第22話 坑道の大冒険始まる

 後ろから岩が迫る来る中、全力で前に走りながら、マイアは左右の壁を確認する。


 どこかに避けられる窪みとか穴でもあれば……!


 後ろから聞こえてくる岩の転がる音はどんどん大きくなる。チラッと振り返れば巨大な丸い岩の姿が近づいてくるのが見えた。


 ヤバい、潰されるっ!


 と焦ったそのとき、マイアの視界に壁に開いた四角い穴のような黒い箇所が入ってきた。


 一か八か……。


「あそこに入るわよっ」


 4人は急いでその穴の中へ入る。そこは小部屋となっており、マイアがランタンを掲げると床に小石が散らばっているのが分かる。


「ここは採ってきた石を一時的に保管していた場所のようだな」


 レオの言葉の後、直ぐに先ほどまでいた坑道をゴロゴロと巨大な石が通っていった。


「危なかったですね……」


 ミミが息を整えるために胸に手を当てて深呼吸した。


「何とか助かったわね……」

「今回はな」


 マイアが安堵の声を上げたのと対照的にイライアスの表情は険しい。


「今回?」

「そうだ。いくら落盤だって言ったってあんなでかい岩が都合よく転がって来るなんてありえるか? それにミミが感じた魔法の気配……誰かが故意に岩を転がしたんだろうよ」

「まさか……」


 と、マイアは言ってみたものの、確かに落盤ならもっと細かい石や礫が大量に出ないとおかしい。


「この鉱山に誰か、または何かがいるのは間違いない。頭のおかしい魔法使いか妖精か知能の高い魔物か……」

「ミミ、やっぱりあんた先輩の魔女に嘘教えられたんじゃない……」

「うぅ……」


 半眼になったマイアの言葉に、ミミが頭を抱えた。

 占いにおいて正確さのある魔女の託宣だけにここに石があると信じたい。


「それで、どうするんだ?」


 レオの問い掛けに、4人は顔を見合わせる。全員の顔に不安が浮かんでいた。

 今ならまだ戻れる。


「どうする、ミミ?」

「……先へ行ってみましょう」


 ミミは鞄から地図を取り出しで確認する。


「坑道の先には他にも出入口に繋がる道もあるみたいですから。帰るのはそこからでも……」

「そうだな」

「ま、行けるところまで行ってみるさ」


 4人は小部屋から顔を出し、新たな岩が転がって来ないか確かめる。


「ミミ、何かいる気配はあるか? 魔法の気配は?」

「今は何も」


 その言葉を聞いて、4人は坑道へ出て再び奥へ向けて歩き出した。落ち着きなくきょろきょろと周囲を警戒する。先ほどとは打って変わり誰も一言も話さない。

 しばらく歩いていくと道が二手に分かれているところに行き当たった。


「どちらへ行けば良いんだ?」


 レオの質問にミミが地図を見ながら答える。


「左側は少し行ったあとに行き止まりになってますね。右側は地下へ続いているようです」

「じゃ、右の道に行けば良いのね」


 4人は右の道を選んで進んでいく。


「赤い石はどこにあるのかしら……」


 道を下りながら、不安げにマイアが呟く。壁を眺めながら歩いているが、それらしいものは埋まっていない。


「この辺りはもう掘り尽くされてるだろ。あるとしたらもっと深いところまで行かなきゃいけないだろうな」

「それに、たぶん赤冠モルチエに着いていた赤い石は普通の鉱石では無いでしょうから、見つけるのには苦労するかもしれません……」


 イライアスとミミの言葉にマイアはため息を吐いた。


「まだまだ先は長いってことね……」


 それに、さっきのやつの正体も掴めてないし、今回も大変なことになりそう。


 鬱々とした気分で歩いていると、道の先から水滴の落ちる音が微かに聞こえてきた。


「水…?」

「山の中だし、どこかから坑道に水が浸みだしているかもしれないな」


 奥へと進んでいくと壁や床が灯りに照らされてぬめりと光っているところが多くなってきた。進んでいく毎に水の滴る音が近くなり、ある地点まで来ると急に広い空間に出た。道の左側が大きく抉れており、そこにはまるで池のように水が溜まっている。灯りが当たらぬ所為かどこまで深く広がっているかは分からない。

 自然と4人は息を殺して進む。頭や肩にぽとぽとと水滴が落ちてくる。足元の水はどんどん嵩を増して足首まで浸かってしまっている。その中を歩く度にその水面が波立つ。それは徐々に徐々に大きくなっていく。


「何かいる!」


 ミミが鋭く叫び水溜りの暗がりを指さす。他の3人が驚いたようにミミが指さす方を見た。異常なほど激しく波立っている。


「何だいったい……ただ歩いているだけでこんなに波立つなんてありえないぞ」


 レオが剣を抜き、イライアスとミミもいつでも魔法を放てるように用心している。マイアはランタンを左右に動かして波立たせているものの正体を見ようとしている。その彼女の足元を何かが撫でていく。それはまるで魚が傍を通ったような滑らかな感触であった。


「?」


 マイアが不思議に思っているとその何かが右の足首に巻き付く。そして、彼女を水溜まりに引きずり込もうと引っ張ったのだ。


「離してっ!」


 マイアは咄嗟に叫んで脚をばたつかせ、手に持っていたランタンでやみくもに振り回すがそれは離す気配はない。それどころがどんどん引き込む力が強くなる。とうとう耐えられなくなって、マイアは体勢を崩し水の中に倒れ込んだ。


「マイア!」


 ミミの悲鳴がその空間に響き渡った。

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