第25話 竜とバトル!?

 4人の前に黒い竜が現れた。


「何なの、これ……」

「戦うしかあるまい」


 絶望的な状況の中で、レオが覚悟を決めて、3人を守るように一歩前に立つ。


「レオ……」

「おいおい無茶するなよ。竜は体を覆う鱗が硬くて通常の武器じゃ傷1つつけられない。ま、だけど、あいつは本物じゃない」


 イライアスの言葉の後をミミが続ける。


「私もそう思います。生き物というよりも純度の高い魔力の塊のような……」

「確かに竜が蝙蝠コウモリの群体に変身出来るという話は聞いたことがないな」

「それが分かったからってどうするのよ?」


 問題はそこである。


「魔力が無くなれば消えるだろうけどな……」

「この前みたいに燃やせば良いってこと?」

「たぶん、そうだと思います」


 マイア達が対策を考えていると、黒い竜が口を開けた。口の中が青白く光っている。


「…何だかヤバいもの吐かれそうな気がするんだけど……」


 嫌な予感しかしない。この坑道に入ってからずっとそうだったけどっ!


「避けろっ」


 イライアスが叫んだ。それと同時に竜が右から左へとブレスが放たれる。それから逃げるために4人は散り散りになった。強烈な冷気が空間中に立ち込める。


「さむっ!」


 マイアが思わず小さく叫んだ。どうやらあの黒い竜は冷気を操るタイプの竜らしい。あのブレスに少しでも触れたらたちまち凍ってしまうだろう。


 やばいわ……。


「どうやって倒せっていうのよ、あんなやつ」


 ブレスを避けるためにバラバラになってしまった。これでは作戦も立てようがない。


 とりあえず冷静にならなきゃ。


 マイアはイライアスとミミの先ほどの言葉を思い出す。


 あの竜は本物じゃない……つまり硬い鱗は持っていない可能性が高いってことよね。それって普通の武器でもダメージを与えられるってことかも。あれは蝙蝠が固まったものだとしたら、またバラバラに出来るんじゃないかしら。


 手に持っていた鎚を見て、マイアは覚悟を決めたように頷く。竜はイライアスとミミを交互に見ている。


 狙いは魔法使いってことね。まぁ、それも当然かも。魔法使う相手の方が魔物としては脅威だろうし。


 しかし、竜はブレスを再び吐く様子はない。おそらく1回撃ったらしばらく”ため”が必要なのだろう。


 ……確信はないけど。


 竜はどうやらミミに狙いを定めたらしい。ミミの方へ走りそして腕を振り上げた。長く鋭い爪がキラリと光る。


 考えてる暇はないわ。


「ミミ!」


 レオがミミを守ろうと彼女に向かって走っていく。マイアはそれを確認し同じように走り出す。ただし、マイアが向かったのは竜の死角となる背後だった。両手で鎚を持ち、大きく振りかぶる。そして尾の付け根あたりに鎚を思い切り振り下ろした。

 竜が叫び声を上げる。赤い火花が散って尾が切断された。ちぎられた尾は再び蝙蝠に戻り、散り散りに消えていく。


「やった!」


 マイアは思わず歓声を上げる。今度は背中に一撃を加えようと再び鎚を振り上げる。その気配に竜が振り返った。赤い目がギロリとマイアを睨む。


 やば……。


 マイアの動きが止まる。今度は鋭い爪をマイアに向けて振り上げ、ひっかく。彼女は反射的に後ろへ跳んで、その一撃を寸でのところで躱すが、少し腹の辺りの服に3本の切れ目が入る。


 あぶなっ!


 幸いにしてマイアの体にはダメージはない。しかし竜はなお、マイアに狙いを定めている。マイアも間合いを取り、いつ攻撃が来ても逃げられるよう警戒の姿勢を取る。


「ミミ、君の炎を俺の剣に纏わせられるか?」


 レオがミミの傍に駆け寄って聞いた。


「……出来ると思います」


 ミミはそう言ってレオの剣に手をかざす。青い炎が刀身を包んだ。


「よし。ありがとう、ミミ」


 レオを竜を睨み、柄を握る手に力を込める。哲学者のクランで魔女を焼いたように、この炎が竜を焼くだろう。

 その竜はマイアに向けて口を開ける。凍気を吐く気だ。

 レオは今度はマイアの前に走り出て、ブレスを吐こうと開けた竜の口に剣を思い切り差し込んだ。

 竜の冷気とミミの炎が拮抗しせめぎ合う。レオが刀身をさらに奥へ押し込んだ。竜が声にならない叫び声を上げてもだえる。口からどんどん炎が広がっていく。さらに、ダメ押しでイライアスが魔法の風を起こし、その風は竜の周りで渦巻き、炎の威力を高める。

 レオが剣を引き抜くと、竜の姿が燃え上がる。そして塵となって消えた。


「何だったの……」


 マイアが疲れたように呆然と呟いた。すると、どこからともなく拍手の音が響く。4人は警戒しながら音の出所を確かめようと、周囲を見回す。


「誰かいるのかっ」


 レオが大声で見えない相手に呼びかける。


「いやー、なかなか面白いものを見せてもらったよ」


 暗がりから若い男が1人、歩みだしてきた。見た目は、20歳くらいの若い男で、長い銀髪が特徴的でどこが浮世離れしたした雰囲気を漂わせている。表情はにこやかに微笑んでいる。


 こんなところにいるのだから普通の人間でないのは確かだろう、と4人には思われた。





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