【ambition:side cigar】
預かった車両を運転して戻り、修理場に入ると、上役が〝おっ〟という顔で事務所から出てきた。
〝上手くいったなぁ、さすが~〟と言われると、〝たまたま友達がいまして、上手く進められたんすよ〟と返しておく。
後輩が近寄ってきて〝僕、やりますよ!〟と申し出てくれるが〝ああ、
シフトレバー周辺のパネルを外す。予想通り、こぼしたであろう飲み物の跡と、その為に固まった
30分ほど作業し、エンジンをかけてシフトレバーを動かすと、動きが格段に軽くなった。ホッとしてエンジンを切り、パネルを戻す。
思いつき、ついでにと
建設会社の社有車は様々な人が使うからか、タバコの灰や
再び
自分のデスクに戻って一息つき、今朝、飲み
請求書のフォルダを選び、入力用のデータファイルを開く。
特にここまでする必要もないが、香苗の立場上、書類としての請求書が必要かもしれないと思った。対処についても、
(俺は、なんでこんなに張り切ってしまっているんだろう)
後輩や事務員さんに任せればいいのにと、自分で自分に
(・・・香苗に会えると思うからか・・・)
この先、あの会社と取引が出来れば・・・
この流れなら、自分が担当になるだろう。仕事中でも、香苗に会うことができると予想がつく。
戻る途中に気がついた、香苗の事をよく知らないという事実。これが、自分を
(仕事を利用してでも・・・香苗を知る機会を増やしてやる)
(win-winってやつだよな)
海斗は、無理やり正当性を自分に言い聞かすと、請求書の印刷ボタンを押した。
それから、午前中に予定していた修理業務に取り掛かった。後輩との二人作業で進め、あらかた済むと、先に後輩を
その間の1時間で最終調整をするのだ。後輩に教えながらの作業も
後輩が休憩から上がってくるのを見届けると、交代で、自分が遅めの
午後1時半。
持ってきた弁当をレンジにかけている間、デスクの引き出しに入れておいた、香苗の会社への請求書類を取り出す。
新品のクリアファイルにいれ、更に会社の封筒に入れて、丁寧に
(
まただ。自分で自分に、苦笑を漏らすしかない。
(どうしたんだ、俺は。もっと他に考える事はあるだろうよ)
いつもなら、食事を取った後に仮眠をしたり、電子タバコを吸いに喫煙所に行く。
そうしながら、我が子の将来や妻の体調を案じ、休日の過ごし方の
(ああ、いつもの俺らしくない・・・)
・・・〝いつもの俺〟?
(俺は・・・いつも、どんな奴なんだ?)
では〝今の俺〟はなんなんだ?
責任のある立場も忘れ、一人の女性の事をただただ考えている。仕事すらも体良く、自分の欲望のままに利用している。
(俺・・・どうしちまったんだろう)
レンジの音が響き、ハッと我に返った。
レンジから取り出してきた弁当を見ると、少しだけ胸が痛む。
これを作ってくれる妻がいるのに、俺はどうして、他の女性の事を考えているのだろう・・・
・・・
『休憩が終わったら、車、返却に行くか・・・』
ぐちゃぐちゃとした葛藤を消すように、呟いた。
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