酒吞まれた君は今日も可愛い

御厨カイト

酒吞まれた君は今日も可愛い



「ふぇー、たらいまー。」


「おかえりって、酔ってんね。」


「えー、全然酔ってないよ~。」


「うん、こりゃあ出来上がってるわ。ひとまず・・・はい、水飲んで。」


「ありがとー、君はホント優しいな~。」


彼女はふにゃとした顔でそう言う。


「はいはい、肩貸すからちゃんと歩いて。」


「は~い。」


「あぁ、もうフラフラじゃないか。ちゃんと肩もって。」


「分かってるよ~。」


そうすると彼女はなぜか俺にハグするように抱き着いてくる。


「ちょ、ちょっと何してんの?」


「えへへ、君可愛いね~。ギュー」


普段はこんなことしないのに珍しい酔い方をしているもんだ。


「よいしょっと、さぁ、お風呂入って。」


「お風呂?君が洗ってくれるなら入る~。」


はぁー、酔っ払いが。


「あ、ため息ついた。ため息ついたら幸せが逃げちゃんだよ~。ほらー、また幸せが逃げてるー。」


さっきからため息をついてばっかの俺の顔を見て、彼女はニシシと笑う。

こりゃ、風呂は無理そうだ。


「ありゃ、お風呂諦めちゃうの?」


「この様子だと流石に無理だからね。」


「えー、根性なし。」


「こんなに酔っていなかったら一緒に入るんだけどね。さぁ、服着替えて。」


「着替えさせてー。」


彼女はバンザイと両手を上に挙げる。

はぁー、またかよ。


「はいはい、ここに置いとくから自分で着替えてね。」


「え、いやだー!君が着替えさせて!じゃないと着替えない。」


なんか小学生を相手にしている気分。

まったく世話が焼ける。

だが俺も全く甘い奴だな。




*********




「えへへ、お着替え終わった!歯も磨いた!メイクとかも落とした!まぁ、全部君がやってくれたんだけどね。」


ふぅー、つ、つかれたー。

本当に子どもの世話をしている感じだった。


そう思いながら床に腰を下ろすと、いきなり後ろから抱き着かれる。


「えへへ、君の背中大きい~。」


「・・・どうしたんだ今日は。まったく、珍しい酔い方をしているね。」


「うーん、なんかねー、今日は君に甘えたい気分~。」


彼女はそう言いながら、ギューギューと力を込めてくる。


「うふふ、好き、好き、君のことだーいすき!」


酒の力と言えどもこんなにも甘々だと可愛いな。

普段のクールな感じも良いのだが、今の甘々な感じもとても良い。


てかこんな一面もあったんだな。

知らなかった。


「うふふ、好きー、好きー、えへへ、好きー。」


凄いとろんとした声で言ってくるから尚更可愛い。

だけどそろそろ寝かせなければ。


「はいはい、俺が好きなことは十分に伝わったから。そろそろ寝ましょうね。」


「えー、まだ寝ないー。まだ眠くないもん!」


「だとしても、明日もお仕事でしょ。そろそろ寝ないと明日起きれなくなるよ。」


「別にそれでも良いもーん。君に抱き着いていられるなら起きれなくても良いもーん。」


「そういうこと言わないの。いいからお布団に行くよ。」


俺は駄々をこねる彼女を抱きかかえながら、ベッドへと向かう。

俺が抱っこをしている間にも彼女はむぎゅーと抱き返してくる。

かわいい。


「よいしょっと、それじゃあ、はい、おねんねしましょうね。」


「まだ寝ないってばー。まだ君とお話しするのー、好きって言うのー!」


「お話は明日もできるし、好きって言うのは普段から言ってもらえると嬉しいな。」


「でもー、でもー。」


「でもじゃなくて、はい、寝るよ。」


「むぅ、それなら一緒に寝ようよ。」


「えっ?」


「一緒に寝よう。ほーら、となりに来て。」


彼女はそう言いながら、スペースを開ける。

ここで寝て欲しいと言わんばかりに。

今日は・・・仕方がないな・・・

俺はモゾモゾとそのスペースに潜り込む。


「うわぁー、隣に来てくれたー!」


「ちょっと狭いけどね。」


「えへへ、君のことホント好きー、好き―!」


そして、ギューと抱き着いてくる。

語彙力がふにゃふにゃなところも可愛いな。

俺もそう思いながら抱き返す。

俺のそんな姿を見てか彼女は「えへへ」と嬉しそうに笑う。


うん、温かい、そして心地が良い。

なんだか眠気が襲ってきた。

少しうとうとしながら腕の中の彼女を見るといつの間にかスゥースゥーと寝息を立てていた。


い、いつの間に・・・


ホント今日は珍しい姿を見ることが出来た。

なんだかそんな変な満足感に襲われたのか、自分もいつの間にか眠りの渦に飲み込まれていった。





*********






「忘れて」


朝、起きた自分に彼女は開口一番こう言ってきた。


「えっ?」


「だから昨日のことは忘れて。」


「昨日の事?あぁ、俺に好きとか言って抱き着いてきたやつね。」


「っっっっ!もぅ!言わないで!うぅぅ・・・」


彼女は真っ赤な顔を手で押さえて悶絶する。


「別に可愛かったけどね。珍しい姿も見れたし。忘れるにはもったいないよ。」


「いいから忘れて!お願いだから!もぅ、恥ずかしい・・・」


「ふぅ、分かった。そこまで言うなら忘れるよ。」


「ホント!?」


「でも1つ条件がある。もう1回俺に好きって言ってくれない?」


「な!?・・・昨日たくさん言ったんだから良いじゃん。」


「でも普段はあまりそういうこと言ってくれないじゃん、だからさ、良い機会だと思って、ね?」


「うぅ、欲しがりさんなんだから・・・。1回しか言わないからよく聞いてね。」


「個人的には1回だけじゃなくてもっと言ってもらいたいんだけど。」


「い、今は一先ず1回だけだから。ちゃんと聞いてよ。」


「分かった。」


俺はニッコリとした笑顔で彼女の顔を見つめる。


「言うのはすごく恥ずかしんだけど・・・。ふぅ、いくよ?」










「好きだよ」














  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

酒吞まれた君は今日も可愛い 御厨カイト @mikuriya777

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説