最後の戦い

第38話

 ――「ほう全員来たのか、存外優秀じゃないか」


 大きな窓から外を見下ろしていたゼン・クルークがこちらに振り向き、テーブルの前まで歩く。


「お仲間は全員取り押さえた、後はあんただけだよ」


「仲間?そんな風に思ったことは一度も無いがね」


「ただの駒だってか?まぁいい、これで最後だ」


 バロウは言葉をかわしながら体勢を整える、リンとシュウもそれに続いた。


「どれだけ君たちが抗おうと、私一人いれば結果は変わらない」


「ナルシストだねぇ、まぁいいアンタを捕まえて結果を変えるだけさ」


「私を捕まえるか、その意気込みの方がよっぽど自信過剰に聞こえるがね」


「どっちが口だけかはっきりさせようぜ」


 シュウはゼンを睨みつけ武器を構えた。


「いいだろう」


 ゼンが少し手を動かすと、体の周りにいくつかのピストルが作られこちらを狙う。


 一斉に発射されるが、リン達は全員左手を前に出し盾で防ぐ。


「盾か、小細工にしては随分いい物だな」

「ならその盾ごと粉々にしてやろう」


「やってみな!」


 シュウは一気にゼンに駆け寄り武器を振り下ろす。


 ゼンはデジタルの壁を作り出し、シュウの攻撃を防ぐと今度は大きな槍を何本も作りだしシュウに飛ばす。


「!!」


 シュウは咄嗟に後ろにさがりながら最初の槍を躱し、後半の槍を盾で防ぐ。


 しかしその槍の威力はピストル以上で、盾にヒビが入ってしまった。


(消耗させるにはとにかく絶え間なく攻撃しないとな)


 バロウはシュウが攻撃を躱したのを見て入れ替わりにゼンに突進する。


「そんな事で私に届くと思ったか?」


 ゼンは壁を作り出しバロウの攻撃を防ぐ。


「オラァ!」


 バロウは壁に拳が当たると同時にグローブに電流を流す、すると、壁はポロポロと崩れ落ちた。


「フン、それでなにになると言うんだね?」


 ゼンは新たに作った壁をバロウに向かって突進させ吹き飛ばす。


「グッ!」


 大きく吹き飛んだバロウに、今度は槍を飛ばし追撃する。


「バロウ!」


 そこにリンが割って入り、盾を使って攻撃を防ぐ。


 途中で盾は壊れるが、リンは残りの槍を刀で撃ち落とした。


「ふぅー・・」


 攻撃を防いだところで、リンは大きく深呼吸した。


「ありがとなリン、助かったぜ」

「俺の盾はまだ残ってる、そっちは盾がチャージするまで無理するな」」


「うん」


 ポンッとリンの肩を叩き、再び前に出るバロウ。


「少しは力の差がわかったかね?」

「君達では私に触れることも出来ない、何をしても無駄だ」


「はぁ・・ナルシストもここまでくると大したもんだな」


「ははっ、確かに」


 ゼンに嫌味を言うバロウにシュウはくすっと笑った。


「事実を述べているだけだ、君達になにができる?」


「まぁ見てろって!今から己惚れたおっさんの目を覚まさせてやるからよ!」


「・・・・」


 ゼンは不機嫌そうにシュウを見ながら、新たに槍を作り出し一斉に飛ばす。


「ほーら!当たんねぇぞ!」


 シュウは走り回って槍を躱しながらゼンを煽った。


(いいぞシュウ、うまく力を使わせてる)


 バロウは再びゼンの懐に走り込み、攻撃をしかける。


「無駄だというのが理解できないのか?」


 ゼンはその攻撃を壁で防ぎ、先ほどよりも沢山の槍をバロウに向かわせる。


 バロウは後ろに下がりながら槍を盾と拳で捌いていくが、防ぎきれなかった槍が腕をかすめ、血が流れる。


「チッ・・少し食らったか」


(私も、行くよ!)


 今度はリンが走り出し、一気にゼンに切りかかる。


 ゼンはまた壁でそれを防ぐが、ここで先ほどまでとは少し違う現象が起こる。


 攻撃を受けた壁が、受け止めただけでヒビが入ったのだ。


(切りかかっただけでヒビが入った!?)


