第18話 旅の準備
マイアとミミはとりあえず鉱山の情報を得ようと、哲学者のクランに向かうことにした。魔女、騎士、哲学者のクランはそれぞれを小径で繋いでいる。2人はそれを使い哲学者のクランへ飛んだ。
「とは言っても、どこの誰に聞いたら良いか……」
マイアとミミは哲学者のクランの中の広い庭の東屋の中に立っていた。そこが魔法陣が設置している箇所だった。色とりどりの花が咲いている気持ちの良いところである。
ここもきっと植物か何かの研究に使われてるのかしら?
そんなことを考えながら、建物のあるほうへ歩いていくと数名の学生と行き当たった。2人の姿を認めて驚いた顔をする。ミミは黒いとんがり帽子を新調したので、一目で魔女と分かる見た目だ。
「あ、きみ達は……!」
学生の1人が何かを思い出したように声を上げた。黒い妖精事件の関係者と分かったのだろう。
「今日は何か……あ! もしかしてフィールドホッケーの指導に?」
「え?」
「今ここのクランでは大流行ですよ」
「ホントにっ?」
今度はマイアが目を丸くする番だった。
実は黒い妖精を倒した後、魔女の森が再生する間マイアもミミも事情を聞かれるついでに哲学者のクランに滞在していた。ミミやイライアスは図書館で本を読んでいたが、暇を持て余していたマイアは同世代の学生達にフィールドホッケーのルールを教えていた。
好奇心の強い彼らはすぐに似たような道具を作り、遊び始めたのだった。
それがこんなことになってるなんて……。
マイアとミミはその学生達に連れられ広場のようなところへ来た。そこではスティックを持った学生達が縦横無尽にボールを追って走り回っていた。ようするにフィールドホッケーの試合が行われていたのだ。
……これでフィールドホッケーがこの世界のスポーツの覇権取ったわね。メジャースポーツ化間違いなしだわ!
マイアは懐かしさを感じるとともに内心ガッツポーズした。
「って、そんなことしに来たんじゃなかった。私達、鉱山に詳しい人か場所が知りたいんだけど」
「鉱山? それなら地理学棟に行ってみれば良いと思うよ」
学生の1人からそう教えてもらい、地理学棟の場所を聞いてそちらに向かった。地理学棟は赤い煉瓦つくりの建物だ。入口から中へ入るとロビーに先生らしい妙齢の女性がいた。
「あのー?」
マイアがその女性に声を掛ける。
「はい?」
「あの、お聞きしたいことがあるんですけど……」
女性がマイアとミミを品定めするように見つめる。別に後ろめたいことは何も無いが2人は何となく居心地が悪い思いがした。
「その、私達グラナーティス鉱山のことについて知りたくて……教えて頂けませんか?」
「グラナーティス鉱山について知りたいの?」
その女性が意外そうな顔をした。
「あそこはもう何百年も前に石が出なくなって閉山した鉱山だったはず……」
「そうなんですか?」
マイアとミミが目を丸くする。
「えぇ。昔は良質な石が出たところなんだけど、あるときからさっぱり。それで放棄されたのよ」
「……ミミ、あんた先輩の魔女に謀られたんじゃないの?」
マイアが小声が耳打ちした言葉にミミは苦虫を嚙み潰したような顔になった。
「うぅっ、そんなことは……」
「ただ近くには地質調査用の小屋がありますから、小径が繋がっています。もし何か現地で調べたいことがあるなら行ってみると良いわ。使用を許可します。準備出来たらまたこの地理学棟に来ると良いわ」
「ありがとうございます」
礼を言い、2人は一端、地理学棟を離れ適当なベンチに座った。
「で、どうする? 行ってみる、その鉱山?」
「そうですね……行ってみないことには始まりませんし」
「石が見つかる気がしないけど」
「それは言わないで下さい……」
ミミはまた頭を抱えた。
マイアの言う通り自分は先輩の魔女に騙されているのだろうか?
「まぁ、行ってみれば分かるか」
「はい……」
「じゃぁ準備しないとね」
マイアとミミがしゃべっていると、向こうから誰かが走ってくる。
「マイア! ミミ!」
おさげ髪に眼鏡を掛けた女の子が手振ってこちらに近づいてくる。リータだ。
「来てたんなら、天文学棟に寄ってくれれば良いのに」
リータは2人の目の前に来て、ニッコリと笑った。
「今日はどうしたの?」
「うん。
「鉱山に?」
「そう。でもずいぶん前に閉鎖されてるところみたいだけど」
「そうなの?」
リータが思案顔になる。
「まさかと思うけど、2人だけで行くつもり?」
「そうだけど?」
マイアとミミは首を傾げる。
「それは危険だと思うの」
「そうなの? 危険な野生動物が居るからとか?」
「それだけじゃないの。使われてない鉱山なら魔物とか出るかも」
「えっ!?」
その言葉にマイアがぎょっとした。
「魔物が出るの、この世界?」
「はい」
さも当然のようにミミが頷く。
まじかー。でも妖精とか居たもんね。居ても不思議じゃないわね。
「じゃ、どうしよう?」
「護衛を頼んだら良いと思うの」
「護衛?」
「私達は騎士に頼んでるけど、他にも護衛を生業にしてる人はいるのよ。でも、あなた達なら、あのレオ様に頼んだら良いんじゃない?」
「レオ……」
「……さま?」
マイアとミミが不思議そうに目を瞬かせる。
「そうよ、2人が連れてきたレオ様」
リータは頬を赤らめる。
「何で急にレオ?」
「知らないの。今このクランで大人気なの、彼」
騎士の地位を奪われながらも1人、哲学者達を守るために立ち向かった誇り高さと、イケメンが耐え忍ぶ姿がお姉様達の心を鷲掴みにしたらしい。
「で、今レオのファンクラブが出来ている、と」
マイアが苦笑いを浮かべると同時に妙に嬉しくなった。
アイドルみたいね、レオ。そういうミーハーなところは、ここの女性たちも同じなんだ。
「でも、レオは忙しいと思うわ。騎士への復帰が認めらて、さらに騎士の位階が上がったらしいし」
先週、マイアとミミとイライアスはその就任式に招かれていた。物々しい巨大な石造りの建物を中心とした騎士のクランは、まるで写真や絵で見たヨーロッパの城塞都市みたいなところだったな、とマイアは思いを馳せる。
「しかも
結局就任式でも忙しそうにしていたレオとは碌に話も出来なかったことも思い出す。
「それに護衛をしてもらっても、報酬を払える程のものがありませんし……」
そう言ってミミが困った顔をした。
「そっか……」
リータは残念そうに呟く。密かにレオに会えるかと期待していたのだ。
「あ、でも丁度良いわ。鉱山へ行く準備を手伝ってくれない?」
「私達だけでは何が必要か分かりませんし」
「もちろん良いわ」
リータが嬉しそうに頷いた。
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