世界はそれでもまわりゆく
第39話
――ゼンクルークとの闘いから2週間が経過した。
クルークカンパニーが行っていた悪行とゼン・クルークの思惑は世界中の人々に認知され、その凶悪さに誰もが困惑した。
リズ・カーライトを筆頭に、事態は次第に沈静化され、少しづつ世界は落ち着きを取り戻していた。
「よう、早いな!」
「フフ、折角の食事会だからね、待ち合わせより早く来てしまったよ」
「今日はリズちゃんの奢りじゃよ!盛大にやらんとな!」
リン達は都心のビルの屋上にあるお洒落なビアガーデンに来ていた。
先に到着していたリズとマクレイがにこやかに3人を迎える。
「さてと、まぁなんだ」
「?」
「乾杯って気分でもないが、大きな仕事を終えた慰労会ってとこだ!」
「今日はお前たちも色々全部忘れて楽しめ!」
「よっしゃー!」
「頂きまーす!」
シュウとリンは元気よく返事をし、一同は食事を始めた。
「んーぅ!美味しいねこれ!」
「あー、なんか生き返るわー」
「それは良かった、折角の機会だ、存分に生き返ってくれ」
「なんだそりゃ」
楽しそうな2人を眺め、ニッコリと笑みを浮かべながらリズは酒を口に入れる。
「はぁ、ワシもなんだか疲れたのぅ」
「次から次へと依頼をこなしてもらって助かったよ、アンタもたまには頭を休めてくれ」
「そうじゃのぅ、何も考えずに飲むなんて久しぶりじゃ」
「無事に終わってよかった」
安堵のため息をつくマクレイに、バロウは酒を注ぎながらほほ笑む。
「怪我の具合はどうなんだ?少しは良くなったか?」
「まだ少し違和感がありますけど、傷はもう治ってますし問題ないですかね」
「そうか」
5人は食事を満喫しながら、近況報告を交え会話をしていた。
――「あの、お父さん達は・・どうなったんですか?」
不意に口を開いたリンに、少しの沈黙が流れるが、リズがすぐに返答する。
「ゼン・クルークについてはこれから更に余罪を追及していくところだ」
「色々と悪事を重ねていたからね、これからしっかりと罪を償わせる」
「そうですか・・」
「ジョーカーについては元々指名手配犯だ、罪だけで言えば一番重いものになる」
「クイーンはなにかそれほど重い罰が下るという感じではなさそうだな」
「元々ゼン・クルークに加担はしていたが、調べてもそこまで大きな犯罪歴があるわけでもなかった」
「会社自体はどうなったんだ?」
考え込むリンの横でシュウがリズに問う。
「倒産、という事にはならなかったよ」
「何しろ規模が凄まじく大きい、世界中のセキュリティを担っていたのは紛れもない事実だ」
「いきなり無くなっては、困る人たちも当然でてくる」
「確かにな、ヒューマノイド達に関する技術は間違いなく世界一だ」
「ゼン・クルークが社長の座を降り、これから新しい社長が就任するそうだ」
「後任できる人材がいたのか」
「あぁ、しかもその人物はゼン・クルークのやり方に疑問を抱いていたらしくてね」
「今回の事件についても殆ど悪事について知らなかったようだ」
「ようやくこれからまともな会社として再起を図れるだろう」
「なるほどな、こんなことがあっても世界は動き続ける、か」
バロウはリズの話を聞いて少し遠い目をしながら語った。
「君たちにも、これからも動き続けて貰わなければならないよ」
「政府と警察の決定で、対デジタル問題の特殊部隊を設立することになった」
「まだ正式名称は決まっていないが、君たちにはそこの第一人者として部隊を引っ張ってほしい」
「はぁ・・まぁ望まない形とはいえバグが公になっちまったからなー」
「特殊部隊って、そんな大層なもんじゃないけどな、俺達」
「うーん、大丈夫かな?」
少し戸惑う3人にリズは続ける。
「勿論、今までより更に良い待遇を保証しよう」
「今まで影から世界を支えてくれていた事もある、君達にはなにか勲章を授与しないとな」
「おいおいマジかよ、勲章はともかく給料あがるのか!?」
「え!?ホント!?」
お金の話が出た途端にはしゃぎだすリンとシュウ。
「そんなにはしゃぐなよ、みっともないぞ」
「だってだって!お金がいっぱいなんだよ!?いい事だよ!」
リンの反応を見て、リズは思わず吹き出す。
「ぷっ・・ははは!」
「君たちはもう少し威厳を持った方がいいな」
「給料が上がった程度ではしゃいでいてはキリがないぞ?」
「全く・・まだまだ子供だな」
楽しそうなリズとは裏腹にバロウは呆れ顔だった。
それからも楽しい時間は続き、5人の顔には取り戻したように笑顔が絶えなかった。
――食事を終え、リンは屋上の外側で手すりにもたれながら都市の景色を眺めていた。
そこに、コーヒーを手に持ちながらシュウがやってくる。
「やっと終わったな、全部」
「うん」
「どうしたんだ?考え事か?」
「ん?いや、大したことじゃないけれど」
シュウはリンの顔を見ながら、コーヒーをすする。
「やっぱりどんなに進化しても、完璧なんて、存在しないんだなって」
「どんなに便利になっても、どれだけ完璧に見えても」
「この世界は不完全、この世界を嫌いだという人だっていっぱいいる」
「次々に不満や問題は出てくる、それはきっと人が人である限り、ずっと」
「そうだな」
シュウも景色を眺めながら、リンの言葉に耳を傾けていた。
「だからこそ、私達は戦っていかないといけないんだね」
「人間だから、助け合って、支え合って」
「俺達は、俺達にできる事をやらないとな」
「うん」
「機械で世界が覆われて、不完全で、問題もいっぱい」
「自分を見失いかけたこともあるけれど、それでも私は・・」
リンは少し身を乗り出した。
「私はこの世界が・・この景色が、好き」
爽やかな笑顔で、リンはシュウに向かってそういった。
「そうだな、俺も、同じ気持ちだ」
シュウもニッコリとそれに答えた。
「おーい、デザート頼むぞー!」
「はーい!」
バロウに元気に返事をすると、2人はテーブルに戻っていく。
遠い未来で、今も変わらない日差しの中、彼らの日常は、それでも前へと進んでいくのだった。
電脳帰葬少女 瑠璃 @RURIKUN
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