第16話 二人の絆
ミミとイライアスが黒い妖精と魔法合戦を繰り広げている間に、マイアは走って妖精に近づきつつあった。レオが3人の動きに気が付き妖精の注意を更に引くべく、向かって行く。
その作戦とも言えないような作戦が功を奏し、妖精の意識は手に入れた宝冠から離れていた。
フィールドホッケー部舐めんなよぉ!
マイアは走ってきた勢いのまま跳躍する。フィールドホッケーと飛び上がることとはほとんど何の関係もなかったが、マイアは気合いの入る言葉を胸の中で叫んだ。
届け!
大地を蹴り上げ、精一杯に手を伸ばす。宙に浮いている3つの宝冠の中で一番近くにあった
マイアはバランス良く着地し、妖精に向かって叫んだ。
「そこまでよ!」
手にした
力を入れたらすぐポキッて折れそう。これを壊したら、この事態は収束するのだろうか。
マイアは
「待て! 3つの宝冠が揃っていれば、どんな願いも思いのままぞ」
黒い妖精の言葉にマイアの手が止まった。
「見える、見えるぞ、お前の望みが。 戻りたいのだろう? 宝冠の力を使えばそれが叶うぞ」
黒い靄がマイアを誘惑するように彼女に向かって延びてくる。
両親の顔、友達と下らないことで笑い合う瞬間、部活の仲間と切磋琢磨した時間……そういったものがマイアの心に競り上がってくる。
考えないようにしてた、私の日常……。
「それを離せばお前の願い、叶えてやろうぞ」
低く甘い声が響いた。マイアは助けを求めるように視線をさ迷わせる。黒い靄の向こうから目に入ってきたのは、妖精の攻撃で傷つき倒れた騎士と哲学者達。
レオもそうだ。イライアスも。
消耗し切ったのかミミが地面にへたり込んでいる。
ミミ……。
マイアの心の声が聞こえたのか、ミミが顔を上げた。2人の視線が交差する。ミミが微笑んだ気がした。
懐かしい顔と今ここで苦しむ人々。マイアは逡巡する。
私が還らなかったら両親はきっと悲しむ……けれど、 今ここで戻ればここの人達はどうなるの?
私は……私の……願いは……!
マイアがぎゅっと目を瞑る。
「今あんたが消えることよっ!」
そう叫んで、マイアは思いっきり赤い宝石が煌めく
それと同時に黒い妖精が叫び声を上げて霧散するが。それが狂風となってマイアに襲い掛かる。彼女は倒れないように必死に踏ん張っていると急にその風が止んで、青空が広がった。
妖精は消えた……? 全部終わったのかな……。
マイアは気が抜けて、思わずその場に倒れ込んだ。大の字に空を見上げれば雲一つない。
「あはは……」
何だか急に可笑しくなってつい笑い出した。
「マイア!」
ミミが駆け寄ってきて、泣きそうな顔でマイアの顔を覗き込む。目には今にも涙が零れそうだ。
「何泣いてるのよ。 私は無事よ」
「でも、マイアは還ることが出来たのに……」
マイアは手を伸ばしてミミの頬を軽く引っ張った。
「あんたも寝転んでみたら?」
「えっ……」
「空が綺麗よ」
驚いて顔を白黒させながらも、遠慮がちにミミがマイアの隣に寝転ぶ。
「確かに、綺麗ですね」
「言っとくけど、私は別に還るのを諦めたワケじゃないから。 探せば何か別の方法もあるでしょ」
今ここで還っても、目覚めの悪い思いをずっと抱えて生きてくなんて冗談じゃない。
マイアは
そしてそれはきっと間違ってない。
「ミミ、マイアどうした、大丈夫か?」
レオとイライアスが2人を心配そうに覗き込む。
「そっちの方が大分満身創痍よ」
マイアが笑った。つられてミミも微笑む。
「……心配して損したな」
イライアスがぷいっとそっぽを向いたが、レオは安堵のため息を吐いた。マイアとミミは体を起こす。
「嘘をついていて済まない」
「え…… どうしたのレオ?」
マイアとミミが首を傾げる。
「俺は騎士を剥奪された身だ。 騎士じゃない。 出会ったときに騎士かと聞かれて嘘を吐いた」
レオが悲し気に顔を伏せる。
「あなたは立派な騎士よ。 誰が認めなくても私達はそう思ってるわ、ねぇ?」
「はい。私もそう思います」
マイアとミミがレオに向かって微笑む。
「お前らに認められてもな……」
「もう、イライアスは減らず口ばっかりなんだから」
イライアスの相変わらずな物言いに、3人は笑った。
「ま、これで一件落着ってことね」
「後片付けが大変なことになりそうだけどな」
イライアスが周囲を見渡しながら呟く。傷ついた人々に散乱する残骸。
「ま、やれるとこからやっていきましょ」
マイアはそういって無造作に落ちている3つの宝冠を拾った。
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