はじめての、彼氏。
言い忘れていたが、私の名前は佐倉 涼(サクラ スズ)。
名前だけ見るとクールビューティな女性をイメージしてしまいそうだが、実際の私はそれには程遠い。
腫れぼったい一重に、肌が弱く常に荒れている肌。
おまけに165cmと中途半端に伸びた身長。どうせなら170cm欲しかった。
体重は気にしたことがなく、いつの間にか60kgを軽く超えていた。運動をしない私は、脂肪の塊でしかない。
それでも高校生になって校則でメイクを禁止されていなかったので、メイクを覚えた。
とはいえ最初の頃はただアイラインを引いたりするだけの、ほとんど意味のないものだったが。
高校に入ってすぐ、スマートフォンに機種変してもらった。
それからはもうスマホの虜で、肌身離さず携帯していたし、mixiやモバゲーなどという流行りのSNSもいくつか始めた。
入学する少し前からmixiを始め、同じ高校に4月から通うという同級生とも繋がりを作った。
きっとたくさん友達が出来て、彼氏も出来て、楽しい毎日なる…はずだった。
高校に入って間もなく、同じクラスの大澤 翔大(オオサワ ショウタ)くんを好きになった。
見た目も好きだったが、何より声がとても好みだった。
もちろん大澤くんともmixiで繋がっていた。
それでも教室内でどう話せばいいかわからない私は、mixiを使ってしかアプローチすることが出来なかった。
もともと人と話すのは得意ではなかったけど、男の子と話すのは特に苦手だった。
大澤くんはクラスで特に目立つタイプでもなかったけど、誰とでも分け隔てなく話すような子。
特定の女の子のグループと仲が良さそうだった。
もちろんその中に私はいない。
しかし当時の私は、学校で大澤くんを見られるだけで、声を聞けるだけで幸せだった。
今思えば相当ピュアで、可愛らしい恋をしていたと思う。
mixiで連絡を重ねるうちに、自然と互いのメールアドレスを交換し、頻繁にメールをするようになった。
メールはなんてことない、今日一日の出来事や明日が憂鬱なことなど。
学校でも話そうね、なんてやり取りをしたこともある。
しかしグループが全く違ったため、大澤くんと学校で話した記憶がどれだけ必死に思い出そうとしてもない。
どうしても学校で話すのが恥ずかしかったので、放課後どこかで待ち合わせして話そうということになり、学校から少し離れた公園で待ち合わせをした。
先に公園に着いて待っている間、心臓が破裂しそうだった。
「…………あ、ごめん。お待たせ。」
「あっ………いや!全然!全然待ってないから。大丈夫!ご、ごめんね?」
「…いや。大丈夫。」
「「…………………………。」」
なぜ待たされたのに謝っているのだろう。自分でもそれはわからない。悪くなくても、気まずいと謝ってしまうのだ。
毎日何十通もメールをやりとりしていたくせに、実際に二人で会うと頭が真っ白になった。
何を話そうか考えれば考えるほど酸素が回らなくなって、目眩がした。
最初に沈黙を破ってくれたのは、大澤くんだった。
「学校で、全然話せないね。」
「あ…うん。そう…だね。話しかけようって思うんだけど、緊張…しちゃって。ごめんね。」
「俺の方こそ、ごめん。俺も緊張しちゃって。」
大澤くんも緊張してるんだ。私と一緒なんだ。
それだけで頭がふわっとして、胸がキュッと締めつけられて、幸せを感じた。
結局その日は、普段メールでするような他愛もない話をして解散した。
「また明日ね。」
そう別れる頃には、緊張もだいぶ和らいでいた。
大澤くんは、隣に座るといい匂いがした。柔軟剤の匂いだったと思う。
優しい声と優しい匂いが離れなくて、今まで以上にずっと大澤くんのことで頭がいっぱいになった。
「…好きだなぁ。」
まだ大澤くんのことは全然知らないのに、好きだと思った。
そしてそれから少しして、私は大澤くんと付き合うことになる。
生まれて初めての、彼氏。
幸せな日々も束の間、ここから私の高校生活は急速に終わりへと迎えていった。
窒息しながら、生きている。 @ma_ruo
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。窒息しながら、生きている。の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ありふれた大学生の日記最新/花空
★3 エッセイ・ノンフィクション 連載中 228話
或る日、名古屋でスカウトされた!新作/崔 梨遙(再)
★3 エッセイ・ノンフィクション 完結済 1話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます