第6話 しばしの休息
「あ、こんにちは……」
マイアはぎこちない笑みを浮かべ、とりあえず怪しい者ではないことをアピールする。驚いた顔のまま固まっていた先生らしき群青のローブを纏った中年の男性ははっとして咳払いをした。
「君達は一体誰かね?」
それを合図に生徒と思られる若者達も口々に囁きだす。
「えーと……」
3人は顔を見合わせる。どこからどれだけ説明したら良いだろう。
「その前に、ここは“哲学者”のクランですか?」
イライアスが教師の男性に向かって質問する。
「そうだが? 今は天文学の授業をしているところだ」
自分の推測は間違っていなかったと知って、イライアスはホッと息を吐いた。
「それで、君達は何だね?」
「僕とこのミミは魔法使いです。こっちのマイアは違うけど。事情があって、魔女の森から近い星読台を使わせてもらいました」
「事情?」
教師が眉間に皺を寄せる。
「はい。騎士達が森を燃やし、魔女狩りを始めて。それで僕達は逃げてきたんです」
「騎士達が魔女狩り……とは面妖な」
イライアスの説明を聞き、教師の眉間の皺が深くなる。3人の様子を見れば、疲労困憊で土や煤で汚れていて、嘘を言ってる風には見えない。だが、騎士達が急に魔女狩りをするなどとは思えないない。
生徒達も俄には信じがたい話に騒ぎが一層大きくなる。
「あのー……」
考え込んでいる教師の様子を伺いながら、マイアが口を挟んだ。
「とりあえず、どこか休めるところありませんか?」
マイア本人はまだ大丈夫だが、ミミは気が抜けたのか目が閉じかけている上に、頭がぐらぐらと動いている。今にもこの場で寝てしまいそうだ。
「教授!」
1人の少女が勢い良く手を上げた。
「私のいる女子寮に空き部屋あります」
マイアは声のした方を見ると、発言したのは三つ編みに眼鏡を掛けた同世代くらいの女の子だった。
「とっても疲れているみたいですし、休ませてあげては?」
「……そうだな」
教授は少し考えたが、女子学生の意見に同意した。彼女は嬉しそうに立ち上がり、マイア達も前にやって来た。
「じゃ、2人は私に着いてきて」
女の子はそう言ってマイアとミミに微笑み掛ける。明るい雰囲気の女の子ね、とマイアは思った。
「え、イライアスは?」
「女子寮は男子禁制なの」
女の子は苦笑いする。
「ああ」
「僕の心配より自分達の心配しろよ」
「はいはい」
自分に気を遣うな、ということだろう。その言い草が可笑しかったが、マイアは敢えて呆れたような声で答えた。
「心配ない。部屋の空きはある」
教授がそう言ったので、マイアはミミを連れて遠慮なく女の子の後に着いていくことにした。
「ミミ、大丈夫?」
「はい……」
ミミは眠気を払うように頭を振る。
「そんなに遠くないから、安心して」
「ありがとう。えっと……」
「私はリータ。マイアとミミで良かった?」
「ええ」
リータの案内で一旦建物の外に出る。マイアが何気なく振り返ると、その建物は屋根がドーム上になっていた。
まるでプラネタリウムみたいね。
石畳を歩いて程なく、木立の中に4階建ての洋館が見えてきた。
「ここが私の住んでる女子寮よ」
リータはそう言って中へ入る。部屋に案内し終わると、自由に使って、とマイアとミミを残し部屋を後にした。
マイアとミミはそれぞれベッドに倒れ込むように身を沈めた。こうして体を横たえると、マイアも直ぐに眠たくなってきた。
私も相当疲れてたみたい……。
マイアはたまらず目を閉じる。
思えば、ヤバい1日だったな……。異世界に召喚されたり、何かずっと走ってた気もするし。
消耗したのも仕方ない。マイアは眠りに落ちた。
次にマイアが目を覚ました時、部屋の中は薄暗かった。夜が明けかけているようだ。
あれ、今日朝練あったんだっけ。
マイアは寝惚けながら、今日の予定を思いだそうとする。
えっと、それから今日は……。
そこで彼女は今いる部屋が馴染んだ自分の部屋ではないことに、天井を見て気が付いた。
あー全部夢だったら良かったのに。異世界に居ることも、良く分からない騒動に巻き込まれてることも。
マイアは切ない気分になったが、頭を振って気を取り直す。
弱気になるなんて、らしくないな。
ベッドの中でうーんと体を伸ばし、起き上がった。
どこくらい寝てたんだろう……。
欠伸を1つすると、ベッドを出て窓の側に立つ。片方のベッドを見るとミミがまだ熟睡していた。
音を立てないようにそっとカーテンを開けると、明るくなりかけている空と静かな木立が見えた。
昨日とはうって変わって穏やかだ。
これからどうなるのかな、私……。本当にちゃんと元の世界に還れるの?
徐々に日が昇る様を見ながら、マイアは考えないようにしても、つい考え込んでしまうのだった。
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