9「自分のことのようにうれしい」

「遅いわよっ!!」

「悪い、悪い」


 あんまりいちゃいちゃしないように気を付けたけどそれでも時間が掛かってしまった。濡れた友梨佳ちゃんもやっぱいいわ。だって付き合ったばかりだもん。

 それに時計も予定もない毎日のせいか時間の感覚だって緩くなっているのかもしれない。


「ところで咲はなにがしたいんだ?」

「ここから出る手掛かりを探すのはとうに諦めたわ」

「なら神頼みってことか」

「ここに閉じ込めたのが神様ならとんだ悪趣味だと思うわ」

「俺たちは巻き込むなよ?」

「……あんたたちは本当に帰りたくないの?不便さによく我慢できるわね」

「不便でも慣れたかな。筋トレのおかげか体も締まったし、そこまで悪いことばかりじゃないな」


 しばらくはいちゃいちゃで忙しいしな。


「でも友梨佳は不便なんじゃないの?女の子だし」

「確かに不便だね。生理が来たらと思うと不安だし」

「あっ」

「龍斗、あんた女子のこと適当に考えてない?女の子はオシャレをしたいし、彼氏にかわいいって思ってもらいたいものよ?」

「うんうん」

「……」


 咲たちはケンカをする前、お互いの髪を整えたり眉毛やムダ毛処理をしながらおしゃべりをしていたらしい。確かに友梨佳ちゃんの腕には産毛が結構生えている。そういうところは彼女自身が俺よりも気にしているのだろう。

 それにしても桶とかハサミとかここに連れてきた奴は中途半端に俺たちに気を遣っている。今考えてみると協力して生活しろという意図が込められているのではないかと思う。二人にこんな話をしても無駄に不安にさせるだけだからしないが。


「それで咲はなにかしたいことかなにかあるの?」

「服かなぁ。やっぱり女の子らしくしてたいし」

「マジか」


 何もない状態から服を作るなんて相当大変だろ?草があるから一応繊維はあるわけだけど絶対難しいよな。がんばってくれとしか言いようがない。


「何かアテはあるの?」

「ないわ。布なんて作ったことないし、小学生のころ牛乳パックで再生紙を作ったことくらいしかない。でもそのくらいのほうがおもしろいでしょ?」


 むしろ時間が掛かるから咲は服を作るらしい。笑顔で俺らは好きなだけいちゃついてろと言われた。

 咲は目標を持った。お言葉に甘えて俺たちは続きをさせてもらおう。ただし約束はした、それは一日二回会うこと。集合場所は泉で朝は水浴びをし、夕方は食事をするときに会う。はじめどこかぎこちなかった二人は会うたびに仲が良くなっていた。俺も学校だったら絶対しない話で咲と盛り上がった。


「はぁ!?カレーを先に全部混ぜるなんて信じらんねぇ!」

「あんたこそ納豆カレーなんてマズいもの好きなんて信じられないわっ!」

「わたし甘口じゃないと食べれない……」

「そんな友梨佳ちゃんもかわいいよ」

「バカップル乙」


 時にパーティーゲームをしたり、服の制作状況を確認をしたり、俺たちなりに充実した日々を過ごした。



   □    □    □    □



 ここに来て半年くらいが経った。日付は馬鹿らしくなって数えていない。ちなみにここは全く季節がなく常に晴れていて適温、とても快適だ。


「ついに完成よっ!」

「「お~すご~い。おめでとー」」


 咲は念願の服を完成させた。とはいえ布を作るだけで限界だ。針もないのでさらしを一枚作っただけだ。


「本当に長かった……早く木の繊維を使うことを思いついていれば……」

「咲の苦労の結晶だね」


 繊維は強度と柔らかさを両立させることが難しかった。最初草の繊維だけで試作を繰り返していたのだが全然上手くいかず、やけになって実が実る木の皮を剥き始めた。木は翌日になると皮を削った跡が消えていて心配せずに試作を繰り返すことができた。


「本当にすごいよな。流石に綿とかウールとかの服よりもゴワゴワしてるけどちゃんとした服だもんな」

「自分の手で服を作っただけなのに涙が止まらない……」

「咲っ!」


 友梨佳は咲を抱きしめる。ホント、俺たちは家族みたいになったよな。

 咲が苦労していたことは俺たちはよく知ってた。色々な手伝いもしたし、失敗も進歩も共有した。咲の喜びは俺たちの喜びだ。

 半年も経てば色々なことが変わる。咲はかなり理性的に話ができるようになったし、相談することも多くなった。俺と友梨佳はお互いを名前だけで呼び合うようになった。もっといえば俺と友梨佳は色々な意味でさらけ出した。


 思い出話やお互いに自分をどういう人間か語ることなんて最初の一か月で済ませた。ではどういうことか?心も体もすべてを相手にさらけ出したあとには自分でも無自覚な面しか残っていない。友梨佳は俺の知らない面を見ることにハマった。

 どうやら俺はマゾの気質があるらしい。彼女の好奇心と熱を帯びた目にとても欲情した。毎日毎日時間はある。現代人では不可能なほど爛れた日々を送った。彼女のその一面はここに来たからこそ開花したのだろう。

 いつものように咲と別れ、二人で寝転んだ。


「咲、嬉しそうだったよな」

「うん、本当によかった。わたしも自分のことみたいにうれしかった」

「俺も」


 俺は覚悟を決めた。友梨佳の手を強く握り、腰を起こす。


「龍斗?」

「友梨佳。俺、決めてたんだ。咲の服ができたらお前に言おうって」

「うん」


 友梨佳は俺がなにを言うのかわかっている。


「結婚しよう」

「うれしい。じゃあ誓いのキスをしないとね」

「ああ」


 何千回もしたキスだけど夫婦での初めてのキスだ。そして俺たちは本当の意味で結ばれた。


「今日は赤ちゃんプレイはいいの?」

「あとでそちらもお願いします」


 ただベットの上では勝てそうにない。

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