第3話
エレーナがフマ男爵家の不審な点に気付いてから数日が経った。
国ではフマ男爵家への調査が続いているが、まだ正式な結果は出ていない。しかし、調査に行った者たちに不自然なところが見られているので、そこから調査を進めて行くようだ。
「調査に行った方たちが軒並みフマ男爵家を擁護しているというのは本当ですか?」
「そのようだ。私も直接その者たちに会った訳ではないが、調査に関わっている者からはそう聞いている。明らかに碌に調査が進んでいない状況でそういったことを言いだすのはおかしいという事で、さらに調査員が集められているらしい。それと、その魔術に対抗できるように魔道具もいくつか持ち出されているようだ」
レイシャは夕食の場で父親であるレフリア伯爵とフマ家の捜査状況について話していた。
「そうだとすればエレーナが言っていた洗脳術が実在する、という話が現実味を帯びてきますね」
「そうだな。とりあえず今話せる内容はこれくらいだ。エレーナは独自に調べているようだが、出来れば危ないことはして欲しくない。レイシャの方からもあまり深くかかわるな、と話しておいてくれないか。私からの言葉では受け流されることが多いのだ」
「ええ、私からも注意しておきます。私のため、と言ってはくれましたが、その所為でエレーナに何かあったら嫌ですからね」
レイシャは父親との話が終わると自室へ戻った。
「エレーナが戻ってきているか見て来てもらっても良いかしら」
「はい。了解しました」
部屋に戻るなり側に使えていた使用人にレイシャはそう指示を出した。
先ほどの夕食の場にエレーナが居なかったのはレイシャを含め、レフリア家の者は把握している。
さらに言えば帰って来ていなかった理由も凡そわかっている。今回のようなことは決して初めてではないため、心配はしているもののまたか、といった感覚が強いのだ。
それに、エレーナは別に1人で行動している訳ではない。護衛はしっかり付けているし、側仕えの使用人も一緒に行動している。
「戻りました。入室してもよろしいでしょうか?」
「? ええ、いいわよ」
エレーナが帰って来ているのかを確認しに行った使用人が思いの外早く戻って来たため、レイシャは首を傾げながらも入室の許可を出した。
「失礼します」
「エレーナは戻って来ていたのかしら?」
「先ほど戻って来たようです。それと、来客がありました」
「来客? こんな時間に?」
既に夕食を終えている時間だ。予定していたのなら別だが、普通このような時間に来客が訪れることはない。
「はい。そのため、レイシャ様もすぐにお召し替えをお願いします」
「……わかったわ」
私も来客に会う必要があるのかしら、と疑問に思う中、もしかしたらイゲリス家からの謝罪、もしくは捜査関係の話しなのかもしれないと判断したレイシャは、指示通り部屋着から急いでドレスに着替え、来客が待つ場所へと向かった。
レイシャは自室から出て来客の待つ場所へ向かっていた。
「どこでお待ちになられているのかしら?」
レイシャは来客がありその対応のための支度をしただけのため、まだ来客が誰なのかどこで待っているのかは聞いていない。
普段と同じような来客であれば待合室に向かうはずなのだが、今回はその場所とは異なる場所のようだ。
「貴賓室になります」
「そこでお待ちになられている、という事はレフリア家よりも地位が上の方という事ですか」
「そうなります」
この時間の急な来客であれば特別な理由がない限りレフリア伯爵家よりも地位の低い貴族家の者が来た場合、商人と同じような扱いをすることはざらにある。これはレフリア家に限った話ではない。
しかし、その状況で貴賓室を使用するという事は、レフリア伯爵家よりも地位の高い者が来たという事を示している。よって、イゲリス家からの謝罪の線は消えた。
「どなたがお越しになっているのでしょうか」
「侯爵家の方、と聞き及んでいます」
「侯爵家……ですか」
侯爵家、と聞いてレイシャが最初に思い浮かんだのは、シレスとの婚約を結んだ理由の元であるメシャル侯爵家だった。
シレスだけでなく、イゲリス家が洗脳術の影響を受けているのであれば、領地が隣接しているメシャル侯爵家も他人ごとではない。とすれば、この侯爵家が来ている可能性は非常に高い。
そうしてレイシャは貴賓室の前までやって来た。
貴賓室の扉の近くに待機し、側仕えであるルルーが中に居る使用人にレイシャが到着したことを告げる合図を送った。
少し間を開けたところで中から扉が開いた。
「お待たせしました。中へお入りください」
父であるレフリア伯爵の側仕えである男に部屋へ入るよう促され、レイシャたちは貴賓室の中へ入った。そこには当主である父親と母親、メシャル侯爵家の当主とその令息、そしてエレーナが居た。どうやらレイシャは最後に到着したようだ。
「お待たせしてしまったようですね。ご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ございません」
「いや、気にすることはない。私たちがこのような時間に来たのだから迷惑をかけているのはこちらだ」
すぐに上手い返しが思いつかず、レイシャは言葉ではなく微笑みを返した。
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