か?俺、覚えてないや」
「大透さんもまだ三つでしたもの。ああ、でも、あの時は恐ろしかったですねぇ」
岩槻はふと眉を曇らせた。
「いえね。みくりさんが生まれてしばらくして、この家でベビーベッドに寝かせていた時に、忍び込んできた子供が赤ちゃんのみくりさんに危害を加えようとして……」
「えっ?」
大透は驚いて岩槻の顔を見上げた。稔も絶句した。
「庭から入り込んだらしくて……夏だったから窓を開けていたんですね。奥様がちょっと目を離した隙に……幸い、すぐに見つけられたので何もなかったんですが。そうそう、思い出しました。大透さんが「赤ちゃんをみたい」というので、奥様に会わせていいか聞きにいったんですよ。それで奥様が赤ちゃんの様子を見に行って……すごい悲鳴を上げられて」
稔は大透と顔を見合わせた。
その子供、とは、あの女の子ではないのか。
「それで、どうなったの?」
「さあ……なんだか近所でも評判の良くない子だったらしくて。すいませせん、大透さん。その頃、私は母の具合が思わしくなくて、四つ駅離れた実家から通っていたので、あまり詳しく知らなくて。その後すぐにお暇をいただきましたし」
岩槻は一度辞め、二年後に実母が亡くなってから再び働き始めたのだという。
「ですから、その頃の騒動のことはよく知らないんです」
「そっか。ありがとう」
大透は退室する岩槻に礼を言った。
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