第7.5話 彼氏くん、見てない

 きゃいきゃいとにぎやかな雰囲気の中、女性客たちの人目を惹く男性が二人。褐色の肌に明るい金髪のいかにもチャラそうな男と黒髪のパーマに黒マスクなこれまたチャラそうな男。タイプこそ違えど顔の整った二人が今、カフェで机を挟んで対峙していたのだった。


 話題はもちろん先ほどの「二人」のことである。 

「いやぁ、それにしてもやっぱりあの時の葵ちゃんはよかったっすね」

「ああ、ああいう土壇場に強い女の子もヒロインとしてまた魅力的だよな」


 とっさに彼氏をかばった葵ちゃんのヒロイン力の高さにもう二人はメロメロだった。無論「推し」としてではあるが。

 たっぷりクリームの乗ったウインナーコーヒーを味わいながら、堂島はどこか自慢げに口を開く。


「でも、彼氏くんもかなりいいとこいってるんすよ。この前海行ったときなんて葵ちゃんのこと守っちゃったりなんかして、王子様って感じ?」

「へぇ、やるじゃん彼氏クン。藤本もいい男を選んだな」


 一方の結城も十分に冷ましたブルーマウンテンで舌を濡らしながらうんうんと楽しそうに話を聞き入る。

 この二人、手段こそ違うものの結局は「幸せな二人を見たい」という目的は同じなのだ。なので一度こうして分かり合ってしまえばしばらくは和やかな時間を過ごすことができる。


「しっかし、結城センパイはなんで葵ちゃんにちょっかいかけたんすか。彼氏持ちなら他にもいるっしょ?」

 その言葉に結城はたれ目がちな瞳をぱちくりと瞬かせる。そしてすぐにしたたかに笑う。


「なぜって、藤本が可愛いからだよ。彼女、一年の中でもかなり評判になってるんだぞ。そんな女子に彼氏ができたなら気になるに決まってるだろ」

「へー」

 自分で聞いておきながらあんまり興味なさそうな堂島。どうやら彼は彼女重視の結城とは違って、彼氏重視で応援しているようだった。


「じゃあ、お前はどうしてだ?」

 なので結城が返す言葉で尋ねれば、少しの沈黙の後堂島はぽつぽつと口を開いた。


「や、大したことないんすけど……彼氏くんには一度助けてもらってるんすよね」

 堂島の目が懐古にゆるりと細められる。ほんのちょっとした、けど忘れられない思い出。


「一年の時にサークルの勧誘のビラもらうじゃないすか。中には強引なやつもあってさ、どーも断り切れなくってもらいまくってたら知り合いのフリして助けてくれたんすよ」

 あの時の彼はめちゃくちゃぎこちなくって、なんならチャラっぽい自分にも若干ビビっていたにも関わらず、それでも困ってると思って助け舟を出してくれた。

 その姿がひどく眩しく見えた。


「オレ、昔からボランティアって興味あったけどこんなナリだから似合わないかなって思ってたんすよ。でもオレもあんな風に人助けしたくなって、そんで今のサークル入ったら、彼のことが好きになったって子が出てきたからなんか嬉しくなっちまって……だから、二人のことは応援してるんです」

 そこまで話してから恥ずかしくなったのか、すっかり冷めたウインナーコーヒーを堂島は一息で飲み干す。わずかに赤くなった頬が微笑ましくって、結城はふは、と笑いを漏らす。


「じゃあ、ますます彼らのことを応援してやらないとな」

 微笑ましく後輩を見守る結城のまなざしに、堂島も嬉しそうに頷いた。


「そうっすね。じゃあ、」

「ああ、」

 そして声をそろえて二人は今後の方針を誓う。


「ほのぼの路線でいきましょう!」

「ハラハラ重視でやっていこうな」


「……あ?」

「は?」

 そしてあっという間に決裂したのだった。

 しばらくの沈黙の後、結城は黙って伝票を手にする。そして二人とも無言のままお会計をすますと、店の外まで早足で進んだのだった。そこまでが我慢の限界だった。


「次会ったときはぜってーほのぼのの良さをわからせてやっかんな? ごちそうさまでした!」

「そっちこそ首洗って待ってろよ!どういたしまして!」

 そうして解釈で殴り合うことを大音量で誓った二人は、フンとそっぽを向いて反対の方向に歩き出したのだった。




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