第2話 遭遇
「やあ久しぶりだねよる君の顔はいつ見てもつまんないね」
「それが毎日会っている人間にいうセリフとは思えないです」
「ははは、ごめんごめん第一声は多少のディスりを入れないと人とコミュニケー ションがうまく取れなくてねぇ」
「嫌なコミュ障ですね」
「ごめんねぇ悪気しかないんだ」
「やっぱ最悪ですね、ねむりさん」
これは夜散歩中の会話である。勿論独り言ではない。こんな時間に出歩く人間が僕以外にもう一人いるのだ。なんで僕がそんな人と会話しているのか。本当に意味が分からない。これは二週間前に発端がある。
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深夜いつも通りの散歩道を歩いていると鮮やかな金髪の女性が良く目につくようになったのだ。最初はこんな時間に女性一人で危ないなぐらいにしか思っていなかった。まあそういう日もあると思考から女性の存在を飛ばした。
しかし次の日も、その次の日もその女性がいるのだ。ねっとりとした視線を加えてである。誰にも会いたくない僕にとってすればその存在は害でしかない。渋々そのお気に入りの散歩ルートを変えることにした。
だが、散歩ルートを変えたその日にも同じ女性とすれ違った。その次の日にまた違うルートを行ってもすれ違う、これにはさすがの僕も恐怖を感じずにはいられなかった。
まさか深夜徘徊のし過ぎで悪いものにでも取りつかれたのではないかと散歩を終えてからもなかなか寝付くことが出来なくなってしまっていた。
そして恐怖におびえながら散歩をする日が続き、遂に転機が訪れた。その日はぽつぽつと雨の降る日だった。雨でもイヤフォンをして散歩をしていた僕は、また同じ女性とすれ違う事になる。
恐怖を感じている私は女性を視界から外そうと、曲を変えるふりの為にスマホをポケットから取り出したはずだった。ちょうど女性とすれ違うタイミングでスマホを地面に落としてしまったのだ。
呆然とした。本当にタイミングが悪い。
早々に拾おうとすると、それより先にスマホに女性の手が伸びた。そしてスマホを拾った女性を、かがもうとした体勢で見上げた僕は見上げた。なぜが女性は微笑を浮かべていた。僕は感謝の言葉を反射的に述べようとしたとき
「ありが・・「きみつまんない顔してるね」・・・???」
と、スマホを渡しながら言ってきたのだ。流石に驚いた。女性のその言動に。そして僕も初対面で恐怖していた存在、かつ女性に初対面からそんな事を言われたことはなかったから。ただただ固まってしまった。
創作作品ではこんな失礼な発言をしてきた人物には即座に「なんなんですかあなた」と返すところである。しかしながら、実際にそんなこと言えるわけが無いという事が分かった。ただただ呆然として固まるだけだ。そして思った。なんだこの人と。
早く立ち去ろう。今の至上命題はこれだ。幸いにも彼女はスマホを差し出してくれていたから直ぐに受け取り、僕はお礼もせずに足早に去ろうとした。そんな僕の背中、正確に言えば傘に、彼女は一言だけ、きれいで、だけど今にも消えそうな声で
「また明日ね」
なにがまだ明日だよ。二度と会いたくないよ。僕は苛立つ気持ちを抑えながらコンビニへと足を運び、帰路に就いた。濡れたスマホの画面は粉々で僕のメンタルも粉々であった。
次の日、眠れない不快さを抱きつつ新たなルートを散歩し始めた僕はすぐに昨日の女性に遭遇してしまった。なんでだろうか。怖すぎる。
ただでさえ眠れないストレスに加えて謎の失礼な女性との遭遇に頭痛がしてきた。この女性ストーカーか?それにしては失礼すぎる。思考が急加速し始めたが考えるのをやめた。くだらない。考えても無駄だ他人のことなんて。
早歩きですれ違おうとする僕の腕を女性は掴んだ。流石の僕も驚いて女性の腕を振り払った。そして問いかけた。
「なんなんですかあなた」
「なんなんだろうね。ところで君はなんでこんな時間に歩いているの?」
「え、あ、、あの質問に答えてください」
「まあまあそう怒らないでよ、怪しいものじゃないよ私は」
「それは怪しい人が言うセリフですが」
「確かにそうだね。けど本当に怪しくないんだよぉ私。そんなことより君少し私と会話しないかい?」
「嫌です。」
「そう残念だなぁ。仲良くないからかな?」
「そういう問題ではないんですけど、、」
「とりあえず話をしてもらえるように毎日話かけるね」
「やめてください。もういいです。さようなら」
そう言って僕は足を動かし始めた。そして昨日と同じように女性は僕の背中に一言。
「また明日」
どうしよう警察に相談すべきだろうか。しかし、夜中に散歩するのを止められるのがいいところであろう。まして相手は女性で僕は男だ。こっちのほうが遥かに怪しく感じるに決まっている。ああ最悪だ。早く帰ろう。明日からは散歩の時間もずらそう。
よるさんぽ 夜久巴 @doragonn911
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