第7話 魔女という者、ミミという少女

 というか、忽然と消えるみたいに居なくなったんだし、今頃大騒ぎになってるよね。TVとか新聞社とかマスコミが学校に押し掛けてきてたりして。現代の神隠しとか妙な見出しつけられてるわ絶対。

 きっとネット上で、ヤラセだとか目立ちたいだけでその辺に隠れてるとか、全然見当違いなこと書かれるだろうなー。

 家族には余計な心配とか苦労はかけたくないのに。


 そんなことを考えていると、ミミがもぞもぞと動いた。おもむろに体を起こししたが、そのままぼーとして動かない。


「ミミ?」


 マイアがためらいがちに声を掛けると、ミミがこちらを向き首を傾げて止まった。そしてはっとした顔になった。

 どうやら自分の状況を思い出したらしい。


「おはよう、ございます……」


 ミミは眠たそうに目を擦る。


「おはよう」


 苦笑いを浮かべてマイアが挨拶を返す。


「何か見てるんですか?」


 ミミがベッドから抜け出しマイアの隣に立った。


「んー、別に何を見てるってワケじゃないんだけどね」

「すみません。わたしのせいでとんだことに巻き込んでしまって……」


 俯いたミミをこれ以上落ち込ませないようにマイアは大げさに伸びをする。


「まぁ、しょうがないわよ。状況が落ち着いたら還る方法は改めて探せば良いわ」


 もしかしたら自分が居なくなって向こうの世界は大変なことになっているかもしれない。けれども今自分はここにいるのだ。マイアはこのどうしようもない現実を受け入れ始めていた。


「はい……」

「それで聞きたいことが色々あるんだけど、魔女って実際この世界で嫌われてるの? ここの人達はそんな感じでも無さそうだけど」

「……嫌われているというよりも恐れられている、と言った方が正しいかもしれません。何をするか分からないと思われてる、というか」

「そういうとこ私の世界と似てるかもね。ま、昔の話なんだけど。今は魔女と呼ばれる人達も居ないし。そういえば、ミミの家族は大丈夫なの? あの森に居るんじゃ……」

「違います! 家族はあそこには居ません……魔女、じゃないから……」


 ミミの思いのほか鋭い声にマイアは軽く目を見張る。


 家族と仲が悪いのかな……。


 この話題には触れない方が良さそうだと、ミミの様子を見てマイアはそう判断した。


「分かった。じゃ、魔女は世襲とか代々魔女の家系みたいなのは無いんだ?」

「そうです。魔女は血筋で決まるものではありません」

「それじゃ、どうやって魔女になるの? 魔女のクランに行くだけで良いの?」


 ミミは首を振った。


「いえ、魔女になれるかどうかは、その資質があるかどうかで決まります」

「資質?」

「はい、魔力を操る能力と言えば良いのでしょうか……とりあえず、その資質は受け継がれないんです」

「なるほど」


 ま、確かに向こうでも、オリンピックに出るくらい才能に恵まれている選手の子供だからといって、その子も同じ才能があるかどうかは別問題だもんね。


 そう思えば納得出来る。


「魔女と騎士って仲悪いの?」

「そういう訳ではないんですが……仲が良い悪いというより、必要が無ければお互い関わり合いになることが無い感じです」

「ふーん。じゃ、あの襲撃も相当びっくりする出来事だったってこと?」

「はい。たぶん魔女の誰も予想して無かったと思います」

「そうなんだ……あ、そう言えばミミってどんな魔法使えるの?」

「えっ」


 ミミの目が泳ぐ、動揺しているようだ。


「どうしたの?」

「いえ、あの、その……えっと、ですね」

「うん?」

「その……探知能力とちょっとした治癒魔法と……あ、あと小さい火も起こせます……」


 恥ずかしそうにミミが小声で答える。こんなことしか出来ないのが情けない。


「なるほど……」


 マイアは何とコメントしたものか、と考える。


 何かを探す能力に治す能力に火を起こす能力か……。


 導き出される答えはこれしかない。


「ま、旅をするには良い能力よね」

「旅……ですか」

「うん。だって、便利じゃない? 治したり燃やしたり何か探したりって」

「そんなものしか出来なくて……」


 がっくしとミミは肩を落とす。口にはしないが、きっとマイアは失望しただろう。


「そんなことないわ。良い、ミミ。自分が出来ること出来ないこと、得意なこと不得意なことをちゃんと把握するってことは重要なのよ」


 短い付き合いだが、マイアの印象ではミミは自分を卑下しがちだと思う。


 家族と上手くいってないのが、関係してるのかもね……。


「そう、なんですか……?」

「そうよ。そこからどう出来ることを増やしていくか、どう苦手を克服するか、どういう練習をするかを考えていくんだから」

「はぁ……」

「ま、つまり自分には出来ることがあるって思わなくちゃ。ミミに私には出来ないことが出来るんだから。私魔法は使えないしね」


 マイアはそう言ってミミに笑いかける。


「はい……」


 泣きそうな顔を隠すようにミミは俯いたまま頷いた。今までそうやって肯定的に言われたことが無かった。自分を励ますために敢えて好意的に言ってくれただけと分かっていても、ミミには嬉しいことだった。


「さて、お腹空かない?」

「そう言えば……」


 マイアもミミも昨日から何も食べていない。まるでシンクロするように同時にお腹が鳴った。妙に可笑しくて2人は笑いあう。


「じゃ、何か食べるものもらって来ないと」



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