7「恋に落ちる瞬間」

「はぁーっ!疲れたぁーー!」

「あははっ♪おつかれさまっ」


 水遊びは水のかけあいからはじまり、虹作りになった。男女の戯れの水のかけあいはパシャパシャと緩くやっていた。だけど友梨佳ちゃんが虹が見たいと言いはじめた。テンションが上がっていた俺はその期待に応え、宙に水を打ち上げ続けた。


「綺麗だね」

「……」


 水に濡れて晴れた空の下、小さな虹を見上げる彼女。俺は女の子と付き合ったことはないけれど、なぜ夏休みに多くのカップルが誕生するのか分かってしまった。


「龍斗くん?」

「……ゴメンっ!」


 慌てて顔を背けた俺をいたずら気な笑顔で見つめる。こんなの恋に落ちないほうがおかしいだろ!?


「!!」

「やっぱり男の子だね。お髭がショリショリするぅ」

「……なんでそんなドキドキさせることしてくるかなぁ?」

「嫌だった?」

「そんなことない」

「耳まで真っ赤、かわいいね」

「……」


 あーヤバイ。完全に惚れちゃったわ。


「おなかすいたね。いこっ?」

「……」


 なんか今ならなに言われても、うなづきそうだわ。

 一日一回の食事の時間は全く味がしなかった。


「日が沈んできたね」

「……そうだね」


 このまま別れるくらいなら襲っちゃおうかな?そう思っていると彼女は


「今日は一緒にいたいなぁ」

「俺も……」


 俺たちは一緒に島の外側まで歩いた。


「えいっ」

「あっ」


 友梨佳ちゃんは白いモチモチにダイブした。


「となりにきぃてっ♪」

「うん」


 これは……マジで……?生唾を飲み込み、俺もダイブする。


「暗くなるまでお話しよっか?」

「うん」


 やっぱり明るいと女の子はね?


「手ぇ繋いでいい?」

「うん」


 おっ!?おっぱい!

 横目で友梨佳ちゃんがおっぱいを隠してないのが見える。ガン見しないように気を付けないと。


「恋人繋ぎ、してみたかったの……」

「友梨佳ちゃんは付き合ったことある?」

「ないよ。……わたし地味だから」

「……今日は楽しかったよ。今はすごいドキドキしてるし」

「えーっと?わたしのことどう思う?」

「女の子として好きだよ」

「告白されちゃった。わたしもだよ」


 お互いに目が合い、しばらく目を見つめあう。俺が少しだけ顔を近づけると友梨佳ちゃんは目を閉じる。俺は身を乗り出して唇を軽く重ねた。


「なんか不思議な感覚だね」

「俺は胸の奥が熱くなってるよ」


 情熱的な反応を期待していたけど、少し思ったのと違ったので俺は再び隣に寝そべった。空気を読んでブレーキをかけれた俺の選択はどうやら正解だったようだ。友梨佳ちゃんはすぐに寄り添って腕に抱きついてくれた。おっぱいが当たる感触を感じ顔が緩む。


「もっと龍斗君のことが知りたいな」


 家族のこと、小中学校のころのこと、サッカーのこと、将来の夢のこと、自分のことをいろいろ話した。話しているうちに陽が傾き、気が付けば地平線だけ光っていた。そうしているうちに緊張はほぐれた。彼女も処女だが、俺も童貞なのだ。このくらいの距離の詰め方がベストだと思う。


「へー小学校の低学年まではお父さんにサッカーを教えてもらってたんだー」

「最近は休みはずっとゴロゴロしてるよ」

「あーうちもそうだよぉ」

「太ってるから運動すればいいのにって思うわ」

「あははっ」


 友梨佳ちゃんは過去のエピソードをいくつか話してくれた。しかしそのうち話題は咲との関係の話になった。友梨佳ちゃんは高校に上がり、色々な女子と友達になった。咲はその一人だ。咲とは二人きりで遊ぶような仲ではなかった。でも二年生になって同じクラスになって同じグループでつるむようになったという。


「咲とは普段どういうことを話してたの?」

「流行りの音楽とかドラマとか、咲って流行り物好きだから」

「あーそれは昔からだな」

「わたしって特に趣味とかないから二年になって話が合うように調べて……。本当はそこそこいいなって思ってもすごくハマるものってなかったの」

「友梨佳ちゃんは周りに合わせちゃうタイプなんだ?」

「どちらかといえば……女子ってそういうタイプの子多いけど男子ってどうなの?」

「男子はそういうタイプは少ないかな。自分の意見ばっかり言うのは嫌われるけど」

「やっぱり普段男の子と話さないから意外だなぁって思う」

「そういえば前の勉強会はほとんど咲が喋ってたよね?」

「そっ、それは咲がうるさいのもそうだけど、わたしも緊張して喋れなかったから……」

「今は別人みたいに喋ってくれてる」

「ぶぅ~」


 ふてくされる彼女は今日一番の可愛さだった。

 俺たちはこの日キスと添い寝以上のことはしなかった。俺はなんとなく彼女がそれを望んでいるのを感じ、俺もこの恋がゆっくり実っていくのを楽しもうと思った。

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