第14話 マイア、反撃に出る

 マイアとミミとリータがイライアスに駆け寄る。


「イライアス、しっかりして」


 3人はイライアスを助け起こし木の幹に体を預ける。呼びかけるが意識はない。


「あら、そういえば見たことあるわね、アナタたち」


 妖艶な魔女が腰に手を当てマイア達をじーっと見る。


「あぁ、騎士達に捕まってたマヌケな子達ね」

「マヌケ……」


 いかにも馬鹿にした言い草にマイアが憮然とする。


「まぁ、でもアナタ達のおかげでここに来る理由が出来たし感謝しないとね」

「じゃぁ、あの白い狼はやっぱり本物の狼じゃない……」

「そっ。私が作り出して襲わせたのよ」


 魔女がニヤリと笑う。


「そんな、騎士達はあんたの味方でしょ」


 驚いているマイアを見て、魔女があははと笑いだす。


「仲間ですって! おかしいわ。彼らは私の下僕よ、どうしようが私の自由でしょう?」

「毒婦め!」


 魔女の言葉を聞いて、激高したレオが切りかかろうとするが、その前に騎士団長グランドマスターが立ちはだかる。剣を構え感情の無い顔をレオに向ける。


騎士団長グランドマスター! こんなにコケにされても、まだ目が覚めないんですか! 誇り高く高潔な貴方はどこへ行ってしまったんです?」


 レオの問いかけを全く無視し、騎士団長グランドマスターが討ち込んでくる。


「くっ!」


 容赦のない斬撃を受けるのが精一杯のレオ。 やはり技量と経験に勝る騎士団長グランドマスター相手では分が悪い。


「もっと盛り上げてあげるわね」


 魔女がクスクスと笑い、指を鳴らす。 すると、倒れていた騎士達がむくっと起き上がった。


「!?」


 哲学者達は騎士達に向けて散らばいる道具類や小石を拾い手あたり次第投げつけている。しかし亡者のような騎士達は頭から血を流してもじわじわと止まらずに迫ってきていた。


 このままでは本当に凄惨な殺人が行われてしまうわっ。 何とか止めなきゃ!


 マイアが何かないか、藁にも縋る気持ちで周りを見回す。そこでマイアは自分の足元にも魔女が散らした掃除道具と小石がいくつも転がっているのを見た。その掃除道具の中には一つ、砂利や砂を均す為に使う物でL字型をしているものがあった。


「これだ……!」


 そのフィールドホッケーのスティックに似た道具とボールと形の近い石を拾い上げる。


「ミミ、あなた火を着けられるって言ってたわよね」

「はい、そうですけど……?」

「それってどんな物にも着けられるの? 例えば、こういう石でも」

「大丈夫ですけど、それが……」

「すぐ消えたりしない?」

「普通の火と違って、魔法の火は大気中に満ちる周囲の魔力を取り込んで燃えるのですぐには消えません 」

「なら良いわ。 この石に火を着けてくれない?」

「良いですけど……どうするつもりなんですか?」


 ミミが困惑気味に問いかける。


「一か八かぶつけるのよ、あのいけ好かない魔女にね」


 マイアがL字型の道具を魔女の方へ向けた。魔女は学長の居る建物の方を見ており、こちらの様子は気にしていない。こんなことをして何になるのかマイア自身にも分からないが、何かせずにはいられなかった。


「油断してるわ。今がチャンスよ」

「……分かりました」


 探索術を使い、ミミが魔女の様子を探った。あの魔女の周りは凄い魔力が渦巻いている。


「でも気を付けて下さい。上手く説明出来ませんが、明らかにあの人は普通の魔女じゃないです」

「もう何だって良いわ。とにかくやるしかない」


 破れかぶれな気持ちでマイアが足元に小石を置いた。


「ミミ、炎を」


 ミミが小石に手をかざすと、火がともった。


「見てなさいよ、一泡ふかせてやる」


 フィールドホッケーでは人にボールをぶつけることがある。キーパー以外は体のどこかにボールが触れると即反則になる。それを狙って試合ではワザとボールをぶつけて反則を誘うのだ。


 ま、本来はもっと接近してやるもんだけど……。 あ、これってある意味物理的ファイアーボールじゃない?


 こんな状況で下らない事を考えた自分にマイアが少し笑った。これで少し肩の力が抜けた彼女は、火のついた小石を見つめ一つ深呼吸をし、シュートを撃つ姿勢を取る。


 集中しろ自分。 あとは野となれ山となれ、よ!



 その時、建物の入口のドアが開いた。哲学者達が驚いた顔している。そこから出てきたのは白い髭を蓄え深い藍色のローブを纏った風格のある老人で、両手で木箱を抱えていた。


「いけません、学長!」「それを渡してはっ……」


 口々に哲学者達が学長と呼んだ老人が歩むのを止めようとするが、学長は視線でそれを制した。


「魔女よ。 お前の求めるものはこれだろう?」


 学長が木箱の蓋を開ける。そこには、銀色をした月桂冠の冠のような見た目の宝冠が入っていた。白冠ミトラである。


「これで騎士達を止めてくれぬか?」

「まぁ! 学長は話が分かるわね」


 魔女が興奮気味に喜ぶ。そして手を招きすると、白冠ミトラがふわりと浮き上がった。そして、レオと戦っていた騎士団長グランドマスターを始め騎士達の動きが止まる。

 さらに、魔女の頭上にはいつの間にか他の宝冠が2つ現れている。赤い宝石の着いた繊細な細工の赤冠モルチエと王様が被るような大仰な見た目の青冠アズラクが、宙に浮かんでいる。

 そこに白冠ミトラがすーっと近づいていく。哲学者達の絶望と嘆きの声が響き渡った。


 その3つが揃うその瞬間、マイアが放った火を纏う小石が動きを止めた騎士達の間を縫い、魔女の顔にクリーンヒットした。






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