「ほう、なかなかいい攻撃だな」


 槍を作り出しリンを狙うゼン。


 リンは後ろに身を躱し、飛んでくる槍を避ける。


「逃げても無駄だ」


 更に大量の槍で追撃するゼン。


「おっと、やらせねぇよ!」


 大きく武器を振り下ろし、槍を撃ち落としながらシュウが割って入る。


 後続の槍を盾で防ぐと、呼吸を整える。


「そろそろだな」


 小さな声でシュウが呟くと、バロウとリンも顔を見合わせ頷く。


(さっきヒビが入った時、私の攻撃が強くてヒビが入ったと勘違いしてた)

(自分が疲れてきて出力が落ちているのに気づいていないんだ)


「リン、俺が引き付ける、追撃は任せるぜ」


「了解」


 ゼンは釈然としない表情でこちらを見ている。


「なにがそこまで君達を動かすのかね?」


「さぁな、ただ、てめーの思い通りにしちゃいけねーってのはわかるぜ」


「世界が私の支配下になれば何一つ不自由のない、苦痛もない世界になる」

「それをわざわざ拒む理由がどこにあるというんだ?」


「苦痛がない?ハッ嘘つけ、洗脳されてるだけじゃねーか」

「痛くても苦しくても、人は前に進まなきゃいけねー」

「だからこそ楽しい世界がやってくる、人の世界は、どれだけ進化しても人が作るもんだ」

「てめーの支配なんて、まっぴらごめんだね」


「くだらない綺麗ごとだな」


「いいんだよ!綺麗ごとを形にできるように生きればな」


 シュウは武器を構え、大きく深呼吸した。


「これが俺たちの意志だ!」


 そういってシュウはゼンに向かって駆け出した。


「くだらん」


 ゼンは大量の槍を作り出し飛ばす。


 シュウは左右に避けながら突進を続ける。


 ゼンに近づいたところで、待機していた槍が一斉にシュウに向かう。


(避けれねぇな、上等!)


 シュウは左手を前に出し、盾を展開しそのまま突っ込んだ。


 盾はいくつか槍を防いだが、途中で砕け、残った槍がシュウの腕やわき腹に刺さる。


「クッ・・」

「行け!リン!」


 痛みに顔を歪めながらもシュウはリンに声をかけ、マクレイの作ったジャミング装置をゼンに向かって投げる。


 リンはシュウの陰から飛び出し、走りだしだ。


 装置がゼンの足元に転がると、システムが起動し周辺にモヤがかかる。


「なんだ?これは・・」


 その時、ゼンの視界がぐらっと揺らぐ。


 ブースターがシャットダウンし、それまで疲労が一気に体に流れ込む。


(なんだ・・体が・・)

(電脳が・・起動しない!?)


 ハッっとしたゼンが前を見ると、リンがこちらに走り込んで来ていた。


「ハァァァァ!」


 掛け声と共にリンは勢いよく突きを繰り出し、刀がゼンの体を貫く。


「ぐふっ・・ぐおぉぉぉ!!?」


 急所は避けているものの、突然の激痛に悶えるゼン。


「ハァ・・ハァ・・」


 リンは呼吸を荒げながら、目の前で苦しむゼンを見て後ろにたじろいだ。


 だらだらとゼンの顔に汗が滴る、電脳は復旧したようだが、痛みでうまく制御できないのか頭上に形にならないデジタルがノイズのように浮かぶ。


「終わりだよ、お父さん」


 リンはとても悲しい顔をして、ゼンを見ていた。


「ふざけるな!こんなことが・・こんなことで!!」

「お前たち如きに、この私が!?」


 痛みに悶えながらゼンはリンの事を睨みつけていた。


「ふざけるなぁぁぁ!」


 声を上げ、力を全力で振り絞るとゼンの頭上に一丁のピストルが形作られる。


「リン!」


 それを見たバロウが咄嗟にリンに駆け寄りかばうように抱きかかえる。


 パァン!と引き金が引かれると、その銃弾はバロウの左肩に当たった。


「ぐっ・・!」


「バロウ!」


「大丈夫だ・・」

「それより、終わらせよう」


「うん・・」


 リンはバロウの顔をみて少し呼吸を整えると、ゆっくりゼンの元へ向かった。


「くそ!くそ!」


「もうやめようお父さん、そんな力、まやかしだよ」


 リンは刀をゆっくりとゼンの体にくっつけ電流を流す。


「がはっ・・」


 ゼンは気を失い、その場に倒れ込んだ。


「ふぅー・・イテテ・・終わったな」


 シュウが声をかけると、リンはその場にぺたんと座り込んでしまった。


「お父さん・・やっと会えたのに」

「こんなのってないよ・・あんまりだよ・・」


 リンの頬に涙がつたった。


 バロウはリンをそっと抱きしめた。


「これで全て終わりだ、後は警察に任せて帰ろう、俺たちの家に」


「うん・・うん・・」


 ――クルークカンパニー本社前、逮捕されたゼン・クルークをはじめとする幹部達が警察車両に乗せられ連行されていく。


 後から出てきたリン達3人を、現場に駆け付けたリズ達が迎えた。


 それぞれが大きな怪我を負い、治療のため救急車に乗り込む。


 ゼン・クルークの逮捕、この日の出来事は後に語り継がれていくほどに大きな事件となる。


 その大きな悪意は世界中の人々に認知され、この事件の正当性が認められるのにさほど時間はかからなかった。

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