8「いい加減にしなさいよっ!!」

 この四日間、俺と友梨佳ちゃんはずっといちゃいちゃしていた。キスは唇が触れるだけのものではないハリウッド映画ばりの激しいものになっていた。なにしろ時間はいくらでもあるのだ。勉強や仕事があるわけでもないし、サバイバルのように必死に食べ物を探すわけでもない。止める理由がなかった。


「最後までしたいけど……」

「……うん」


 しかしここには避妊具なんてものはない。最後の一線はお互いに超えるべきでないと話し合った。だがそれ以外は全部した。最初の気恥ずかしさはどこに行ったのか、二日目の昼間にはお互いのボルテージは上がり過ぎて壊れた。きっかけなんてなかったようなもの。俺たちは溶け合うように快楽を求めた。

 そんな俺たちの行為に水を差したのはもうひとりの住人だった。


「いい加減にしなさいよっ!!」

「「!!!!?」」


 咲は恥ずかしそうな顔で草の陰から叫ぶ。俺たちはこの生活ですっかりボケたのか彼女の登場に反応できずにいた。

 そういえば咲がいたんだった。


「あんたたちケモノみたいにずっといやらしいことばかりしてっ!もっと真面目にしなさいよっ!」

「…………。真面目って具体的になにするんだ?」(ずっと見てたのか?)

「……少なくともそんなだらしない生活なんて間違ってるわっ!」

「でもなぁ~働かなくても生きてけるしなー」

「せめてフツーにしたらっ!?」

「なんで咲は学校の先生みたいなこと言ってんだ?」

「……」

「おっ?」


 ゾウさんがこんにちはしてた、すまんかった。

 今は友梨佳ちゃんといちゃいちゃするのがすげー楽しいけど?リアル充実してすまんね、……なんて言ったら流石に刺されそうだ。


「あんたたち、ずっとこんなことしてるの?いつもの生活に戻りたくないの?」


 咲は真剣な顔で怒りの感情を浮かべながら俺たちにそう言った。どうやら咲は俺たちにイラついてるらしい。


「咲ちゃんが説教するの?」

「説教なんてする気なんてないわっ!でもムカついたのよっ!あたしが不安な時に、仲直りしないと、謝らないとって思ってるときにずっとサカってるなんてっ!」

「どのくらい見てたんだ?」

「おとといからよっ!!」


 覗きすぎだろ!?友梨佳ちゃんも引いてるしっ!


「咲ちゃん、わたし帰らないから」

「……」

「またあの教室に戻って影の薄い女になんてなりたくない。ずっと龍斗君とここにいたい」

「俺も友梨佳ちゃんと一緒にいたい」

「バカップル……」


 完全に流れで俺もずっと出ないことになってるぅー。いずれ責任を取る覚悟しないといかんなぁ。そういや謝罪するって言ってたよな?


「ところで謝るならきちんと謝った方がよくない?」

「……うん。友梨佳、ワガママばかりでごめんなさい。あたし自分のことばかりであなたのこと全く考えてなかった。学校での接し方もあたしは嫌だったヤツだと思う、あなたのやさしさに甘えてばかりだった」

「本当に自分のこと見つめ直したんだね」


 どうやら咲は友梨佳ちゃんに反省の気持ちが伝わったようだ。


「この数日間辛かった。誰かと話せないだけでこんなに不安で自分が嫌になるなんて……。だからお願い。また前みたいに仲良くなってくれない?」

「あたしは咲のことがうらやましくて嫉妬もしていた。でもさっき、咲が覗いているのを見て勝ち誇ってたの」

「「えっ!?」」


 えっちなシーン見られてて勝ち誇ってたのかよ!?


「あんた、本当はいい性格してるのね。今なんて全くおどおどなんてしてないじゃない」

「ふふっ、これからは対等な友達になってあげる」

「ありがとね、友梨佳。あんたは咲ちゃんなんて呼ばずに呼び捨てにしたら?」

「じゃあよろしくね、咲」


 こいつら男らしくね?


「ところで、咲。イチャついてるときに邪魔されてムカついたけど俺は俺でお前のこと忘れていた。だからおあいこってことでいいか?」

「忘れられてるとか言われるとムカつくんですけどぉ。……わかったわ。これからは仲良くしましょ?」

「わかった。ところでもうちょっと落ち着いて話がしたいから、俺たち水浴びしてきていいか?」

「あ~素っ裸で目のやり場に困ってたからそっちの方が助かるわ」


 あえて言わなかったけど俺たちイカ臭いしなっ。咲は泉の方へ戻っていった。


「大丈夫?無理してない?」

「大丈夫。龍斗君がずっと肩を抱いていてくれたから」


 でもちょっと無理をしたみたいで彼女の顔には疲れが見える。


「やっぱちょっと休もう、さっきまでピリピリしていたし」

「じゃあ充電しよっ♪」


 俺は今日、何十回目の唇を奪われた。キスはやっぱいいな。

 友梨佳ちゃんは子供のようにおどけてみせる。やっぱ俺にしか見せてくれない顔って最高だ!俺たちは少しだけいちゃいちゃして泉へと向かう。


「俺たちはもし元の世界に戻る手段があっても戻らないということでOK?」

「うん」

「それと一応仲直りしたけどこれからどうするかも決めないとな。どうしたい?」

「基本的には龍斗君と一緒にいる生活がいいけど……」

「まあくわしくは咲と話し合うか、話せる状態じゃなくなれば話し合い自体を伸ばしてもいいんじゃない?」

「そうだよね!時間はいくらでもあるんだし」

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