第2章 坑道の大冒険編

第17話 やっかいな任務

 黒い妖精事件から2週間たった。

 クランに戻ってきた魔女達のおかげで森は物凄い勢いで再生し、火事の影響も感じられないほど木々が生い茂っている。


 魔法ってまじ半端ないわ。


 新しい家に移り、マイアとミミはそこで生活を始めた。マイアは体が鈍るのも嫌なので、毎朝森の中を走り、筋トレも欠かさない。そんな彼女の生活を見て、ミミに召喚された普通の高校生と知らない他の魔女達はマイアのことを脳筋魔女と呼んだ。


「誰が脳筋よっ。体鍛えてるけどなんですけど!」


 マイアが机を叩く。頭を使っていないと言われるのは心外である。


 学校の成績だって別に悪くないんだからねっ。


「は、はぁ……」


 わたしに言われても、とミミは思った。元の世界に戻るための方法を探しているが未だに有効なものは見つからない。ミミは日々あの召喚魔法の再現に取り組んでいるが、まったく成功していなかった。

 それで最近ではすっかりマイアもこの世界での生活に慣れ切っていた。魔女がいきなり空を飛んでいようが、真冬でもないのに森に流れる小川が凍り付いていても別に驚かない。

 それどころか毎日のジョギングに変化があって良いと思うくらいになっていた。


「ってこれじゃ、まるでまったり系異世界スローライフ満喫物語じゃない!」

「はぁ……」


 マイアはときどきミミにはよく分からないことを言う。今2人は机に座りお茶をしていた。


「それで、今日呼び出されたのは何だったの?」


 ミミは朝、今魔女のクランを束ねる年季の入った魔女から呼び出しを受けていた。内心びくびくしながら、ミミが用件を尋ねると、彼女に一つの仕事を頼んできたのだ。


「仕事?」


 ハーブティーを飲みながらマイアが尋ねる。


「はい。仕事というか任務というか……赤冠モルチエのことで」

「あぁ、あの宝冠がどうかしたの?」

赤冠モルチエに嵌めてあった赤い宝石を壊したじゃないですか」

「うん、まぁ。そうするしか無かったからね」

「そうなんですけど。で、他の魔女の方々が色々試してみても宝石が元に戻らないんです」

「この森は再生出来るのに、宝石一つ再生出来ないの?」


 マイアが首を傾げる。正直、魔法なら何でも出来るんじゃないの、と考えたからだ。


「はい。何か特別な宝石だったみたいで」

「それで?」


 ミミが気まずそうな顔をし、上目遣いにマイアを見る。マイアの様子を伺っているようだ。


「あの、それで、私達に代わりになる赤い宝石を見つけて欲しいって……」


 マイアは呆れた顔になった。


「ミミ、あんた程よく面倒事押し付けられただけなんじゃないの?」

「うぅ……」


 ミミは頭を抱えた。ミミとてそんな気はしているが。


「じゃ、もしかしてその木箱に入ってるのは、赤冠モルチエ?」


 ミミが呼び出しから戻ってきたときに、大事そうに抱えていた四角い木箱が机に置かれている。


「はい……」


 木箱を慎重に開けると、そこには繊細な細工の美しい赤冠モルチエが安置してあった。以前と違うのは、真ん中の赤い宝石だけがないことだった。


「まぁ、壊したのは事実ですし……」

「わざとじゃないでしょ。 そうする必要があったからよ」

「それは……そうなんですけど」


 歯切れの悪いミミの言葉に、マイアはため息を吐いた。


「どうせ、もう引き受けたんでしょ、しょうがないわ。で、その宝石どこで見つれれば良いの?」

「えっと、グラナーティス鉱山、だそうです」

「ちなみに聞くけど、そこってここから近いの?」


 マイアは期待せずに聞いた。何となく嫌な予感がしたからだ。案の定、ミミは悲し気に首を振った。


 やっぱりー。近くだったら自分達で行くよね。


「まぁ、しょうがないけど。それでどうやっていくの? 小径通ってるよね?」

「えーと……」

「まさか徒歩? 勘弁してよ」

「いえ、歩いてということは……哲学者が建てた小屋が近くにあるので、そちらを使わせてもらえるそうです」

「でも、石見つけるってことは坑道の中に入るってこと?」

「そう、なるでしょうか……」


 ミミにも具体的にどうやって手に入れるのか分からない。


「他に何か聞いてないの?」

「いいえ。誰もその鉱山に行ったことがないそうで……」


 詳しいことは分からない。つまり、そういうことであった。


「……直させる気あるの?」


 マイアの声にうんざりしたのが混じる。


「うう……ごめんなさい」


 ミミが再び頭を抱えた。


「ミミの所為じゃないわよ。でもまずは、哲学者のクランに行って情報集める必要がありそうね」

「そうですね」

「今回は他の魔女も全面協力してくれるんでしょ。 旅するなら何か便利な道具とかないの?」


 某ネコ型ロボットが出してくれるような、どこでも快適な過ごせる系のやつ。


「便利な道具、ですか?」


 ミミが目を瞬かせる。


「そう。どこでも水や食べ物が出てくるやつとか、まるで家にいるみたいなテントとか」

「えーと……消えないランタンくらいなら」

「そっか……」


 まぁ、ダメ元で聞いてだけだから、期待はして無かったけど。

 あー今回も面倒なことになりそう。


 マイアは天を仰いだ。

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