2「水」
「ぐぅー腹へったぁ……」
俺は裸らしき人影が見えたらすぐに引き返した。どうやらあちらも服は見つけれなかったらしい。何も目立ったものが見つけれないまま、気が付けば半日が経った。やはりここは白い空間に囲まれているようだ。咲たちがいる方向には大きな木が一本生えている以外、草花と土しかない。それとおおよそだが白い空間に浮くこの『島』は直径1キロにも満たないようだ。咲たちは中央にある木の辺りにいるらしい『島』を一周できた。
「暗くなってきたな」
この空間にも地平線はあるようで太陽らしきものが沈む。明日になったらちゃんと陽が昇って欲しい、とつい変なことを思ってしまう。
「暗くなったら本当にやることがないな」
月のようなものがうっすらとあたりを照らしている。俺は初めて今まで受けていた文明の恩恵を感じた。電灯もない夜の世界は本当に暗いのだ。動物がいるとは思えないが、風で草が鳴るだけでビクッと反応してしまう。俺は恐怖と硬い地面のせいでほとんど眠れなかった。
「腹が減ったな……このまま死ぬのか?」
昨日から水も食べ物も口にしていない。色んな意味でボロボロだった。咲たちのところに行くことにした。怒られようがなんだろうが死ぬよりはマシだ。それに秘密兵器も用意してある。というか寝れないから作業をして気を紛らわせていた。
手にしているのはお手製の腰蓑だ。野人みたいだが全裸よりは余程人間らしい。
「…………」
「きゃっ!?」
前触れもなく現れた俺に咲たちは慌てた様子だった。とっさに彼女たちは木の裏に隠れる。ここまで歩いて俺はさらにボロボロになっていた。
「……水も口にしてなんだ……助けてくれ」
思った以上に声が掠れた。それに答えたのは友梨佳だった。
「咲っ!!」
「……」
なにやら言い争っているようだ。その声が聞こえてきたが咲が裸の男の俺なんか近づいて欲しくないと言いやがった。友梨佳は俺に同情的なようだ。そして『水』という言葉が聞こえた。
「……あるのか?」
「木の裏側に来て!泉があるわ!」
「ちょっと、友梨佳っ!」
「川村君を見殺しにするつもり!?」
「そんなつもりは……」
おぼつかない足取りで泉まで歩き、慌てて水をすする。一度はむせてしまったが水は乾いた体に沁み込むように潤いをくれた。
気持ちが落ち着くと途端に咲に怒りが湧いてきた。あいつはすぐにこの泉を見つけたはずだ。それなのに俺にはここには近づくなと言い放ったきり連絡を寄越さなかった。
咲とは保育園が一緒だが特別仲がいいわけではない。あいつは昔から少しわがままなところがあって、テスト勉強の件も久しぶりに話しかけてきたと思ったら前置きもなく勉強を教えろとせがまれたんだ。三上は俺をかわいそうだと思ってくれたようだがあいつは許せない。
「咲。なにか俺に言うことはないか?」
「別に」
「咲っ!」
咲たちは相変わらず樹で体を隠してこちらを伺っている。その滑稽な光景と三上さんという味方がいるおかげで咲への怒りはかなり和らいだ。
「あと他に隠してることはないか?」
「……」
「果物ですっ!」
「食べ物があるのか!?」
咲への怒りなんか吹き飛ぶほど重要なことだ。
「三上さん、どこにその実がある?」
「あそこです」
彼女が指を指すと一つ、マンゴーのような黄色い実があった。実は大きな木の高い枝についている。
「君たちはどういう風にあの実を取ったんだ?」
「実の真下に来てください」
「?」
彼女の言う通りに真下辺りまで近づく。そうするとポトリと実が落ち、俺の手に収まった。空腹だからかその実は甘いだけではなく花のように何とも言い難い香りがした。そして本能的に我慢ができなかったのだろうか皮ごと齧りついてしまった。
「!!」
皮は少しだけ硬く苦かったがそれが気にならないほどの甘みとねっとりとした食感が口を支配した。実は喉を通り、あふれた汁を飲み干す。さっきたらふく飲んだ水がなければ口の中はベトベトだっただろう。それほどの糖度の高さを感じた。気づけは残りは3割ほどになっていた。まだ少し腹が空く感覚を覚え、残りを大事に平らげた。
しかしますます俺の不安は確信に変わる。このセカイは何者かの明確な意思でできている。ただ今のところ俺たちに牙を剥いてはいない。
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