11「赤ちゃん」
「またヤッたのね」
「申し開きもない」
俺たちは健全な男子と女子なのだ。一度セッ〇スの快感を覚えてしまったら何度もしたくなってしまう。これでも抑えて抑えて、他の行為で欲望のガス抜きをした結果がこれなのだ。一か月で猫の数は五匹まで増えていた。
「マカロンにブリュレ、カヌレ、オラン今度はキナコね」
「なんで和の食材なんだ?」
「しょうがないでしょ。三十まで増えるなら見分けがつくように名付けなきゃならないんだから」
「……本当にすまんかったっ!」
「咲はうれしくないの?」
「限度ってもんがあるでしょ!」
そのうちここは猫島になる予定だ。今のところ妊娠の気配はない。俺はいつでもパパになる覚悟はできているぞ。
しかし予想外なことが起きてしまった。
「……咲」
「あれ?友梨佳は?」
「落ち着いて聞いてくれ」
「……なによ?」
俺の深刻そうな顔を見て嫌な想像をしたのか咲の表情はこわばった。
「赤ちゃんが生まれた」
「は?意味わかんない」
「俺も混乱してる」
「とりあえず行くわよ。見てみないことには始まらないもの」
今まで通りなら十一匹目の猫が生まれるはずだった。
「静かにな、泣き止んで寝たところだから」
「分かったわ」
俺たちは静かに友梨佳に近づいた。
「なっ……!」
「しっ!」
「っ……」
「確認したら離れるぞ」
この赤ちゃんはおそらく人間ではない。赤ちゃんにしては顔が整いすぎてる気もする。だけど体温があり、呼吸をし、さっきまで泣いていて今は眠っている。
「パッと見て普通の赤ちゃんなんだけど違和感を感じるわ」
「ああ、どこか偽物染みている」
「それでお尻の穴はあったの?」
「……なかった」
猫を含め、ここで生まれてきたものは肛門がなかった。
「なら確定ね」
「……」
「どうしたの?」
「友梨佳がさ、あの子を育てたいって言ったんだ」
「……気持ちは分かるわ」
「だよなぁ。ニセモノなのにさ、俺も見捨てるなんて考えたくないもん」
「ここにきて半年後に猫とか赤ちゃんが現れたのはそういうことだったのかなぁ」
「ん?」
「だってここにきてすぐなんてあたし荒れてたじゃん」
「あー」
「多分大切に出来なかったんじゃないかなぁ」
「ふぎゃああああああああああああああああああああああああ」
「「!!!!」」
赤ちゃん起きちゃった!
「あたしが替わるわっ!」
「……お願い」
「そっとな」
「大丈夫。赤ちゃん抱いたことあるから」
咲は赤ちゃんの首に腕を当てるようにし、包み込むように抱きかかえた。その時俺は変わったことに気が付く。
「あっ!お尻の辺り茶色くなってるぞ!」
「えっ!?お尻の穴なんてないからウンコなんてしないんじゃないの!?」
むしろ前も何もついていない股間がツルツルな赤ちゃんだ。それでも不思議なことにインクで染めたように茶色くなっている。
「もしかしてこれはキレイに洗うんじゃないか!?」
「そうかも!」
「とりあえず試してみるしかないわね」
ずっと子守をしていた友梨佳には休んでてもらい、俺たちは泉に向かう。
「よーし今キレイにしてやるぞぉ」
「お風呂はお父さんの役割ね」
「ふぎゃっ!?」
「ちょっと冷たかったかな?でもキレイになったぞー」
「……ぐずっ」
「一応泣き止んだわね。龍斗、あやして落ちつかせなさい」
「慣れないけどやってみるか」
俺は咲にダメだしをされながら赤ちゃんをあやした。赤ちゃんはすぐに寝てくれたがこのあと何度も起きた。このあと俺たちは昼夜問わず子守に振り回される。
「ホント寝顔だけは天使よね」
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