第24話 一難去ってまた一難

 仄暗い曲がりくねった坑道の中を歩いていると、後ろからキーキーと何か小動物の声と羽根をばたつかせる音が後ろから聞こえてきた。


「?」


 マイア達が振り返ると、何か黒い塊がこちらに近づいて来ているのが見えた。それは塊では無く、何か小さいものが集まって群体を形成していた。イライアスがそちらを睨む。


「何だ、あれ……蝙蝠コウモリか?」

「コウモリ? ……坑道っぽいわね」


 その蝙蝠らしき生き物はどんどんマイア達に近づいてくる。このままだと確実にぶつかるだろう。


「何かすっごい嫌な予感がするんだけど……」


 マイアが不安そうに先ほど手に入れた鎚の柄を握る。


「そうだな……どう考えても俺達に向かってきているようだ」


 レオが剣を抜いた。今まで歩いてきた道中に蝙蝠は居なかった。だから蝙蝠が後ろから追いかけてくることなど考えられない。これもこの鉱山に潜む”誰か”の指金だろう。


「……やるしかないってことね」


 マイアがやれやれと鎚を構え直す。先ほど蛇の怪物の襲われて、腹を括った。


 やらなきゃ、やられるだけだわ。 それにこの鎚って武器、形はフィールドホッケーのスティックに似てなくもないし。要は、振り回せば良いんだろうし。


「行くか」


 レオとマイアは黒い蝙蝠の群体に向かって走りだす。レオの剣が蝙蝠達を真っ二つにし、マイアの鎚が吹っ飛ばす。その吹き飛ばられた蝙蝠達が他の蝙蝠にぶつかって弾けて消えた。


 何かこれ、落ちものゲーとかシューティングゲーみたいだわ。向こうから来た弾を弾き返して、ブロック消すみたいな……というか、蝙蝠ってこんなポンって消えるもんなの?


 そう思いながらも、ボールを撃つのに慣れているので、同じ要領でマイアはテンポよく向かってくる蝙蝠を次々撃ち返す。レオも負けじと素早い剣さばきで蝙蝠を切っていく。


「まったく、あいつら元気だな」


 その様子にイライアスが呆れたようにため息を吐く。とはいえ、流石に数が多い。2人だけで倒し切れる数ではない。


「威力を考えないとな……」

「イライアス?」


 ミミがぶつぶつと呟くイライアスの様子に首を傾げる。


「レオ、マイア、伏せろ!」


 イライアスが叫んだ。反射的に2人は身を屈める。その瞬間、イライアスの手から一陣の風が放たれる。その風圧で蝙蝠達を一掃した。


「それ、始めからやってよね」


 マイアがイライアスを睨む。


「お前らが先走るからだろ」

「まぁ、とりあえず危機は去ったから良いんじゃないか」


 レオが2人のやり取りを見ながら苦笑いした。


「あのー……」


 言い辛そうにミミが声を上げる。


「どうしたの?」


 マイアが尋ねると、ミミは来た道の方を無言で指を指す。そちらを見れば新しい黒い蝙蝠の群体が現れた。


「……もしかして、無限に湧いてくる感じ?」

「そうかもな……」

「逃げた方が良いかもしれません……」


 ミミの言葉に全員が再び走り出す。


「もう何なのー!」


 マイアが走りながら不満を叫んだ。一体自分たちを走らせて何がしたいのか。相手は一体何なのか。分からないまま、坑道の中を走っていると急に足元が黒くなる。それを疑問に思う間もなく、突然床が抜けた。


「えぇっー!?」


 驚き叫びながら急降下していく。4人は暗い闇の中にどしん、と落ちた。


「いったー……」


 尻から落ちて思わず声を上げ、マイアが尻をさする。


「みんな、大丈夫?」

「あぁ……」 「何とか……」 「痛い……」


 と口々に返答が帰って来た。とりあえず、全員無事なようだ。


「しっかし、ここ真っ暗ね」


 マイアが立ち上がりランタンを掲げる。落ちた衝撃で壊れたかと思ったが、灯りは消えていない。


 さすが魔女のランタン、違うわね。


 とはいえこれだけでは、心許ない。ついでに足元に転がっていた鎚を拾い上げる。こちらもヒビ一つ入っていない。


「ちょっと待て」


 イライアスが呪文を唱え、光の玉をだす。4人はその光の傍に集まった。


「これで少しは明るくなっただろ」

「でも、ここ一体どこなんでしょう?」


 ミミがその光に地図を照らし、ここが何処なのか探すが、肝心の地図にはこの場所は載っていない。全員で周囲を見回すが、壁は見えない。相当に広い空間のようだ。上を見れば落ちてきた穴から坑道の明かりが小さく丸く漏れている。登って戻るということは望めそうにない。


「とりあえず上に戻れそうな道を探さないとね……」


 マイアが上を見ながらそう呟いたとき、キーキーと蝙蝠の声が聞こえてきた。坑道からの明かりが黒く染まる。穴から蝙蝠の群体が入って来た。


「げっ……」


 イライアスがうんざりしたような声を上げる。蝙蝠達は今度はマイア達に襲い掛からず、一か所に集まりまるで1つの大きな塊になっていく。


「何だ……」


 蝙蝠達は上から切れ目なく現れ、どんどんその塊に吸収され、膨れ上がった。

 いつでも行動を起こせるように身構えつつ、4人はその黒い塊を凝視する。

 その塊はやがて1つの形を取った。大きさは3メートルほどだろうか。長い首に、長い尾、両肩には大きく張り出した翼。


「竜だ……」


 漆黒の巨体を見て、イライアスが呆然と呟く。


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