第4話 野営地にて
しばらく馬を走らせた騎士達は、野営地へと戻ってきた。そこには幕屋が多数建てられており、ここを基地として利用しているようだ。
騎士達はマイアとミミを担ぎ、その幕屋の1つに放り投げるように入れる。
痛っ! ちょっと、もうちょっと丁寧に置いてよ。
縛られて身動きが取れないため、もろに床に叩きつけられることになった。陽が落ちてすっかり暗くなっているせいか、明かりも無い幕屋の中はどうなっているのかよく見えない。
せめて、口の覆いくらいほどいていって欲しかったんだけど……。
マイアはうーうー、と声を漏らしながら、国に巻かれた布をずらそうと頭を振ったり、口をモゴモゴと動かし、ついには何とか外すことが出来た。
「あー苦しかった。ミミ、大丈夫?」
「はい……」
どうやらミミは大人しくしていたお陰か、口を塞がれていなかったらしい。
「あいつら一体何なの? どうして捕まえられなきゃならないの? ホントに、もう……何なのっ?」
もはや最後はマイアの心の叫びであった。ほんの数時間前までは普通に生活していたのに、今どうだろう。散々意味の分からない事に巻き込まれて、ついに感情が爆発したのだ。
「ごめんなさい……」
ミミが声を震わせた。
「え?」
「わたしが……召喚なんて試さなければ……」
そう言ってミミの啜り泣く声が聞こえてくる。
「ミミ……」
「いつも……いつもそうなんです。わたしは人に迷惑ばっかりかけてしまう……」
「私は別に、ミミを責めてる訳じゃないのよ」
「いえ、良いんです。わたしが全部悪いんです。わたしはグズでノロマで、頭も悪くて、おまけに魔力も上手に操れない、ダメな魔女なんです……」
暗くて見えないが、ミミは号泣していた。
「ちょ、ちょっ と、どうしたのよ?」
これにはマイアも焦った。そんなに彼女を責めているように聞こえてしまっただろうか。
「別に森が燃えたのも、騎士達に誘拐されたのも、ミミの所為じゃ無いでしょ」
「それは……そうですけど。そもそもわたしがすぐに還せてたら、マイアは巻き込まれずに済んだんです」
……まぁ、それはそうなんだけど。
「だからって、何でもかんでも自分の所為にすることないわ。必要以上に自分を卑下しちゃ駄目よ」
「でもっ……」
「そういうのは後にしましょ。まずはこの状況なんとかしないと」
「あーもうお前らうるさい!」
2人の会話に突然割り込まれて、ミミの鼻を啜る音が止まった。
「誰か居るの?」
驚いたマイアの問いかけに不機嫌そうに答えが返ってくる。
「いるよ」
聞き覚えのある声だ。
「その声は、イライアス?」
ミミが恐る恐る暗がりに向かって話し掛ける。
「そうだよ」
「さっきのイヤミ男!」
マイアは思わず叫んだ。
「誰がイヤミ男だ! 僕は天才魔法使いで第2の賢人を目指す男だ」
「……」
しばし3人の間に沈黙が流れる。 その傲慢さは何時なんどきでも発揮されるらしい。
「で、その天才が何で捕まってるワケ?」
呆れた調子でマイアが尋ねる。
「ゆ、油断しただけだっ。普段なら騎士風情に捕まったりなんかするか」
「ふーん。大した天才ねー」
「だ、大体お前らうるさいんだよ。おい、ミミめそめそ泣くな。耳障りだ」
「う、うん、ごめんなさい」
「別にこいつに謝る必要ないわよ、ミミ」
「生意気な女だな」
「ふん、何よイヤミ男」
お互い姿ははっきり見えないが、マイアとイライアスの間に火花が散っている。
「あのー……とりあえず、ここから脱出する方法、考えませんか……?」
睨み合っていた2人はミミの言葉にはっとして、我に帰った。
「そうだった。まずはこの縄をほどかないと」
「仕方ないやつらだな。ちょっと待ってろ」
暗い天幕内にほんの少し、丸い光が現れる。
「あんまり明るいと外の連中に見つかるかもしれないからな」
イライアスはそう言って立ち上がり、何事か呟くと2人を拘束している縄がスパッと切れた。
「ありがとう、イライアス」
「やるじゃない、あんた。ま、言うだけの事はあるって感じ?」
2人は立ち上がり、光の側に集まって座った。
「ふん、天才だからな、紐を切るくらい簡単だ」
「で、あんたは縄が切れてたのに何で逃げなかったの?」
「陽がある内に逃げ出したら目立ってすぐ見つかるだろ」
「それで夜まで待ってたのね」
「そうだ」
「でも、どうやって逃げるの、イライアス? 外には夜でも見張りがいると思うし、そう簡単に逃げられなさそうだけど……。何か策があるの?」
「あるに決まってるだろ」
ミミの質問に自信有り気にイライアスが口角を上げる。
「どうするのよ?」
「良いか」
イライアスは2人に近づくように手招きする。3人は体を近づけて、ヒソヒソと小声になった。
「ミミ、お前の能力なら馬がどの辺りにいるか分かるだろ?」
「大体で良いなら」
「馬をどうするつもり? 奪うの?」
「いいや、違う。馬ってのは神経が繊細な生き物なんだ。少しの物音でもパニックになるくらいに」
「こっちの世界でも馬はそういうのは生き物なのね。でも、騎士達を乗せるような馬は訓練されてるでしょ。ちょっとやそっとじゃパニックにならないんじゃない?」
「多少の音ならな。でも僕が起こすのは雷鳴だ」
「雷鳴? あんた雷起こせるの?」
マイアが目を丸くする。その反応にイライアスは得意そうな顔をした。
「そのくらいこの天才には朝飯前だ」
「それで馬がパニックになるの」
「局所的に起こせばな。例えば馬を繋いでいる直ぐ側とかで。ここは奴らにとって土地勘の無い荒れ地だ。こんなところで馬が暴れて逃げ出すなんて、騎士達は絶対避けたいはずだ」
「なるほど、馬に気を取られてる間に逃げ出そうってことね?」
「そういうことだ」
自信満々と言った表情を浮かべるイライアス。
「ミミ、馬の居るところが分かるの?」
「やってみます」
ミミは頷き、地面に手を当てて、気配を探る。
馬……人……蹄の音……。
「いました」
「どこだ?」
「西の方角、距離はそんなに遠くない。たぶん10メートルくらい」
「よし、そこまで分かればいけるぞ」
そこでふと、マイアが根本的な疑問を口にする。
「で、どこに逃げるの? 私が言うのも何だけど、そもそもここどこ? 魔女の森からどのくらい離れてるの?」
「知らん」
イライアスのきっぱりとした返事に、マイアとミミが思い切り肩を落とす。
「ちょっと。どこ行くか決めてないの? 天才のクセに」
「仕方ないだろ。僕にもここが正確にどこかは分からないんだからな。でも、ここで大人しくしてても、事態は好転しない。たぶん、奴らがしているのは魔女狩りだ」
イライアスが険しい顔になった。
「魔女狩りって、イライアスどういうこと?」
「だってそうだろ。魔女の森が燃えたのも、それを狙って都合良く現れた騎士達も、偶然だと思うか? 僕達は炙り出されたんだ」
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