第15話 ミミの炎
魔女の、この世のものとは思えぬ絶叫がクラン中にこだまする。
ミミの炎は周囲の魔力を燃料にしている為、濃密な魔力が取り巻いている魔女は自身を燃料にして燃え上がった。それと同時に動きを止めた騎士達が再びバタバタと倒れだし、
「え?」
これには火の玉を弾いたマイア本人が驚いた。正直、あの魔女のローブが焦げて少しでも焦ってくれれば良いと思っていただけに、予想以上に炎上してマイアは目を見張るばかりだ。隣を見れば、ミミが魔女に向かって両手をかざしている。見たこともない険しい顔をして。
どうやら火を消そうとする魔女とそれを防ごうとするミミが鬩ぎ合っているいるようだ。
ミミ……!
マイアは祈る気持ちでミミを見守る。
「うっ……」
ミミが苦しそうに呻いた。火の勢いが弱まっている。
「ミミ、頑張って。 あなたなら出来るはずよ!」
マイアの励ましにミミが小さく頷くいた。汗が額から滴り落ちる。
「燃えて……お願い!」
ミミがありったけの魔力を解き放つ。それがダメ押しとなり再び魔女を包む炎が大きくなった。その炎の中で魔女の体がまるで壁からタイルが剝がれる様にポロポロと体が崩れていく。その崩れた箇所からどす黒い煙のようなものが湧き出てきた。
「!?」
それを見ていたマイア達は困惑の表情になった。
何が起きているの…?
そのどす黒い煙は塊のようになって魔女の体の残骸を脱ぎ捨てる。
「おのれ……!」
その黒い塊は低い声で怨みの籠った声を出す。
「この気は……妖精?」
ミミが呆然と呟いた。
「妖精って、本当なの?」
妖精ってもっと小さくて可愛いものだと思ってたんだけど……。
目の前にいるのは形もよく分からない黒い靄だ。これを妖精と言われてもマイアには俄かには信じられない。
「間違いない……あの魔女、”魅入られし者”だったんだ……」
目を覚ましたイライアスが苦々しい表情を浮かべる。
「イライアス、あんた大丈夫なの?」
「……まぁ、あちこち痛いけどな」
「で、その”魅入られし者”って……」
マイアが尋ねようとした途端、急に辺りが暗くなり、風が強く吹き始めた。
「え?」
見上げれば黒い雲がクランを覆っている。
「この魔女はもう使い物にならんな。だが、こちらには宝冠がある」
そう言って異形の姿をした黒い妖精は3つの宝冠を再び宙に掲げる。
「何をする気だ!」
倒れた
「3つの宝冠は知恵と強さと奇蹟、賢人の分かれた力そのもの。 その3つを統合すれば完全となる。圧倒的な力を手に入れて妖精王となるのだ!」
「させないぞっ」
哲学者達が黒い妖精を止めようと駆け出す。
「愚かな……我は矮小な人間とは違うぞ。 まずはここの人間で試すのも悪くないな。 3つの宝冠の力とくと見るが良い」
黒い靄から鈍い光を放つ弾が殺到する人々に向かって放たれる。その弾が炸裂し人々を吹き飛ばした。悲鳴を上げ、人々は散り散りに倒れる。
「何か魔女よりもっとヤバいものが出てきちゃったみたいなんだけど……」
マイアが唖然と黒い妖精を見る。
「あの3つの宝冠のどれか1つでも壊せれば……」
宝冠を見つめながらミミが答えた。
「近づくしかないか……」
マイアは覚悟を決める。このままではどのみち皆危ないのだから、誰かがやるしかない。
「脚には自信あるしね」
「どうするつもりですか?」
「勿論、近づいて奪うのみ、よ!」
マイアが高らかに宣言する。
「作戦もへったくれもないな」
片眉を上げイライアスが減らず口を叩いた。
「他にあるの?」
「……ない」
「じゃ、やるしかないわね」
「……分かりました。わたしがあの妖精を惹きつけます」
ミミも覚悟を決めたように頷く。
「お前1人でそんなこと出来るのか?」
腕を押さえながらイライアスがリータの手を借りて立ち上がる。
「ちょっと大丈夫なの?」
「お前らだけじゃ失敗するに決まってるだろ。ミミお前はとりあえず、片っ端からその辺にあるものに火をつけろ」
「分かった」
「2人とも頼むわよ」
3人は頷き合い、そしてマイアが黒い妖精に向かって走り出す。目立たぬように大きく弧を描きながら近づいていく。
あれに死角とかあるか分からないけど……。
一方ミミは建物の前に走り出しながら、手当たり次第に火を着けていく。打ち捨てられた机や椅子、騎士達が落とした剣などが次々燃え上がった。イライアスがそれを風の力で持ち上げる。
「くっ……」
痛みに顔を歪めながらも、イライアスはそれらを黒い妖精に向けて放った。
「小賢しい真似を」
黒い妖精も光弾を放ちそれらを打ち落としていくが、2人の魔法使いは次々と燃えさかる道具をぶつけていく。
「うるさい連中だ」
黒い妖精が襲い掛かる炎の塊を粉砕しようと、竜巻をおこそうとした瞬間、レオの剣が妖精の黒い体を貫いた。
「貴様の好きにはさせん!」
「馬鹿め、剣など我に効くものか」
竜巻がレオの体を吹き飛ばした。勢いは止まらず、今度はミミへと向かっていく。ミミが衝撃に備え思わず目を閉じた。
「そこまでよ!」
マイアの手が赤い宝石の輝く
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