第23話 アイテムゲット?
何かに右足首を掴まれ深い方へと引き摺り込まれそうになっているマイアは、ばしゃばしゃと激しく抵抗する。
こんなところで死ぬなんて冗談じゃないわっ! 元の世界に還ってやりたいこといっぱいあるんだからっ。
「くそっ!」
レオが悪態をつく。相手の正確な位置が分からなければマイアに危害を加えてしまう。暗がりの中で必死でマイアがもがいているが、相手の姿が見えない。彼女の姿が徐々に水に沈んでいく。ミミはあわあわと焦っるばかりで何をすべきが頭が回らない。イライアスはその様子を見て逆に冷静になった。
ここは山の中で普段から光が入らない場所だ。
「地下の生き物は目が極端に弱い場合が多い……なら!」
イライアスはありったけの魔力を込めて光を放った。その瞬間、大きな蛇のような、あるいは鰻のような細長い生き物がのた打ち回る。
レオはその姿を認め、素早く駆け寄りその生き物を一刀両断した。その輪切りにされた2つの断片が水溜りに叩きつけられ大きな波が一度起こり、そして動かなくなった。
「げほっげほっ」
とりあえず蛇のような怪物から解放されたマイアが口に入った水を吐き出す。
「マイア、大丈夫か?」
レオが手を差し出す。
「う、うん。何とか……」
マイアがその手を取り立ち上がった。心配そうに自分を見つめるレオと目が合ってマイアは何だか急に恥ずかしくなり、手をぱっと離した。
「あ、ありがとう」
「あぁ」
レオはそんなマイアの様子には気が付いていないようだ。暗くて良かった、とマイアは内心ホッとした。
「こんなところ早く先に行きましょっ」
マイアがそう言って足を踏み出したとき、また何かがコツンとつま先に当たった。生き物ではない、もっと硬質なものだ。マイアはそれを拾い上げる。見たところ柄の長い大きな金槌のようだ。見たよりも持った感じは軽い。
「何これ、大きいピコピコハンマー?」
「それは見たところ
「つち?」
「普通は工具の金槌のことだが、この大きさならおそらくは武器として使われていたと思う」
「何でこんなところに……」
マイアが手に持った鎚をしげしげと眺める。金属の光沢が坑道の灯りに照らされ金色に輝いている。
「ここに僕達以前にも誰か来ていたのかもな。で、さっきのやつに喰われた、と」
「イライアス、怖いこと言わないで……」
ミミがおびえながら言う。
「まぁ、この先何が出るか分からないから、武器として持っておいたらどうだ? その方が元の持ち主も喜ぶだろうし」
「ホントに? 呪いのアイテムとじゃないわよね……」
強力な武器だけど、装備したら外れなくなるとか、能力値が著しく下がるとか。RPGならありがちなやつ。
「そういう感じはしませんけど……」
ミミが近寄ってきて、鎚を見る。
「じゃ、一応大丈夫ってことね」
それなら、持っておいて損は無いわね。何かこのくらいの長さのもの持ってると落ち着くし。
おそらく長さがフィールドホッケーのスティックと似ているからだろう。マイアの手に良く馴染んだ。
4人はとりあえず水の溜まる空間から先へ進んだ。水に濡れていないところまで来てマイアは服の端や髪を絞り水を切る。
あードライヤー欲しいわ。全身びしょ濡れで気持ち悪いし。
「あのマイア、怪我は大丈夫ですか?」
ミミが何だか申し訳なさそうな顔をしている。
「水浸しになった以外には大丈夫だけど……でも足首はちょっと痛いかも」
「あ、じゃぁ回復施しますね」
ミミがマイアの足元に屈んだ。
「うん? 急にどうしたの?」
「……わたし、役立たずですよね……」
「え?」
「さっきだってわたし何も出来なくて」
マイアは困ったようにレオやイライアスと視線を交わす。レオは同じく少し戸惑っている顔を見せ、イライアスはしょうがないと表情が言っている。
「ミミ、そんなことないと思うわよ。私だって、もしミミがあんな変な蛇に襲われてても対応出来ないし」
「……私なんかがやっぱり大魔女目指すなんてありえないですね」
ミミが自嘲的に笑う。顔はつばの広い黒いとんがり帽子に隠れ見えない。マイアがしゃがみ込んでミミと視線を合わせる。
「あのね、ミミ。私だって最初は碌にスティックにボール当てられなかったし、当たってもぜんっぜん違う方向に行っちゃったり、そりゃぁ散々だったわよ。先輩達にも散々迷惑かけたし」
つまり何が言いたいかと言うと。
「何事も最初からそんなに上手くはいかないってコト。いちいち暗くなってたら切りが無いわよ」
マイアがニッと笑った。俯いていたミミが顔を上げほんの少し困ったように微笑む。
「まぁ、ミミは僕と違って天才じゃないからな」
敢えて憎まれ口を叩くイライアスにレオが苦笑いした。
「天才かどうかは別にして、日々努力していけば、今日出来なかったことも明日出来るようになるものだ」
「そうよ。それにミミは役立たずじゃないでしょ。こうやって怪我も治せるし、この前だって変な魔女だか妖精だか倒したんだし。自信持ちなさいよ」
「……はい」
ミミが立ち上がった。まだ気持ちが落ち込んではいるが、沈んで迷惑ばっかりも掛けてられない。
「じゃ、行こうか」
マイア達は改めて坑道の中を歩いていく。次なる危険が後ろから迫っていることも知らずに。
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