3「バカには勝てぬ」
「それ、どうやって作ったんですか?」
「は?」
俺が夢中になって実を平らげたのを見計らって三上さんが話し掛けてきた。俺は最初なんのことか分からなかったが自分の体を見渡してようやくわかった。
「この腰蓑?」
「そうです」
「草を引き抜いて紐作って草をぶら下げてるだけだよ」
俺が歩き回ったところには背の高い草が生えていた。それを使った。腰蓑はチクチクするがそれでも少しは人間らしい格好ができることは大きい。彼女も咲も腰蓑には興味深々なようだ。
「咲。ちゃんと川村君に謝って」
人としてケジメはつけるべきである。人に何か乞うならなおさらだ。
「龍斗、ごめんなさい」
「なにが悪かったかもちゃんと言う」
「裸だからって酷い扱いをしてごめんなさい」
「ああ、許す」
咲とは幼馴染だ。だからこいつがガキなことを受け入れている。おそらくだが俺は男で裸、だから追い出す。自分たちもいっぱいいっぱいだから俺の状況なんて考えもしなかったのだろう。三上さんは咲に起こされて不安だった、だから咲の言うことが正しいと思い込んで視野が狭くなっていた。おそらくこんな感じだろう、と俺のなかで折り合いをつけた。
「ひとまず情報を共有しないか?ここは不思議なことが多すぎる」
「うん」
「はい」
まず俺の考察した内容を話した。ただし二人を不安にさせる『誰か』の意図が見えることは伏せた。
「……」
「……」
「不安になるのは分かるけどできることをしないとな」
「そうですね、それとわたしも気づいたことが一つあります」
「なんだ?」
「切った草が朝になると元に戻っていたんです」
「マジか」
それと咲と三上さんは泉で水浴びをしてたとき。地面は水浸しになったのに二時間もすると元通りになっていたそうだ。
「果物が自然に落ちるのも変です。まるでわたし達に食べさせるために用意したもののようです。異様に満腹感もありますしね」
確かにあの実はおいしかったけど不思議と腹は満たされている。彼女たちも昨日の夕方に実を食べたのに少しお腹が減っている程度らしい。
「そうそう、あの実をもう一つ食べたいなーって思ってたんだけど二回目は落ちてこなかったのよねー」
「それと不思議なものがありました」
三上さんが指を指すとそこには明らかな人工物があった。ちなみにまだ彼女たちは木に隠れている。
「桶に爪切り、ハサミ、それと眉毛用のハサミ?」
「泉があるから桶はわかるんだけどー。他は用意するならもっといろいろ用意してくれたらいいのにー」
「咲マイペースすぎない……?川村君、しかもこれ三人分あるんです」
怖っ!!俺たちを拉致ってきてから用意したの!?
話題がネガティブな方向に行っているので世間話をして無理して明るい雰囲気を作った。相変わらず木の裏で二人は隠れているけど大分リラックスした様子だった。
「これからどうする?」
「あたしたちちょっとやることがあるんだけど」
「三上さんも?」
「……はい」
女子にはいろいろあるのだろう。今の俺は不安を飛び越えてなるようになるしかないと半ば諦めている。でも元気が出てきたから少しでも女子と仲良くなりたいとイヤらしいことを少し考えてしまう。
「なら俺が腰蓑を作ろうか?」
「いいんですか!?」
「もうちょっと見て回りたいからね」
「ありがと、龍斗」
「ごめんなさい、ありがとうございます」
「咲はもう少し反省をした方がいいんじゃないかな?」
三上さんとはもうちょっと砕けたしゃべり方をしたいな。もしかしたらずっとこのセカイで過ごすかもしれないし。
□ □ □ □
昨日はあのあと腰蓑を作ってあげて、ちょっとおしゃべりしたんだけどやっぱ無理だった。うん、普通の高校生の男女がほぼ全裸で和気あいあいと話せるわけないよな。だからしょうがない。
俺は一人寂しく『島』の周りを回り、特に何もないことを確認した。夜は相変わらず地面が痛かった。
「おーい。おーい!」
声を近づくなら大きな声を出しながらお願いします。親しき中にも礼儀ありだからなこれは必要なことだ。
「おはようございます」
「おはよう」
「おっはよー」
一人元気な子がいるなぁ。咲が得意げな顔をしている。
「咲はどうしてそんなに元気なんだ?」
「ふふふっ、聞きたい?」
三上さんは大きな声を出さないで、というような顔をしている。お前はよ喋れ。
「昨日眠れなくてぇーそーいえば柔らかそうなのがあったなぁって思い出したのよ!」
「まさかっ!?」
「おい、バカ!昨日の話聞いてたのか!?」
あんな怪しいものの上で寝やがって。正真正銘のバカか?俺なんて触るのさえためらってたんだぞ。このセカイでいちばん怪しいのはあの白い空間だろ!?
「なによ?だってすっごいフワフワしてて気持ちいいんだから。それに土の汚れも朝起きたら消えてたしー」
「あなたバカでしょ?」
「さっきから二人ともバカバカうるさいわねー。だって地面の上で寝るなんて嫌だもん。それとも危ないからって今日も地面で寝る?」
「「絶対ヤダ」」
快適さには勝てなかったよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます